信長と秀吉2
「ちょ、ちょっと待っていただけますか」
「そこまでしていただくのは大変申し訳ないです! このサル、上様の美しい安土城を汚したくありません」
秀吉は先ほど以上に芝居がかっていた。
「なんだ、ころころ変わる奴だな! まあワレも面倒だからソチが死なないというならそれでよいが!」
「それとな、先ほどから安土城とか言っておるが、この城は魔王城となった」
信長は刀をぶらぶらさせながら秀吉の前を歩いている。
秀吉は生きた心地がしなかった。
「魔王城でございますか! 素晴らしい!」
秀吉にとって魔王城というネーミングは違和感がなかった。もともと自らのことを魔王と名乗っていた信長が、自らの居城を魔王城というのは当然といえば当然だった。
「そうか! そうか!」
信長は嬉しそうだった。
「んっ? おれは助かったのか?」
秀吉は信長の表情をみて少し気が緩んだ。
「それにしても、光秀とやらを操って、あんなことするとは! キキよ、お前なかなか度胸があるな!」
信長はさらりと本能寺の変の黒幕が秀吉だと言ってのけた。
「・・・・」
あまりの直球で、羽柴秀吉でさえ、言葉が出なかった。
「何か言わなければ・・・・このままでは確実に殺される・・・・だけど何を言えば・・・・」
秀吉は数秒の間に、いろいろな言葉を頭に浮かべては打ち消した。どの言葉を発しても殺されると思ったからだ。
「キキよ!」
信長が言葉を発したとき、秀吉は全身から汗が噴き出ていた。生涯でこれほど恐怖を感じることは初めてである。
「その度胸に免じて、しばらくは飼ってやる。」
信長は自らの顔を秀吉の顔の数センチ前まで近づけた。
「ただし、この魔王に逆らった場合、死しても奴隷として永遠の苦しみを与えようぞ」
秀吉は信長の言った言葉が理解はできなかったが、この魔王に逆らおうという気持ちは全くなくなった。
「どさっ」
秀吉は震えながら頭を畳に着けて固まってしまった。
「・・・・」
言葉でここまで出世した男が、恐怖で一言も発することができなかった。
信長と秀吉のやり取りを聞いていた男がいた。森蘭丸である。
「まさか秀吉が黒幕だったとは! 確かにあの気の弱い光秀があんなことをするのはおかしいと思っていた」
「上様は、この裏切り者を本当に許されるつもりなのだろうか・・・・」
蘭丸は心の中で秀吉への怒りと信長への忠誠心の葛藤で心が揺れていた。本来ならば、この場で秀吉を成敗してしまいたい、しかし信長が許すというものを曲げるわけにはいかないと。
「キキよ! ワレが一番嫌なことは何かわかるか?」
信長は秀吉に尋ねた。
「い、嫌なことでございますか・・・・」
秀吉の声はカレカレである。いつもの秀吉ならば、このような質問には口八丁手八丁で答えていただろう。しかし今何かを下手に口走れば、命を落とすという恐怖で何も答えられなかった。
お読みいただきありがとうございます。




