第44話 革命軍の参謀
革命軍の野営地は、木々と岩壁に囲まれた谷にあった。
救出者が到着すると、温かい食事と治療が用意された。
ユウは配られたスープを両手で抱えながら言った。
「やっぱり本当だったんだ」
「何がだ?」
レイが尋ねる。
「革命軍だよ」
ユウの目は輝いていた。
「アッシュ様は本物の英雄なんだ」
声には憧れが滲んでいる。
「捕まった呪い子を何人も助けてるし、悪い貴族の倉庫から食べ物を持ってきて、困ってる人に配ったんだって」
他の子供たちも頷く。
革命軍は彼らにとって物語の英雄だった。
「へぇ」
レイが肩を竦める。
「ずいぶん人気なんだな」
「だって本当に助けてくれるから」
ユウは即答した。
その迷いのなさが印象的だった。
◇ ◇ ◇
大きな天幕へ向かう途中、クロウが野営地を案内する。
広場では大鍋で炊き出しが行われ、診療所には怪我人や病人が並んでいた。
子供たちは元気に走り回り、難民たちは家屋の修理を進めている。
予想していた反政府組織とは少し違った。
「思ったより普通だな」
レイが呟く。
「ここも人が暮らす場所ですから」
クロウは穏やかに答えた。
その時だった。
「クロウ兄ちゃん!」
数人の子供たちが駆け寄ってくる。
一人が転びそうになり、クロウは自然な動作で受け止めた。
「走るなら前を見てください」
「ごめんなさい!」
「怪我がなくて何よりです」
怒るのではなく心配する声。
子供たちは笑いながら再び走り去った。
レイが苦笑する。
「めちゃくちゃ慕われてるじゃねえか」
「皆さん良い子ですので」
クロウはわずかに微笑んだ。
住民たちの兄のような姿だった。
ダミアンはその光景を静かに見つめた。
ここには確かに守られている人々がいる。
少なくとも今見える範囲では。
◇ ◇ ◇
診療所の前を通った時だった。
松葉杖をついた男がクロウへ頭を下げた。
「参謀、ありがとうございました」
クロウも軽く礼を返す。
ダミアンが尋ねる。
「知り合いか?」
男は苦笑した。
「革命軍に助けられたんだ」
男は以前、鉱山事故で足を潰したという。
働けなくなった瞬間に捨てられた。
家族も食べる物も失った。
「そんな時にアッシュ様が食料を持ってきてくれた」
男は遠くを見るように笑った。
「あの人がいなかったら今頃死んでた」
ダミアンは黙る。
革命軍は確かに人を救っている。
その事実だけは否定できなかった。
◇ ◇ ◇
大きな天幕へ入る。
黒い長髪の男が正式に頭を下げた。
「クロウと申します。革命軍の参謀を務めております」
細身で長身。
黒と金の装束に長い外套。
赤い瞳は、相手の反応を慎重に確かめている。
「戦うより、作戦を考える奴か」
「概ね、その認識で間違いありません」
クロウの赤い瞳が淡く光った。
「私の呪いは、鷹の目と呼ばれています」
意識を上空へ移し、広い範囲の敵や地形を見渡す力。
ただし建物の内部は見えず、発動中の肉体は無防備になる。
「それに、見えることと救えることは別です」
その言葉だけが重かった。
ダミアンが尋ねる。
「革命軍ってのは何をやっているんだ?」
「居場所を失った者たちの集まりでした」
過去形だった。
革命軍は、呪い子や難民、土地を奪われた者が互いを守るために生まれた。
最初は食料を分け、王国軍に捕らえられた仲間を救うだけだった。
だが一人を救っても、次の日には別の誰かが捕らえられる。
王女派と宰相派が争う間も、呪い子狩りは続いた。
◇ ◇ ◇
外から歓声が聞こえた。
「アッシュ様だ!」
「戻られたぞ!」
住民たちが入口へ集まっていく。
ダミアンは少し驚く。
まるで英雄の帰還だった。
「すげぇ人気だな」
「当然です」
クロウは迷わず答える。
「アッシュ様が救った方は数え切れません」
その声には誇りがあった。
そして少しだけ。
憧れも混じっていた。
「私も、その一人です」
静かな言葉だった。
だがダミアンには十分伝わる。
クロウにとってアッシュがどれほど大きな存在なのか。
「待っても何も変わらない」
アッシュが拳を握る。
「誰かが変えるしかない」
ダミアンはクロウを見る。
「お前も、そう思ってるのか」
クロウはすぐには答えなかった。
「私は、アッシュの理想を信じております」
勝てない相手にも立ち向かい、損得より先に助けを求める声へ走った。
クロウ自身も、アッシュに救われた一人だった。
「では、今もやり方が正しいと思っているのか」
長い沈黙の後、クロウは赤い瞳を伏せた。
「今でも、彼のやり方が正しいと思いたいのです」
思っている、ではない。
「我々は多くを失いました。それでも誰かを救うために戦ってきたのです。その理想まで失えば、何のために立ち上がったのか分からなくなります」
冷静な参謀の内側に、消えない熱があった。
◇ ◇ ◇
その時、一人の革命軍兵が慌ただしく天幕へ入ってきた。
「参謀、例の件ですが……」
途中でダミアンたちに気付き、言葉を飲み込む。
クロウの表情がほんの一瞬だけ曇った。
「後ほど伺います」
「……了解しました」
兵士は一礼して去っていく。
ほんの数秒。
だがダミアンは見逃さなかった。
皆が未来を語っている中。
クロウだけが何かを気にしているように見えた。
そこへ、王国軍が補給拠点へ兵を集めているとの報告が入る。
アッシュは村に隣接する拠点を指した。
「ここを潰す。今夜、焼くぞ」
クロウは地図上の村と補給拠点を見比べた。
「アッシュ。その作戦について、確認したいことがございます」




