束の間の休息
「さて、俺のベッドはどれかな!?」
山吹がワクワクした声で、楽しみで待ちきれない!という幼稚園児のようなモーションまでつけて僕に尋ねる。
「いや、ないから。」
僕はグレンを連れて姉の部屋に向かいながら答えた。
「えー…敬介と添い寝かよー。」
「アホか!」
なんで早紀と添い寝!?いや、違う。中身山吹だ。
「勝手に入っていいのか…?」
グレンが珍しく戸惑ったような表情をして言った。
ああ、姉の部屋はそんなに女の子らしくないから気にしなくても…
言いかけて思い出す。
マズい、「薄い本」が置きっぱなしだったら終わる。
「ちょっと待ってグレン!
部屋片付いてるか確認してくる!」
叫んで、姉の部屋に極力部屋の中が見えないようドアを薄く開けて飛び込む。
ああいう姉をもつと大変だ…。
視界いっぱいに広がるアニメキャラのポスターに絶句しながら思った。
姉の部屋に入るのなんて何年ぶりだろう。
年が離れているから遊ぶ事も少なくて、あまり部屋に入った記憶がない。
一応整理されていたからポスターとかグッズだけ片付ければ終わりだった。
薄い本は全て持って行っていたようで安堵する。
「グレン、いいよ。」
駄々っ子と化した山吹をどう諭すか…と頭を悩ませていると、桐野さんが朗報を伝えに来た。
「山吹君の分、敬介君の部屋にちゃんと用意しておいたよ。
浮遊感のある特別仕様のやつ。」
無傷なところを見ると、母は暴れたりしなかったらしい。
「大丈夫だよ。」
僕の視線を読み取った桐野さんはそう言って笑ってみせた。
「スゲェー!俺!専!用!」
桐野さんの話を聞くなり矢の様に飛んで行った山吹の弾んだ声が部屋から聞こえてきた。
でも何だろう、声が近付いたり遠のいたり…まさか、揺れてる?
途端に嫌な予感がして自室のドアを開けた。
「まぁ急なことだし、予算とスペースの都合上…ね?」
ナルホド、見るまでもなかったが、ハンモックだ。
そして僕のベッドの真上にあるのは母親からの僕に対する罰だろう。
「うん!正解!」
山吹が親指を立ててグッドサインをして見せる。
ホント、いつ心を読まれるか分かったもんじゃないな。
「オレいいタイミングで落ちてやるから期待してろよな!」
なんでそんなに僕に嫌がらせするのが好きなんだコイツは…
落ちたらお前も痛いだろ…とか突っ込むより、実際やらせて、上手く避けて痛い目みせてやろう。と一瞬だけ考えて他の考え事に移った。
さっきの一瞬は能力のクールタイムだったはずだ。
今夜は真剣勝負になるだろう。と確信した。
結構のんきな事を考えてるな…と今になって気付く。
「必要な事だよー?」
山吹が寝方と落ち方を模索しながら言った。
「余裕がなくなると周りが見えなくなるから新しい発見や見方がなくなって、
一つの道見えなくなる。
大事な物が何だったかもわからなくなるんだってさ。
姫さんが言ってた。すごく後悔する事になるんだってさー。」
ほとんどの文末を"だってさ"で終わらせているけれど、山吹自身もその考えに納得し、賛同しているんだという事は見てとれた。
この幼児退行した言動は僕の為なのか。一番余裕がないから。
「ありがとう、山吹。」
ハンモックを見上げてお礼を言うと、驚いたらしく、少し目を丸めて、ふてくされたような表情をして顔をそむけた。
「いーえー。」
照れてるのかなーとか思うけどハンモックが思ったより高い位置にあってのぞき込めない。
これ…もし落ちてこられたら僕の内臓が口から出るんじゃないだろうか。
「皆、集まってくれ。」
「お父さん…」
反射的に声が萎む僕を見て、父親はちょっと困ったような顔になった。
「父さんは謝っても許すな。なんて教えてない。
過ぎた事を責め続けろ。とも教えてない。
失敗をして人に迷惑をかけたなら責任をとれ。とは教えた。
ええと、だから、…言いたい事わかるな?」
相変わらず最後がしまらないですね。と桐野さんが軽く笑って、父親もバツが悪そうな表情で笑った。
「俺には説教なんて、責任が重過ぎて向いてないんだよ。
教えたからには自分もそれに従わなきゃいけないんだから、
正直俺はそんなできた人間じゃないんだし。
あんまり聖人じみた事は言えねぇよ。」
「いい人に囲まれてるね。」
グレンが僕の横に来て言った。




