第7話 怪力の少年
山道は険しかった。
木々が空を覆い、昼だというのに薄暗い。人の手が入った形跡もほとんどない。
「本当にこんなところに村があるの?」
「旅商人はあると言ってた」
「あなた、人を信用しすぎよ」
「でも嘘をつく理由もないだろ」
リーシャは反論しかけてやめた。
やがて木々が途切れ、谷あいに二十軒ほどの家が見えた。小さな畑、石積みの井戸、放牧された山羊。
どこにでもありそうな村だった。
一つだけ違う。
村人たちは全員、赤い瞳をしていた。
「本当にあったな」
「みたいね」
村人たちは二人の赤い瞳を見ても驚かない。ここでは赤い瞳が普通なのだ。
◇ ◇ ◇
「旅人か?」
白髪の老人が近づいてきた。村長だった。
事情を説明すると、村長は静かに頷いた。
「ホワイトファルコンと言ったな」
「呪い子が住める家を作った」
「面白いことをする」
老人は笑わなかった。それだけでリーシャは少しだけ好感を持った。
◇ ◇ ◇
案内された広場では、子供たちが木材を運び、水を汲み、畑を手伝っていた。
その時、荷車が大きく傾いた。
荷台には丸太が山ほど積まれている。大人が数人で支えるが、持ち上がらない。
「人を集めろ!」
すると、一人の少年が前へ出た。
金色の髪。鋭い赤い瞳。年齢は十二歳ほど。
少年は荷車の横へ立ち、片手で持ち上げた。
「は?」
リーシャが固まる。
大人たちは慌てて車輪を直した。少年は何事もなかったように手を離す。
「怪力……」
「すごいな」
ダミアンの声に、少年が振り返った。
露骨に嫌そうな顔だった。
「誰だ」
「旅人だ」
村長が答える。
少年はダミアンを睨む。
「外の人間か」
「まあな」
「帰れ」
即答だった。
リーシャは額を押さえる。予想通りだ。
「初対面だぞ」
「だからだ。外の人間は信用しない」
「レイ」
村長がたしなめるが、少年は視線を逸らさない。
怒りと憎しみ。そして、期待することを諦めた者だけが持つ冷たさがあった。
ダミアンは少し考えた。
「なるほど。理由があるんだな」
レイの眉が動く。
反論も説教もされなかった。それだけが少しだけ予想外だった。
◇ ◇ ◇
夕方、リーシャは村長からレイの過去を聞いた。
幼い頃、レイは村の外へ出た。赤い瞳を見た町の者から石を投げられ、怪力で反撃した結果、さらに化け物と呼ばれた。
それ以来、外の世界と大人を信じなくなった。
広場の隅では、レイが一人で薪を割っている。
まるで、誰にも頼らないと決めたように。
リーシャの嫌な予感は当たった。
だが、ダミアンなら放っておかない。
それが一番の問題だった。




