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第47話 分かれ道

夜が明けても、補給拠点の煙は空に残っていた。


革命軍は次の移動準備を進めている。


クロウは鷹の目で村人の無事を確認したが、胸の痛みは消えなかった。


昨夜は誰も死ななかった。


作戦も成功した。


それでも喜べない。


避難が間に合わなかったとしても。


アッシュは炎を放つつもりだった。


その事実だけが心に残っていた。


アッシュが次の標的を告げる。


「西部の町にある徴税所だ」


「徴税所は町の中央にございます」


「知っている」


「住民が巻き込まれます」


「必要な被害なら受け入れる」


その答えで、クロウは理解した。


昨夜だけの判断ではない。


アッシュは、これからも同じ選択を続ける。


だが。


それでも信じたかった。


何か理由があるのではないか。


何か見落としているのではないか。


そう思いたかった。


「町に暮らす方々すべてが、我々の敵ではございません」


「敵じゃなければ味方か?」


「そのどちらでもない方もおります」


アッシュの拳に炎が灯る。


「俺たちは誰にも助けられなかった。仲間が殺されても、誰も声を上げなかった!」


「何も感じないわけがありません!」


クロウの声が谷へ響いた。


「ずっと一緒にいたではありませんか」


クロウも憎んでいた。


王国軍を。


呪い子を利用する者を。


見て見ぬふりをする者を。


だからアッシュの怒りも分かる。


分かってしまう。


それが苦しかった。


「それでも、無関係な方々を殺すことはできません」


「俺が間違っていると言うのか」


クロウはもう逃げなかった。


「……そうかもしれません」


静寂。


革命軍の団員たちも息を呑む。


クロウは続けた。


「ですが、私が知っているアッシュは、このような道を選びませんでした」


「昔の俺を語るな」


「語ります」


クロウは一歩前へ出る。


「助けたいからだと、あなたは仰いました」


脳裏に蘇る。


路地裏で差し出されたパン。


王国軍に囲まれた日の炎。


命懸けで救ってくれた恩人の姿。


全て本物だった。


だからこそ。


否定したくなかった。


クロウの赤い瞳に、抑え切れない熱が宿る。


「誰かを切り捨て、その犠牲を仕方がないとは言わなかった」


もう声は震えていた。


「だからこそ、止めたいのです」


革命軍兵たちが顔を上げる。


「あなたが、これ以上ご自身を壊してしまう前に」


アッシュは黙ったまま聞いていた。


怒りはない。


ただ疲れたような表情だった。


「綺麗事だ」


「理想を失えば、守った仲間も進む先を失います」


クロウはさらに踏み込んだ。


ここで引けばもう届かない。


そんな気がした。


「目的のために無関係な方々を犠牲にする。それでは宰相と同じではありませんか」


炎が大きく燃え上がる。


それでも拳は振るわれない。


「クロウ」


アッシュが低く言った。


「お前はまだ、全員を救えると思っているのか」


「分かりません」


即答だった。


「救えない人はいるでしょう」


アッシュの目が僅かに揺れる。


「ですが」


クロウは言った。


「最初から切り捨てる理由にはならないと思っております」


それはダミアンの言葉だった。


だが同時に。


昔のアッシュが語っていた理想でもあった。


◇ ◇ ◇


その時だった。


後ろの方から声が聞こえた。


「やめてくれよ……」


全員の視線が向く。


ユウだった。


拳を握り締めている。


「なんで戦うんだよ」


声が震える。


「アッシュ様も」


「クロウさんも」


「どっちも良い人じゃないか」


誰よりも純粋な疑問だった。


だから重かった。


クロウは答えられない。


アッシュも答えられない。


二人とも人を救いたかった。


その結果が今だった。


◇ ◇ ◇


長い沈黙の後。


アッシュが口を開く。


「最後に聞く」


炎が静かに揺れている。


「俺についてくるか」


クロウは目を閉じた。


差し出された手。


最初の救出。


黒い旗を掲げた朝。


感謝も敬意も、すべて本物だった。


だからこそ。


もう従えなかった。


「申し訳ございません」


クロウは深く頭を下げた。


「これ以上、あなたのやり方には従えません」


アッシュはしばらく何も言わなかった。


怒ると思った。


責められると思った。


だが違った。


ほんの少しだけ。


寂しそうに笑った。


「俺のやり方について来られないなら、出て行け」


「……分かりました」


クロウは再び頭を下げる。


「今まで、お世話になりました」


数人の穏健派がクロウの側へ移った。


全員ではない。


アッシュの側に残る者にも、それぞれの理由があった。


「必ず、皆様の居場所を見つけます」


クロウたちは黒い旗を残し、最低限の荷物だけで野営地を離れた。


振り返らない。


振り返れば戻ってしまいそうだった。


◇ ◇ ◇


森で、村から戻るダミアンたちと出会う。


「革命軍を離れることになりました」


「行く場所は?」


沈黙が答えだった。


「じゃあ、俺たちと来ないか」


クロウは王国軍から狙われる危険と、人数や食料の問題を挙げた。


「もう目は付けられてる。家と畑は増やせばいい」


リーシャとレイが答える。


ダミアンはただ尋ねた。


「来るのか、来ないのか」


クロウは仲間たちを振り返った。


皆、やり直したいと頷いた。


革命軍は終わった。


だが。


理想まで失われたわけではない。


クロウは静かに答える。


「……お世話になります」


「歓迎する」


革命軍の理想を捨てたわけではない。


別の道で、その先を目指す。


黒い外套の一行は、白い隼の下へ歩き始めた。

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