声変わり
「えっと…なら、」
僕が色々迷いながら言いかけたところで、後ろから冷たい手が伸びてきたかと思うと僕の手ごと携帯を掴んだ。
「残念だけどそれは無理ー。
君には山梨の扉の近くに居てもらわないといけない。」
「山吹…っ!!?」
グレンも聞いたことのない声に驚き、山吹に目を向ける。
僕も振り返りたいところなのだが何故か山吹っぽい人物に頭を押さえられていて
振り返れないどころか全く首が動かせない。
若い青年のような声だが、確かに山吹だ。と、思う…多分。
このだるそうな喋り方をするやつが他にいなければ。
もう両親の方は大丈夫なのだろうか。
ドアを開けもせず急に後ろに現れたのはもう例の瞬間移動だと分かっているからツッコまない。
「…お、お兄さん…かな?」
戸惑ったみぃなの声が少し離れて聞こえる。
「オレがさっき説明されてた山吹でーす。」
「え…っ!」
みぃなの会った茜や他の思念体もみんな僕の祖父の声だと説明を受けたばかりのみぃなは混乱してしまう。
「東京の『たつやZ』の所を担当してた仲間が
人体の構造とかなんとかいう本見せてもらったらしくて、
全員自分の好きな声帯作れるようになったから。
これで前より個性でるでしょー。」
上機嫌に説明する山吹。
知識を共有できる能力の事は説明してあるので、みぃなも納得したようだ。
「ちなみに『たつやZ』のご両親お医者様なんだってさ。
敬介より将来有望だよー。」
余計なお世話だ。
「誤解とけたんなら茜がそっち行くからさ。
基本的に敵もあんたを攻撃したりはしないから安心しなー?」
と山吹が…多分諭してる。態度が微妙だけど。
「その…そういう事じゃないっていうか…」
まごつくみぃなの声がして、僕は手を振り払おうとするものの、その早紀の細い腕のどこにそんな力があるのかと訊きたくなる程強い力で固定されていてビクともしない。
「扉の側には常に関係者が誰かいないといけない。
残念だけど無理だ。」
初めて真剣な口調をみせた山吹に、みぃなだけでなく僕も黙る。
「じゃあ、後は茜と話してね。」
またいつもの調子に戻ったかと思えば、一方的に、しかも僕の意志を無視して通話を切った。
「ちょ…っ」
「京都には誰かいるの?」
僕の抗議の声を遮ってグレンが尋ねる。
「もう一人の継承者がねー。」
「え?」
僕はポカンとするが、 グレンは納得したようにアルバムに視線を落とす。
「一昨日会った女性は君の姉だったよ。」
「えええ!」
どうして一昨日扉の所に姉が行ったのか…。 僕の考えを読んだ山吹が言う。
「じいさんに頼まれたんだよ。
じいさんはうっすらだけど、何か起こるのを予期してた。」
僕は呆然とするばかりだった。
携帯がけたたましい音で鳴り響きながら手の中を暴れ回る。
開くと『†未玖†』からの新しいメール。
『さっきのやり取り全部みんなに伝わってるよー♪
蓬が今話してくれたから☆』
流石は思念体…その能力の便利さには感服する。
という事は説明を繰り返す必要は無いという事だ。
とりあえず、みんなにメールして電話番号を教える。
何かあった時に電話の方が早い。
もっとも、山吹がもっと協力的ならば一番早い連絡手段となるのだが。
けれどそれでは道具として扱うようで、気がひけるな。と考えを改めた。
たとえ相手がベッドで飛び跳ねる迷惑な子どもでも。
「まったく、目をはなしたらすぐ浮気か。」
思う存分跳ね回り、今度はベッドの下に潜り込みながら言った。
「浮気とかした覚えがないんだけど?」
色々ツッコミたいが、とりあえず短くツッコむ。
「早紀の事は、別にそんなんじゃないし。」
「オレは?」
間をおく事もなく山吹が言った。 しばしの沈黙。
グレンは黙って見ていたが、かすかに首をかしげていた。
僕はポカンとして山吹を見る。 これは…姉の好きなBLというやつだろうか。
それはご遠慮したい。
注目を集める当の山吹は、「んー?」と眉を不満気に曲げる。
そして心底不思議そうに言った。
「冗談になってないの?」
一体どこで仕入れた知識だ。 確実におじいちゃんではない。
「よもぎ。」
†未玖†の所か…っ!あいつ腐女子だったのか!
「卍亜紀人卍には通じたみたいなのになー。」
同じジョークをやったのか。 大阪の人間なのに鹿児島の少年にツッコミで負けてしまってすみません。 あっちはちゃんとした彼女いるから、そのネタやりやすかっただろう。
僕の見た目した思念体が彼女を見て「浮気してたの!?」とか言うんだろう…
僕の人格のイメージが酷い事になりそうで怖い。
「早紀にもやるか。」
山吹は僕が焦って止めるのを楽しみにしていたようだけど、
浅葱のキャラ的に有り得ないので止める必要もない。
そういえば、あれから早紀はどうしているんだろう。




