第9話〜独占欲〜
挙句の果て、大輝は・・・
「・・・分かった。1ヵ月だけ振り回される身になってやる。」
1ヵ月という・・・短くも、長い期間付き合うことに決めた。
―――1ヵ月・・・たった1ヵ月、コイツの言うこと聞いたら解放される。美輝にも危害が及ばない。
・・・単純で、淡く脆い仮定をして。
そしてその日は、美久とメアドを嫌々交換して、解放された。
・・・この時大輝には、「解放」という言葉が神の言葉にも思えたのだった・・・
だけどその「神の言葉」は―――嘘つきで。
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ケータイの着信音が鳴り響いた。
「・・・今日何通目かっつーの。」
ボソッと、嫌味ったらしくそう呟き、渋々受信ボックスを開く。
『明後日旅行だねぇ〜♪
ねぇヒロくん、抜け出ししない〜?キャハッ(●≧艸≦)』
・・・文章を見た瞬間、彼の身の毛がよだった。
「抜け出すワケないだろ。馬鹿馬鹿しい・・・」
でも、1ヵ月振り回されている身。問答無用の状態。もちろん、OKしなけりゃならない。
大輝は、重い指を動かして・・・
『いいよ。』
その4文字を打つのに、どれだけの動力を使っただろう。
もしかしたら、リフティングを千回以上するよりも動力を使うかもしれない。
「大輝ぃ〜!バスタオル2枚な〜い〜!?」
送信ボタンを押そうと、また重い指を動かし始めたとき、無駄に慌てている美輝の声がした。
大輝はバッと送信ボタンを押し、ババッとケータイを背中の裏に回す。
そんな大輝の様子に、美輝は一瞬顔を顰めた。
「メール?大輝、メールなんてす・・・」
「バ、バスタオルか?だ、脱衣所の引き出しのいちばん上にありゅ・・・あるんじゃね?」
・・・大輝、テンパってるのがバレバレである。
美輝は「怪し〜い」と呟きながら、じりじりと大輝に近づいた。
条件反射的に、下がる大輝。
「誰にメールしてんのぉっ!?」
近づいた瞬間、美輝がバッと大輝の背中の裏にあるケータイを取ろうと背中に腕を回した。
大輝はそのケータイを右手に移して天井に掲げる。
「男友だよっ!」
「大輝友達なんていないでしょ!?」
何気に超失礼なことを言いながら、美輝は高く掲げられたケータイに手を伸ばす。
「ダチぐらいいるっつーのっ!」
今度は、左手にそれを受け渡す。(余程美輝に知られたくないらしい)
美輝も一緒に動く。
「遊びに行ったことないじゃないっ!父さんも心配してたよっ!」
「翔一郎さんは無駄に心配性なんだよっ!」
そう言いながら、また大輝が右手に移そうとした時・・・
ダダダダーンッ!
着信音・・・俗に言う、ヴェートーヴェン作曲の「運命」が鳴り響いた。
「・・・こんのKY野郎が・・・」
そう呟きながら、大輝はケータイを開ける。
画面を見ようと、美輝が動く。
「だから見んなって・・・」
「だって気になるんだもんっ!大輝の男子友達との会話っ!」
そんなにも、自分のことを気にしてくれたのか・・・という嬉しい気持ちは声に出さず、美輝に見られないように彼はケータイを回す。
その間に見た、本文は辛うじてこんな内容だった。
『わぁい♪やったぁ♪
旅行だし・・・ヤッちゃう?( ●≧艸≦)キャハッ』
こんな・・・おぞましい内容。
ヤッちゃう?発言のおぞましい気持ち。
美輝が気にしてくれたことの嬉しい気持ち。
メールを見られたくないという、自己中な気持ち・・・
たくさんの気持ちが交差して・・・大輝は、溜息を吐いてケータイをパタンと閉じた。
「・・・これ、男友じゃなくて彼女。」
「・・・え?」
美輝の顔が一瞬曇ったのは・・・大輝には、見えなかった。
「・・・そーなんだっ!おめでとっ!とうとう大輝にも春が来たかぁ♪」
代わりに、こんな言葉が大輝の耳に残酷に響く。
「旅行中にヤッちゃう?ってメール来たんだけど・・・ヤッたら犯罪じゃね?」
「・・・は?」
美輝は、思い切り顔を歪めた。
「それは自分や相手の所為で、法律には影響ないよ?」
「・・・なんで?ヤッたら犯罪じゃん。捕まらないとおかしいぜ?」
いつのまにか膝の上にいた美輝(ケータイを取ろうと暴れた為)は、いつのまにか大輝の横に座っていた。
そして、その言葉を真剣に聞く。
「・・・もしかして、大輝ヴァージン?」
美輝の真剣な問いかけにも
「んだよバンジーって。」
彼は結構本気でそう問うた。
美輝は溜息を吐いて・・・
「あのね、ヴァージンってHしていない人のこと。ヤるってHのことだよ?」
すらすらとそう述べる彼女の言葉に、まだ彼のハテナマークは消えない。
「ヤるって、殺るのことじゃ・・・」
「全然違う・・・」
あっさりと、否定された。
そりゃあ、殺ったら犯罪ものだ。
「・・・マジかよ。嫌じゃん・・・初経験が好きでもねぇヤツなんて・・・」
「・・・大輝、その発言女っぽい・・・とゆーか純情乙女だね・・・」
さすがに美輝は、大輝に呆れた。
大輝でも、“一応”高校生。それぐらいの知識ぐらい、身についているはずだとばかり、彼女は思い込んでいたのだから。
「・・・ていうか。なんで“好き”でもないのに“彼女”なの?」
「・・・」
「美輝を天秤にかけてる」・・・なんてことは言えない。
大輝は押し黙った。
「・・・まぁ・・・一種の脅迫?そんな感じ・・・」
「変なのぉ。付き合うのって、好きな人とするもんだよ?」
そう言い、美輝はよっこらせと腰を浮かせた。
「じゃ、私準備に戻るね〜」
美輝はそそくさと、脱衣所にバスタオルを取りに行く。
彼女の足音の余韻が消えた頃。
「・・・好きな人って、お前なんだって・・・」
それは・・・誰に言ってるのか分からない、八つ当たり。
伝えたいのに、伝えれない情けない自分に対しての自嘲。
―――時が経つほど、伝える術を失ってゆく。
『だいすき。』
幼い頃は、こんな言葉を毎日のように交し合っていたのに・・・今となっては・・・この有様。
『好き』『愛してる』『誰にも渡したくない』
そんな言葉の重みが分かってきたことの証拠なのか・・・
年を重ねる度、術を失ってゆく。
年と比例するように、術はどんどん姿を暗ませる・・・
比例は、オソロシイ。時に術を失ってしまうのだから。
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「・・・彼女、いたんだ・・・」
美輝は1人、誰もいない脱衣所の壁に凭れかかってポツンと呟いた。
好きな人と、付き合う。
そんな図式が、美輝の中でできている。
大輝は実際、そんな図式から外れているものの・・・恋人がいるとは、確か。明確である。
というか、美輝自身も・・・その図式から外れていた。
「大輝・・・ほんとにヤッちゃうのかな?」
大輝は、昔から“根は”優しい人だ。女の頼みは、聞かざるを得ないと思う。
その頼みが、犯罪であれ・・・最後には協力ぐらいするだろう。
そう自覚すればするほど・・・何かが美輝の中で込み上げてくる。
―――何?これ・・・
それは、『嫉妬』『哀れみ』『羨み』『独占欲』・・・何もかもが交差している。
何もかもが交差して、大輝という存在が浮き出てくる。
「大輝は、関係ないはずなのに・・・」
そう呟くものの・・・実質、関係あった。
『ずっと一緒』
そんな約束を交わした関係。
その約束は、おぼろげだったものの・・・嬉しかった。輝いていた。
―――何故?
同時に・・・哀しかった。手放してしまったから。
―――大輝は、関係ないんじゃないの?
関係と、引き離せない大輝という存在・・・
―――ドウシテ、ヒキハナセナイノ?
何もかも・・・自分では分からない。
「・・・なんでだよ・・・」
美輝はその場に泣き崩れた。
涙腺のせいで、滲む記憶の中・・・最終的にはっきりしている想いは
―――ハナレナイデ・・・ソバニイテ・・・―――
そんな・・・独占欲。
『比例×反比例』裏コント〜神楽大輝様ファンクラブ〜
作者「今日は、今後厄介な人物になる相楽美久さんにお越しいただきました!」
美久「・・・どーも。」
作者「・・・(素っ気ねぇ!)じゃ、早速質問。大輝のファンクラって何してんの?」
美久「・・・追っかけ。盗撮。」
作者「・・・(おっかねぇ!)じゃ、じゃあ、クラブのメンバーは!?」
美久「・・・約300名。」
作者「・・・(どんだけぇ〜!?)す、凄い人気だねぇ、大輝・・・」
美久「呼び捨てにすんなっつーの。馴れ馴れしい。超ムカつくし。」
作者「・・・(お前の方がムカつくし!)」
約300名のファンクラの会長、相楽美久。
今後の美久に、要注意してください・・・




