第42話 革命の旗
「ユウがいない!」
その知らせを受けてから、ホワイトファルコンは総出で捜索を行った。
広場も、畑も、周辺の森も探した。
だが夜が明けても見つからない。
拠点には重い空気が漂っていた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
応接室にはユウの母親が座っていた。
一晩ほとんど眠れなかったのだろう。
青白い顔で湯気の立つ茶を握り締めている。
「昨日の夜までは一緒にいたんです」
震える声だった。
「食事をして……みんなと話をして……」
「いつも通りでした」
母親は俯く。
「でも最近、王国兵に声を掛けられたことがあったんです」
ダミアンたちは顔を上げた。
「買い出しの帰りでした」
「風で前髪がめくれて……ユウの赤い瞳を見られて」
その瞬間。
兵士たちの態度が変わった。
呪い子か。
そんな言葉が聞こえたという。
だがその場は何事もなく終わった。
母親は唇を噛む。
「だから……」
「もし王国軍に連れて行かれたんじゃないかって……」
声が震える。
「最近、呪い子が連れて行かれているって噂も聞いていました」
「ユウは、自分の目をずっと嫌っていました」
堪えていた涙が零れ落ちた。
「赤い瞳もユウの一部なんだって……何度も言い聞かせてきたんです」
「それなのに……」
「今頃、やっぱりこの目のせいだと思っていたら……」
部屋に沈黙が落ちる。
ダミアンは静かに立ち上がった。
「絶対探し出す」
母親が顔を上げる。
「ダミアンさん……」
「連れて帰る」
短い言葉だった。
だが迷いはない。
「俺たちの仲間だ」
母親は目を潤ませながら深く頭を下げた。
◇ ◇ ◇
その日のうちに、ダミアン、リーシャ、レイの三人は街道へ出た。
ゲンジとディダは拠点の警備と診療に残る。
ミアも工房を預かっていた。
宿場町で聞き込みを始めると、すぐに情報が集まった。
数日前から、王国軍は呪い子を見つけると追放ではなく連行しているらしい。
さらに行商人から有力な話を聞けた。
前日、北の補給路で三台の荷車を見たという。
そのうち一台から子供の泣き声が聞こえたらしい。
「その荷車なら、革命軍が追っているって話だ」
「革命軍?」
レイが聞き返す。
行商人は頷いた。
「ああ。王国軍に捕らえられた呪い子を何度も救い出してる連中だ」
「英雄だって言う奴もいる」
「孤児院へ食料を配ったって話もある」
「呪い子を匿った村を守ったとも聞いたな」
「困った人々を助けてるんだな?」
レイが言う。
「みんなの救世主ってとこか」
しかし行商人は微妙な顔をした。
「そう単純でもない」
「どういうことだ?」
「徴税所を襲った」
「領主の倉庫を燃やした」
「橋を落としたって話も聞いたな」
近くにいた商人たちも会話へ加わる。
「助かった奴がいるのも本当だ」
「だが困った奴もいる」
別の商人が首を振った。
「革命軍が放った火が隣家へ燃え移った」
「橋が壊れて商売が止まった奴もいる」
「王国を攻撃しても、困るのは王国だけじゃない」
しばらく沈黙が流れた。
救われた者がいる。
困った者もいる。
どちらの話も嘘には聞こえなかった。
どちらが正しいのか。
ダミアンにはまだ分からない。
だからこそ。
自分の目で確かめるしかなかった。
「革命軍がどういう連中かは後よ」
リーシャが地図を畳む。
「今はユウ君を助けるのが先」
「そうだな」
ダミアンは頷いた。
◇ ◇ ◇
三人は北の街道へ入った。
新しい車輪の跡が続いている。
ダミアンたちはそれを辿った。
しばらく進むと、草むらに布切れが引っ掛かっていた。
レイが拾い上げる。
「子供服か」
母親から聞いていた特徴と一致する。
「まだ近いかもしれねぇ」
その時だった。
ドォォォン――――!!
遠くから爆音が響く。
地面が揺れた。
進行方向の空へ黒煙が立ち上る。
「護送隊の方角だ」
ダミアンが走り出す。
レイとリーシャも続いた。
二度目の爆発が森を震わせる。
木々の隙間の向こうで、赤い炎が空を染めた。
「……派手だな」
レイが呟く。
三人は爆発の方角へ駆け出した。




