ゲームルール
「とりあえず敬介、お前は明日から学校を休む事にする。いいな?」
椅子が足りないので畳の間に座布団を並べ、上座についた父親が言った。
「うん。」
「早紀ちゃんには悪いが、彼女にも休んでもらう。」
「授業内容によっては監視がしきれないからね。
体育とか、いくら小型化できるって言ったって限度あるし。」
と山吹が続けた。
「でも、敵は僕たちには手を出さないって言ってなかった?」
詳しい内容は知らない両親は「そうなのか?」と聞き返す。
「まぁ、直接危害は加えない。
けど、友達に取り憑いて『扉を壊せ、さもないと自殺させる。』と言われたら?」
「…そんなの、家にいたって同じじゃないの?」
僕が尋ねると同時に、横でグレンがなるほど…と息を吐いた。
「僕達が知らなければ、脅される事もないって事か。」
え?
グレンの言葉の意味がわからず、僕の頭は停止する。
「そう。脅しにのらないよう、何も知らせない。
それがオレ達の護衛のやり方。」
山吹が真面目な表情でグレンに応えた。
気のせいだろうか…
「見捨てるって事…?」
部屋の温度が下がったのか、僕が青ざめてでもいるのだろうか、指先が冷えて力が上手く入らない。
責める権利なんてものはない。僕はただ呆然とする。
僕の発言に、誰からも否定の言葉はなかった。
「そんなの…
『やぁ。』
か細い僕の声をかき消して、幼い声が部屋中に響いた。
この声は知っている。
「雅人!?」
気がつくと、部屋には僕だけだった。
『悪いけど、簡易的な通信だから姿までは出せないよ。』
どこからともなく声がしてくる。
『君が追い詰められて頭おかしくなっちゃいけないし、
まだ途中経過だけど報告しにきた。』
「途中経過…」
『流石に一度裏切っただけに、信用は勝ち取れないから、
一部伏せたり脚色したりして素直に話したんだ。
君達を封印した奴の子孫が勝負挑んでるって。』
それは素直って言わないし、そんな強気な発言した覚えもない。
との心のツッコミは置いといて。
『ゲームをしよう。って事になったよ。』
「ゲーム?」
即座に聞き返すが、姿もないのでどこに顔を向けたらいいのやら。
『内容はまだ決まっていないけど、少なくとも今決まった分では、
1、ゲームの決着が着くまで、必ず誰も殺さない。
2、ただし、ゲームで負けたら扉の数分、つまり7人殺す。
ゲーム回数は扉から出た思念体の数。
僕も入れるとしたら11回だね。
最終戦はお互い勝利回数分を参加人数とする。
正統後継者だけは勝ち星がゼロであっても参加する事。
最終戦に勝った方が勝者。
3、君達が負けた場合、扉を壊して人間は永遠に奴等に従属する。』
一回でも負けたら7人死ぬ。その内容に既に物凄く重圧を感じているんだけど。
『これでも殺される覚悟でとりつけた条件なんだ、文句はなしだよ。』
雅人の言うのは本当だろう。
こんな勝負しなくても彼らが勝てるのは確実なのだから。
「奴等って…雅人は入ってないの?」
僕の疑問はその一点だった。
『当たり前だろ。
僕はどう考えたって君達サイドなんだから。』
どうしてそこまでしてくれるのか…疑問はまた一つ浮かび上がったが、
『じゃあね、もう時間だから。
とりあえず、引き籠もるのはやめた方がいいよ。
精神的に弱るといけないからね。』
最後の一文は優しい声色で、いたわってくれているようにも感じるのに、何故か怖いと感じた。
雅人が付け加えて説明してくれる。
『ゲーム結果以外で人を殺すことはしないから脅される心配しなくていい。
監視はいらないし、ゲームが全て終わるまで君達が扉を閉じることもしない条件だから、
扉のそばにいる必要もない。
人間は個人で何かに立ち向かおうとする時弱い。
集まって団結した方がいいんじゃないかな?君の先祖の例からして。』
その先祖の話、もっと詳しく聞きたいところなんだけど、雅人は『じゃあ時間切れだから、またね。』と通信を切った。
次の瞬間、瞬きをしたわけでもないのに景色は代わり、目の前にグレンがいた。
キョロキョロ辺りを見回したり、振り返ったりしているうちに左に90℃回っていたようだ。
グレンは驚いたようだが、ただパチクリと瞬きをしただけ。
「…雅人が、途中経過を教えてくれた。」
父親に向き直り強い声で訴えると桐野さん、グレン、山吹の表情が変わった。
けれど僕にとっての部屋の空気はさっきよりずっと温かい。
「誰も死なせずに済むかもしれない。」
僕は話しだした。
ーーーー
「ゲーム…ねぇ…。」
桐野さんが複雑な面持ちで復唱する。
人の命をかけてゲームをしようと言うのだ、良い顔などできるはずもない。
「でも、いつどれほど犠牲が出るかもわからないよりはマシだな。」
と父。静かな部屋では一言を発するだけで全員の視線を集める。
居心地が悪くなったのか、痒くも無い頭を掻く。気まずい時の癖だ。
「確実に何人死ぬか計算できる。
この条件がなかったら、それこそアイツ等のことだから人間への腹いせに
何人早く殺せるかで『ゲーム』しそうだし。」
山吹の言葉に、場の空気が一段と重くなる。
「ゲームに全然勝てなかった場合は、
敬介君一人で何人もを相手に最終戦挑まないといけないって事だよね?
いや、一回だって負けちゃいけないんだけどさ。」
と追い打ちのように桐野さんが言った最悪のケースに全員青ざめる。
僕一人で勝てる見込みなんてあるわけないし、それまでに殺される人数を思うとゾッとする。
空気が完全に凍ってマズイと思った桐野さんが話を変えにかかった。
「内容は追って報告、となると今出来る事は何も無い感じかな?」
そこでグレンが父に向き直る。
「あの扉や関係者について、調べても構いませんか?」
桐野さんと父は少し驚いた風に顔を合わせたが
「巻込んだわけだし…知る権利はあるんじゃないか?」
「扉を見張る人間が増えるのは僕的には好都合かなー。」
と意見が一致した。
「ありがとうございます。」
そう言うと音も立てずに立ち上がり、母の居る本やら巻き物の散乱した部屋に向かって歩き出した。
母がヒステリー起こしやすい体質なのを知らないグレンに説明せねばと僕も立ち上がる。
「心配しなくても落ち着いてるよー?」
山吹も続いて腰を上げながら言った。
「一応…もう一度ちゃんと謝っておきたいし…」
山吹が両頬に手をあてて 「わぁーお!真面目!」 と茶化してみせた。
――――― 母は本当に落ち着いていた。
僕を見る目も、この騒動が起きる前の様に静かで温かだった。
僕が不安になるのを見抜いて、見ていられなくなったという感じで、
「実を言うとさっきの話し合いの間、姫さんに
彼女が納得するまで諭してて貰ったんだよねー。」
山吹が体育座りで呟いた。
母が一通りグレンに巻き物の順や大まかな内容を伝えて出て行った後だった。
「浅葱に協力して貰ってさー。病院携帯ダメらしいけど、ちょっとだけ。
桐野さんの借りて。」
なるほど。 僕が納得している横で山吹は顔を膝の間に隠す。
「誰かさんが、便利だけど道具みたいに扱うのは嫌だとか
チョー良い人みたいな事言っちゃうからさー。
ちょっと親切にしてやろうかと思ってさー。」
照れてる。 顔は見えないけど、早紀は耳まで赤くなるタイプだからわかる。
声は青年だし、見た目は早紀だし、 でも、なんか物凄く可愛いと思った。
多分見た目がイヌ・ネコでも小学生でもおじいちゃんでも可愛いと思っただろう。
頭を撫でてやりたいような衝動に駆られたけど、早紀の見た目だし、中身男だし。
「ありがとう。」 とだけ言う事にした。
「撫でてくれたらよかったのにー。」
途端にいつもの調子に戻って山吹がアヒル口にして拗ねた声を出す。
「だから心を読むなよ!」
今度は僕が赤面する番だった。




