茜
そういえば、みぃなについているハズの茜の姿が見当たらない。
そう思い、辺りを見回した時、 みぃなのピアスが光った。
僕の何が反応したのか、刹那にピアスのビーズの一つが茜の擬態だったのだと確信した。
眼前のみぃなのピアスから、一粒のビーズが飛び出した。
濃いオレンジにも見えるビーズが、宙に浮いてからどんどんと大きさを増して、 遂には小柄な人の形になった。
勿論その見た目は早紀だ。
まさかビーズに化けているとは想像もしなかった。
現れてすぐ、茜はその場に膝をつき、そのまま前のめりに、へちゃりと倒れた。
「敬介さん、莉佳さんは普段はいい子なので、また落ち着いてから印象を決めてあげて下さい。」
突っ伏したまま、茜が寝言のように呟いて、
「ずっと敬介さんに会いたがってたんですから…。」
と爆弾まで投下して、 寝た。
真っ赤なみぃなと、真っ青な早紀。
周りも絶句。
こんな状況で放り出さないでくれ。
「じゃ、あ、私の家行こっか!」
ガバッと電気でも走ったのかというような勢いで立ち上がった早紀が、 みぃなの手をとり言った。
一瞬、みぃなの表情が歪んだが、はい。と小さく答えて頷き、 浅葱が茜も抱えて、
「先に部屋に戻る。」 と短く言って、姿を消した。
僕はこの急展開についていけぬまま、ポカンとしながら見送った。
特に山吹のさっきの態度が気になって、その横顔を見つめる。
「さっき話したろ、オレらは感情が足りなくて、
というか、元はあったのが削られてるんだけど。
過去が見れないって。」
心を読んだ山吹が、こちらを向きもしないまま話し出した。
「茜は望んだ過去を見るのが能力なんだよ。
5分だけだから細切れだけど、
莉佳…みぃなの過去を茜がさっき見せてくれた。」
「なるほど、それで彼女を見直したってわけだね?」
と桐野さんが納得した。
「んー…、ま、努力を認めたって感じかなー。」
意にそぐわないけれど、認めてやろう。という上から目線で渋々な声で山吹は呟くと、
「さて、休んでる暇ないよー敬介。
さっさとスキルアップしてかないと!
26日までに間に合わないよー?」
と話題をすり替えた。
例のPKの練習を指しているのはすぐにわかった。
「つっても姫さんは非戦闘員だったし、
敬介も戦闘できる感じになりそうとは思えないけどねー。」
姉と桐野さんが、うんうん。と首を上下に振る。
「それじゃ僕は闘えないわけ?」
僕は心底拗ねた声で言う。
「んー、ちょっと違う。」
大体あってんのかよ。
「確かに思念体との戦闘になったら、
ぶっちゃけ役に立たないし足手まといなんだけどー。」
そこまで言うか。
ジト目で見る僕に山吹は全く意に介さない様子で続ける。
「寄生されてる人間を助けるのには役に立つんだよねー。」
ここで両親も耳を傾けた。
「相手を思いやる気持ちっつーか、慈愛の精神?を持った状態で相手に触れて、気を送り込む。
そうすれば宿主の気力や生命力が持ち直して、奴等を中から追い出せるってわけ。」
桐野さんの家系にちゃんと伝わっていなかった、
セラピー的な事をするのかもしれないと言っていた、戦い方の本当のやり方が分かった。
「つまり、ヒーリングって事ね?」
と姉がまとめあげる。
「そうそう。
その代わり、相手の嫌だった事とかを知る事になるから、
精神的疲労が溜まりやすく、多用は出来ない。
って感じ。
思念体に戻してからじゃなきゃ君達も攻撃し辛いと思うから、
敬介は結構重要な役目だよ。」
なるほど、と合点がいくが、少し引っ掛かる。
相手に触れるって言わなかったか?
余裕ぶっこいたみたいに「慈愛の精神」を持って?
それって…物凄く危険なんじゃないか?
一歩間違えば無防備に敵の射程範囲内に入っていくのと同じになる。
「だから気功の練習するんだよー。」
なるほど…。
「ちなみに、千代さんは浅葱タイプだったみたいだね?」
千代というのは姉さんだ。
名指しされて、姉は鞄をゴソゴソし始めた。
鞄から出てきたのは、先の曲がったスプーン。グレンより少し角度が浅い。
山吹は、上出来。と満足そうに言うと、
「あと、みぃなは曲げるタイプだったよ。」
と付け加える。
「さっきも言ったけど、敬介の能力は精神的疲労を伴う。
肉体疲労と違って回復が厄介な上、
溜まり過ぎれば、ヒーリングしようとした時に、
逆に相手に飲み込まれる可能性がある。」
怖い事をサラッと言う。
山吹に欠けている感情って恐怖なんじゃないか、と疑った。
「他人事だからだよ。」
冷たい一言を間に挟み、話しを続ける。
「だから、なるべく人数いた方が良いんだ。
オレらは奴等と戦えないからさ。」
そういえば…
「それって何でなの?」
同じ思念体、超能力も持っているのに。
「同じじゃないんだよねー。
オレらって、どっちかって言うと生き物じゃなくて神様とか、
そういう類の存在でさ。」
……え?
全員が、いつの間にかリビングの入り口で廊下の壁に寄り掛かって聞いていたグレンまでが、
信じられない。という目で山吹を見つめた。
「でも、神様にもランクあって、
上の許可が無い限り、見守るだけしか出来ないんだよねー。
扉の件に関しては、ほんと姫さんの一存でやってる事だし。」
「今まだ変化出せてないのは沖縄の『卍亜希人卍』と、
岩手の『特攻隊長』だね。
東京の『たつやZ』が、敬介と同じタイプだったのは救いなんだけど、
残念ながら、あまりメンタル面強いタイプじゃない。」
僕より一コ下だしな…。
「だから、二人が違った場合、
多分敬介にほとんどの負担がかかる事になる。」
両親が渋い顔になる。
他の皆も、心配そうな表情をしている。
「ちなみに、『†未玖†』は?」
「佐賀の子は曲げるタイプだったね。
曲げるのと折るのは多いんだよなー、ブーたれちゃうよ。」
オレ、溶かすのが良かったー。と不満げにぶちぶち言う山吹。
「溶かすとかあるのかい?」
桐野さんがギョッとして聞き返す。
「あるよー。激レア。」
口をツンと尖らせながら言い返す。
「あと、オレに無いのは恋愛感情ね。
恐怖心が無いのは浅葱の方。
あと、姫さんは悲しみの感情が無い。」
と一息に言ったかと思うと、
「さぁ修行!
敬介はまず気功の特訓で最悪の場合でも自分の身だけは守れるようにしないと!」
ザッと立ち上がる山吹を見上げて僕が質問を投げ掛ける。
「最悪の場合?」
「ヒーリング出来るまでに至らなくて役立たずだった場合!」
力一杯に答えられて、泣きそうになった。
最初のゲームのステージである道頓堀は、地下鉄で数駅程度の所なので、下見に行きたいとは思うが、
カンニング不可。という理由で当日まで近寄る事も禁止されている為、ただただ修行するしかなかった。




