再生の旋律
現在‑‑澪たちは、ERSの支配が及ばない古い放送塔に潜入した。ここから民間放送を乗っ取り、自分たちの曲を流す計画だ。雨に打たれるアンテナの下で、彼女はギターの弦をはじき、仲間たちと息を合わせた。新しい旋律が重なり、やがて空へと舞い上がる。
五年前‑‑ファンミーティングの場で、澪は最前列の少女に耳打ちされた。「あなたの歌で私たちは生きている」と。澪はそれを信じ、ステージ上で涙をこらえながら歌った。歌声に込めた真心が、人々の心の鎖を少しだけ緩めていたことを彼女は後から知ることになる。
十年前‑‑研究所では、感情アルゴリズムと音楽療法を組み合わせた実験が行われていた。数式と音符が並ぶ中、ある青年研究者は理論では説明できない現象に気付く。「音楽だけは、完全には制御できない」と彼は日誌に書き残した。そのページは血痕で汚れ、誰かの手によって破られていた。
現在‑‑放送塔から流れる澪の歌は、街中のスピーカーや端末に届けられた。人々は自然と足を止め、耳を傾ける。懐かしくも新しい旋律は、押し込められていた感情を呼び覚ます。泣き出す者、笑う者、怒りに震える者。感情の波が都市を包み込み、ERSの管理画面にはノイズのような波形が映し出された。澪の声は震えながらも透き通り、終わりにはこう呼びかけた。「あなたの心で、あなた自身の物語を」。




