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裏切りの微笑み
現在――地下司令室の静寂を破ったのは、背後から聞こえた靴音だった。振り返るとそこには、長年行動を共にした仲間の一人が冷たい笑みを浮かべて立っていた。彼女の手には政府の徽章が光り、澪の胸に不安がよぎる。その瞬間、通信機から漏れた小さな音声。「ターゲット、確認」。
五年前――握手会の行列の中で、一人のファンが澪の手を握りながら囁いた。「裏切り者はいつも笑顔だよ」。彼女は意味を理解できずに微笑んだだけだったが、あの言葉は無意識の中に残っていた。今、その意味がようやく形を取る。
十年前――研究記録には、実験対象が誰に対してどれほど忠誠心を抱くかを測定する項目があった。ERSの開発者たちは、笑顔や涙がどこまで制御できるのかを試しながら、被験者の裏切りの兆候を追い求めた。ある研究者は警告した。「忠誠心を数値化するほど、裏切りは見えにくくなる」と。
現在――澪は相手の目の奥に、過去の無邪気な笑顔を見つけようとした。しかしそこに映ったのは、自らの意志でなくシステムに従う空虚な視線だった。彼女は苦悩しながらも、銃口を背負う相手に問う。「なぜ?」裏切り者は静かに微笑み、「これも任務だから」と答えた。その笑顔は、五年前の握手会で囁かれた警告そのものだった。




