蜻蛉切
「タヌキの横におる、そなた! なかなかやりそうだの!」
信長は家康の隣に控えていた本田忠勝に興味を持った。
「恐れ入ります、こちらは私の腹心である本田忠勝めにございます」
「私の配下ながら天下無双の武者でございます」
家康は自分の事のように嬉しそうに忠勝を褒めちぎった。
「ほう、天下無双か! いいだろう手合わせしてやろう!」
信長はとても嬉しそうに忠勝を誘った。
信長たちは庭にでて、立ち合いの準備をした。
「忠勝、くれぐれも信長殿に怪我などさせてはならんぞ」
家康は小声で忠勝に伝えた。
「たぬき、そんな気遣いは無用だ!」
信長は地獄耳であった。
「家康様、忠勝殿、上様のおっしゃるように全力でお相手してください」
森蘭丸が二人におかしなことを伝えた。
「蘭丸殿・・・・」
家康は動揺していた。
「では参れ!」
信長は槍を持ってはいたが、特に構えもせず、胸を張って本田忠勝を迎え撃つ格好だ。
「まいります」
本田忠勝は、遠慮して槍を打ち込んだ。
「はアーっ」
「バシッ」
信長は簡単に忠勝の打ち込みを払った。
「なんじゃ、その腑抜けた攻撃は! そこそこやると思って楽しみにしていたが、そんな攻撃を繰り返すようだと、タヌキの部下といえど容赦せぬぞ!」
信長は本気のようだ。
「ああああああああっ」
本田忠勝は、先ほどと違い全力で、槍を打ち込んだ。
「バシッ」
忠勝のもつ名槍蜻蛉切が信長の軽く払った攻撃で真っ二つに裂けた。
「な、なんと!」
これには、家康も忠勝も信じられないという表情で固まった。
「ま、参りました」
しばらく固まっていた本田忠勝は膝をついて頭を下げた
「うむ、なかなか良い打ち込みだったぞ」
信長は満足しているようだ。
「タヌキよ、よい配下をもっておるな」
信長は家康、忠勝二人を歓待するよう蘭丸に命じた。
3人は膝を付け合わせて、酒を飲み、笑いあった。
家康は明らかに以前と変わった信長について大いに違和感をもっていたが、当然のように、その場では全くそんなそぶりを見せなかった。




