嫉妬
もう一つ、みぃなには気になる事ができた。
『レイア』という女キャラの存在だ。
ギルドは違うのだが、よく『敬介507』と一緒にいる。
だが、例の扉のメンバーにその名前はなかった。
―—ただの友達。
そう思う事にした。
思わないと、少しだけ息が苦しくなった。
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早紀に部屋に通されて、最初に目がいったのは、自分の荷物や茜を運ぶために先に戻っていた浅葱だった。
少し幼い頃なんだろう、みぃなより小さい敬介。
そして、ベッドで眠る茜は、隣にいる早紀の見た目をしている。
「どうして、茜や浅葱さんは、敬介や早紀ちゃんの見た目なの?」
疑問は言葉を吟味するより先に口をついて出てしまった。
「彼の祖父の記憶から、姿を模したからだ。
俺はぬいぐるみにしてもよかったが、
早紀が彼の姿でいろと言ったので、そうしている。」
浅葱は徹底して、敬介の名前を出さずに余計な事を言った。
「その声も…?」
数段低くなったみぃなの声は、抑揚を無くした静かなものだった。
「ああ。」
人の感情の機微に疎い浅葱は、それがどうかしたのか。などと首を軽く傾げている。
「や、やっぱり浅葱さん、ぬいぐるみにしてた方がいいね!
間違えたら良くないし!
私、喋るぬいぐるみとか怖いと思っちゃって!」
自室の枕元に懐かしのファービー置いてある女の台詞では全く説得力がない。
アレの方が結構怖いと思う。
通信が入ったらしく、浅葱が一瞬横を向き、またみぃなに向き直る。
「山吹から、パソコンで道頓堀の地図印刷しとけってさ。
下調べしといた方が良いだろうって。」
山吹も早紀の見た目だったが、茜とは正反対な印象を受けていた。
冷たい目の子。
「じゃあパソコン持ってくるよ!」
弾かれたように部屋を飛び出していく早紀の背中を見ながら、
確実に敬介を好きなんだろうと思った。
友達になれるかと思っていたのに、と希望が萎む。
彼女もライバルだとわかっているだろうし、それでも親切に、距離を縮めようとしてくれている事には感謝している。
でも、嫉妬や不安を押さえきれる自信はなかった。
愛想笑いはしたくない。
お世辞は言いたくない。
厳格だった父親の教育の賜物で、
みぃなは並ぶ者がなかなかいないほど、世渡りに向かない性格になっていた。
何一つ不満なく、毛程も後ろ暗い感情を持たずに築ける関係なんて、
この世の中にどれだけあるか。
だが、みぃなにとってはそれが人間関係、友達関係のあるべき姿だった。
早紀は持ってきてくれたかなり最近のモデルの薄型のノートパソコンを起動させると、
後は自分で出来るから。と距離を取りたがったみぃなに、
先程の事が気にかかってもいるのだろう、控えめに笑いかけて、
「困った事があったら隣にいるから呼んでね。」
と言って部屋を出ていった。
みぃなはインターネットではなく、見知ったショートカットのアイコンをクリックして、ゲームを起動した。
いつも見ているログイン画面。
パスワードがわからないので、ログインは出来ない。
だが、思った通りログイン時の手間を省く為、IDを記憶させてあった。
『reia407』
もう疑いは可能性じゃなくて、完全な確信だ。
みぃなは言葉を発するでもなく、画面に表示されたIDを見つめ、黙っていた。
暫くして、ゲームウィンドウを閉じて、道頓堀について調べはじめた。




