第8話 癒しの呪い
朝。
レイは広場で薪を割っていた。
斧が振り下ろされるたび、薪が真っ二つになる。
「働き者ね」
リーシャが声を掛ける。
「別に」
「普通はもっと手を抜く」
「普通じゃない」
即答だった。
この少年は、自分が普通だと思ったことが一度もないのだろう。
◇ ◇ ◇
村の奥から複数の声が響いた。
「ディダー!」
小さな診療小屋の中には、老人、怪我をした子供、咳き込む者たちが集まっていた。
その中心にいたのは、長い銀白色の髪と赤い瞳を持つ少女だった。
「次の人」
包帯を巻き、薬草を渡し、熱を確かめる。止まる暇もない。
「大変そうね」
リーシャが言うと、少女は首を傾げた。
「そう? みんな困ってたから」
「すごいな」
ダミアンの言葉にも、少女は同じように首を傾げる。
「そうかな」
リーシャは、その反応に嫌な既視感を覚えた。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。診療を終えたディダが椅子へ腰を下ろした瞬間、体が傾いた。
リーシャが受け止める。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない」
リーシャが額へ手を当てる。熱があり、顔色も悪い。
「休みなさい」
「でも薬草を整理しないと」
「休みなさい」
「でも」
「休みなさい」
三度目で、ディダはようやく肩を縮めた。
「……わかった」
だが診療小屋の裏へ回ると、ディダは早くも薬草を干していた。
「休んでないじゃない」
「手を動かしてないと落ち着かなくて」
「重症ね」
「そう?」
「そうよ」
「みんなそうじゃないの?」
「違う」
「そうなんだ」
ますますダミアンに似ている。
◇ ◇ ◇
夕方。ディダは薪を運ぶレイへ近づいた。
「また無理してる」
「お前に言われたくない」
「そう?」
「そうだ」
ディダは少し笑った。
「本当は外へ行きたいんじゃないの?」
レイの動きが止まる。
「行きたくない」
「嘘だね」
「何が分かる」
「分かるよ。小さい頃から見てる」
ディダは穏やかに続けた。
「レイは昔からそうだよ。見てみたいものほど見ないふりをする」
「ホワイトファルコンが気になってるんじゃないの?」
「気にならない」
「嘘だね」
「うるさい」
ディダは小さく笑った。
幼馴染だから分かる。レイは本当に興味がない時、そもそも話題にしない。
◇ ◇ ◇
夜、リーシャはダミアンへ言った。
「ダミアンが二人いる」
「どういう意味だ?」
「ディダって子、人助けのためなら自分を後回しにする」
「ああ」
「納得するな」
レイは誰も信じない。ディダは自分を大切にしない。
どちらも放っておけば、いつか壊れる。
リーシャは夜空を見上げた。




