第43話 炎の男
黒煙の下では、王国軍の護送隊と黒い服の集団が戦っていた。
黒い旗が森の風を受けて揺れている。
その先頭で、炎を纏った男が兵士たちを押し返していた。
拳が盾へ叩きつけられる。
轟音と共に盾が砕けた。
続く剣を横から殴って折る。
燃え上がる炎。
だが兵士の身体には燃え移らない。
力を制御しているのだ。
「子供を攫うお前らより、ましだろうが!」
男の怒声が響く。
その時だった。
荷車の中から子供の泣き声が聞こえた。
「レイ、開けろ」
ダミアンが言う。
「おう!」
レイが駆け出した。
リーシャの蔓が兵士の足を絡め取る。
ダミアンの風が槍を弾く。
レイは鎖を引き千切る。
荷車の扉が開いた。
暗い荷台には七人の子供が身を寄せ合っていた。
その奥。
黒髪と赤い瞳の少年が震えている。
リーシャがしゃがみ込む。
「ユウ君」
その声に、ユウが顔を上げた。
「リーシャ姉ちゃん……?」
涙で濡れた目が大きく見開かれる。
リーシャは優しく微笑んだ。
「もう大丈夫よ」
その一言で、ユウの強張っていた表情が少しだけ緩む。
「お母さんも待ってるわ」
ユウは小さく頷いた。
「……うん」
三台の荷車を調べる。
拘束されていたのは十五人。
呪い子。
あるいは、そう疑われただけの人々だった。
炎を纏った男が拳の火を消す。
残った兵士たちは後退した。
最後の一人が武器を落とす。
男は近くにいた幼い少女へ手を差し出す。
「もう大丈夫だ」
先ほどまでの荒々しさはない。
「ここから出るぞ」
「アッシュ!」
革命軍の一人が駆け寄った。
男は振り返る。
アッシュ。
それが彼の名だった。
「救出者を先に運べ」
「歩けない奴は背負え」
短く命令する。
そしてダミアンたちへ視線を向けた。
「お前らは何者だ」
「ホワイトファルコン」
ダミアンが答える。
アッシュが笑った。
「噂より若いな」
そのまま右手を差し出す。
「革命軍のアッシュだ」
ダミアンも手を握り返した。
「ダミアンだ」
アッシュは頷く。
そして後ろの荷車へ目を向けた。
「こういうのは何度見ても腹が立つ」
握った拳から小さな火花が散る。
「守られるのを待ってたら何も変わらねぇ」
「また誰かが連れて行かれる」
その目には強い怒りがあった。
「だから俺たちが止める」
ダミアンは答えない。
救いたい人間は同じだ。
だが何かが引っ掛かった。
その時だった。
森の奥から短い笛の音が響く。
ダミアンが視線を向ける。
木の上に一人の男が立っていた。
黒い長髪。
黒と金の装束。
長い外套を纏った細身の男だった。
「王国軍の増援です」
よく通る声だった。
「騎馬隊二十、歩兵三十。到着までおよそ十分です」
アッシュが舌打ちする。
「相変わらず目がいいな、クロウ」
クロウと呼ばれた男は小さく頭を下げた。
「救出者を抱えたまま戦うべきではありません」
「撤収を進言します」
アッシュは一瞬だけ考える。
そして頷いた。
「撤収だ!」
革命軍が一斉に動き出した。
クロウは木から飛び降りる。
そして救出された子供たちの方へ歩いた。
「お怪我はありませんか?」
子供たちは不安そうに顔を見合わせる。
「立てない方はいませんか?」
クロウは周囲を確かめながら続けた。
「安心してください」
「安全な場所まで案内します」
「お前らも来い」
アッシュが言う。
「増援と戦う理由はねぇ」
ダミアンたちは革命軍と共に森へ入った。
歩きながらアッシュが尋ねる。
「お前は、その場所を守るためにどこまでやれる」
「必要なことをやる」
ダミアンが答えた。
アッシュは小さく笑う。
「なら、いつか分かる」
前を向いたまま言う。
「守るだけじゃ何も変わらないってことが」
ダミアンはアッシュを見る。
その少し後ろで、クロウが救出者の人数を確認していた。
炎のようなアッシュ。
静かに周囲を見渡すクロウ。
同じ革命軍でも、まるで違って見えた。
ダミアンはユウの無事を確かめる。
そして黒い旗の後を追った。




