第48話 黒い翼
ホワイトファルコンの門前で、ユウは母親の胸へ飛び込んだ。
「よく無事だったね」
母親はただ息子を強く抱き締めた。
クロウはその光景を静かに見つめていた。
革命軍が助けた命。
ホワイトファルコンが助けた命。
方法は違っても、守りたかったものは同じだった。
その隣には、黒い服の八人が立っていた。
元革命軍穏健派。
拠点の者たちは警戒と戸惑いを隠せない。
それは当然だった。
革命軍の名は希望と同時に恐れも運んでくる。
離脱組の表情も固い。
革命軍を離れた以上、もう戻れない。
だが新しい居場所もまだない。
不安は彼らの顔に明確に表れていた。
◇ ◇ ◇
「皆様へ、私たちの過去を説明させてください」
クロウの申し出で、食堂に人が集められた。
「我々は本日まで、革命軍に所属しておりました」
クロウは救出活動だけでなく、王国軍施設や貴族の所有物への襲撃にも関わったことを明かした。
「私は参謀として必要と判断し、作戦を立てました。革命軍を離れたからといって、過去が消えるとは考えておりません」
そして、現在の方針に従えず離脱したことを話す。
「今度は、人を救うためだけに、この目を使いたいと考えております」
意見は分かれた。
ミアが尋ねる。
「何ができるの?」
鷹の目による索敵。
潜入と変装。
解錠、追跡、文書偽造、救出経路の確保。
診療所を手伝う女性は、怪我人を置いて撤退したことがあるかと尋ねた。
「ございます」
クロウは否定しなかった。
「同じ状況なら撤退を進言する場合もございます」
一度言葉を区切る。
「ですが、最初から救出を諦めることはいたしません」
その言葉には静かな覚悟があった。
◇ ◇ ◇
話し合いの最中。
離脱組の若い男が俯いたまま呟いた。
「本当にいいんでしょうか」
周囲の視線が集まる。
「俺たちは革命軍だったんです」
声が震えていた。
「皆さんに迷惑を掛けるかもしれない」
それは彼だけの不安ではなかった。
離脱した全員が抱いている恐れだった。
「難しく考えるなよ」
レイが椅子にもたれた。
「俺だって最初は居場所なんかなかったし」
革命軍出身者たちが顔を上げる。
「団長に拾われたんだ」
ミアも頷いた。
「ここにいる人、みんな似たようなものだよ」
「似たようなもの?」
「何かを失った人」
ミアは優しく答えた。
「だから居場所を失う辛さも分かる」
ディダも続く。
「ホワイトファルコンも最初から立派だったわけじゃありません」
「みんなで少しずつ作ってきたんです」
その言葉は離脱組の緊張を少しだけ和らげた。
話し合いの末、受け入れが決まった。
◇ ◇ ◇
ダミアンはクロウたちへ、王国軍の動き、捕らわれた呪い子、危険な村や町の情報を集める役割を与えた。
「我々の存在と任務は、必要な方にだけ共有してください。情報が漏れれば、救う前に相手が消されます」
「隠れて働くの?」
ディダが尋ねた。
「はい。皆様が表から人を救われるのであれば、我々は見えない場所から道を整えます」
◇ ◇ ◇
その後。
焚き火を囲んでいた時だった。
クロウは小さく呟く。
「革命軍は間違っていたのでしょうか」
誰へ向けた言葉でもなかった。
だがダミアンは答えた。
「全部じゃねぇ」
クロウが顔を上げる。
「間違ってたら、あんなに人を救えねぇだろ」
炊き出し。
診療所。
孤児たち。
革命軍が守ってきた人々。
クロウの脳裏にいくつもの光景が浮かぶ。
「ただ道を間違えた」
ダミアンは言った。
「だから終わりじゃねぇ」
クロウは黙って聞いていた。
「続ければいい」
あまりにも簡単な答えだった。
だが不思議と胸に響いた。
ディダは黒い服の一行を見た。
「白い隼の、黒い翼みたい」
「黒い翼、ですか」
革命軍時代の黒を捨てるつもりはない。
過去は消えない。
だが意味は変えられる。
壊すための黒ではない。
守るために、影を飛ぶ黒。
「よい名前だと思います」
クロウは静かに微笑んだ。
「我々は、ホワイトファルコンの黒い翼として働かせていただきます」
離脱組の表情にも少しずつ光が戻っていた。
◇ ◇ ◇
夕方。
クロウは高台から共同体を見渡した。
革命軍にいた頃は、襲撃場所と退路を探すために見ていた。
今は違う。
畑に残る者。
森へ出た者。
拠点へ近づく危険。
守るべき場所を見ている。
壊す場所ではなく。
守るべきものを。
「来てよかったか」
隣へ上がってきたダミアンが尋ねる。
クロウは少し考えた。
革命軍を失った。
恩人を失った。
居場所を失った。
失ったものは数え切れない。
だが。
「まだ分かりません」
正直な答えだった。
そして小さく笑う。
「ですが、ここでなら、もう一度始められる気がいたします」
「なら始めろ」
「承知いたしました」
白い隼が光の中を飛ぶために。
黒い翼は影の中を飛ぶ。
革命軍の理想を捨てたわけではない。
今度は別の空で。
別の形で。
それを守っていく。




