早紀サイド
「えっと、お母さん達に見つかったらいけないから、小さくとか、なれる?」
早紀は緊張気味な声で言った。
言われた相手、早紀が自室に入ると既にいた浅葱が、早紀の緊張していた理由をつく。
「ヌイグルミの真似もできるが、この姿でいいのか?」
「そっ、その姿で!」
浅葱はどうやら鈍いらしく、「何故だ?」とか訊いてきたけども、
赤くなってうずくまり、喋れなくなった早紀を見てようやく質問をやめ、ポケットサイズになった。
「声を自由に変えられるんだよね…?」
先程浅葱から声が変えられるようになった事を聞いた早紀がもじょもじょ尋ねる。
「敬介の声…とか…できるかな…?」
「同じ声では被るだろう。
まして、怪しまれたり気付かれたりしてはいけないなら、
ヌイグルミで電子音声の方がいいのではないか?」
合理的にと考える浅葱にはイマイチ理解できない。
が、目がうるんできた早紀に従い、敬介を真似た声にした。
「…君は昔の姫に似てる。」
「赤銅さん?」
早紀が立ち上がり、ベッドに腰掛け、ベッドの隅に浅葱も座る。
「昔の姫は赤銅ではなかった。
美しい深紅だった。
あの人間に会うまでは。」
「あの人間…?」
早紀が聞き返すと、浅葱は一瞬、言ってしまった…というような表情をしてみせたが、話を続けた。
「扉の封印の際、生贄になった敬介の祖先だ。」
現実味の無い、考えた事も無かった単語に思わず聞き返した。
「生贄!?」
浅葱はコクリと頷いた。
「雅人との約束だったのだ。
仲間を裏切り、罠に嵌め、自らも封印されるというのに
私達は幸せ、というのでは納得がいかなかったのだろう。
雅人は何の罪も犯してはいなかったからな。
やつはいつも宿主が衰弱死や自殺などをする前に乗り換えていた。」
早紀は言葉が出ずに、ただ視線で話の続きを促した。
「だから姫とあの男は、雅人ならば話をわかってくれるだろうと思い、
交渉しに行ったのだ。そして雅人は承諾した。
封印する為には生贄が必要だと姫に教え、姫はそれを信じた。」
淡々と話す姿からは感情が読み取れない。
「けれど、生贄が必要というのは嘘ではないが、
なくとも封印する術があったという事が後に分かった。
姫はその事を悔いて己に呪いをかけ、酷くくすんだ赤銅色になった。
その後悔が、姫様の人間ごときを助ける理由だ。」
淡々とした口調は相変わらずだが、浅葱の表情は苦々しいものだ。
「浅葱さんは、赤銅さんが好きなの…?」
「違う。」
言い終わるか否かの素早い切り返しに早紀が言葉をなくす。
「尊敬してきたのだ。ずっと。」
そう言い終わると同時に姿が見えなくなってしまった。
早紀は腑に落ちないながらも、今後この話をする時はより慎重に言葉を選ぼう…とだけ心に決めた。




