第9話 閉ざされた村
朝、ダミアンは薪割りを手伝おうとしていた。
「邪魔だ」
レイが言った。
「手伝う」
「いらない」
「そうか」
それでも帰らない。
「なんでここにいる」
「暇だからだ」
「帰れ」
「嫌だ」
レイは舌打ちした。ダミアンは気にせず薪を並べ始める。
◇ ◇ ◇
昼、ダミアンとリーシャは村を見て回った。
畑も井戸も家畜小屋も手入れされている。飢えてはいない。だが、村には未来の話がなかった。
人々は天気、収穫、薪など今日と明日のことだけを話す。一年後や十年後を語る者はいない。
夕方、広場では子供たちがレイにまとわりついていた。
「高い高い!」
「嫌だ」
レイは露骨に迷惑そうだが、振り払わない。
「優しいな」
ダミアンが言う。
「面倒だからだ」
「そうか」
◇ ◇ ◇
夕食後、レイは村外れにいるダミアンを訪ねた。
「本当にあるのか」
「何がだ」
「ホワイトファルコン」
「あるぞ」
「嘘だ。そんな場所、あるわけない」
「どうしてだ」
レイは昔のことを話した。
赤い瞳を見られ、石を投げられ、化け物と呼ばれた。怪力で反撃すれば、さらに恐れられた。
「結局同じだ。外も、大人も、全部」
ダミアンは黙って聞き、静かに言った。
「お前がそう思うなら、そうなんだろ」
少し間を置き、ダミアンは続けた。
「でも、ホワイトファルコンは違う」
「証拠は?」
「俺がいる」
何の説明にもなっていない。それでもダミアンは真剣だった。
◇ ◇ ◇
帰り道ではディダが待っていた。
「どう思った?」
「変な奴だ」
「そうだね。でも、嘘はついてないと思う」
その夜、レイは眠れなかった。
◇ ◇ ◇
翌朝、ダミアンは頼まれてもいないのに屋根の穴を直していた。
「何やってる」
「穴が空いてた。雨が入る」
「暇なのか」
「少しな」
その時、下からリーシャが怒鳴った。
「嘘つくな! 畑も薪小屋も井戸の補修もある!」
「確かに」
「確かにじゃない!」
レイの口元がわずかに動いた。
◇ ◇ ◇
午後、薬草を干すディダが言った。
「気になってるね」
「なってない」
「嘘だね」
「昨日からそればっかりだな」
ディダは手を止めた。
「期待するのが怖いんだね」
レイは答えない。
一度信じ、一度期待したから傷ついた。その痛みは今も残っている。
ディダはそれ以上追及しなかった。
「私は少し見てみたいな」
「何を」
「ホワイトファルコン」
空には黒い雲が集まり始めていた。




