第4話 広すぎる孤児院
事件の翌朝、院長はダミアンとリーシャを孤児院の裏手へ案内した。
「……広いな」
ダミアンは思わず足を止める。
雑草に埋もれた畑、放置された果樹園、小川、森、遠くの丘。孤児院の裏庭という広さではない。
「この辺り一帯、すべて孤児院の土地です」
「全部か?」
「はい。昔、寄付された土地ですが、今はごく一部しか管理できていません」
リーシャは土へ手を触れた。
目を閉じると、足元の草がわずかに起き上がる。地中へ意識を広げ、水と根の流れを確かめた。
「すごい」
「何がだ?」
「この土地、まだ生きてる」
リーシャは畑を指した。
「土は戻せる。果樹園も復活できる。薬草も野菜も育つわ。小川があるから水にも困らない」
院長が目を見開く。
「本当ですか?」
「ええ。人手さえあれば、今の何倍もの人が暮らせる」
子供たちが駆け寄り、二人を敷地の奥へ連れていった。
「ここ、昔は畑だったんだよ!」
「井戸もあるよ!」
「丘から町が見えるの!」
壊れた小屋も、枯れかけた果樹も、子供たちにとっては大切な場所だった。
ダミアンは丘の上から孤児院を振り返った。
古びた建物。その向こうに広い土地が続いている。
ギャランが狙った理由は分かった。
だが、ダミアンの胸に浮かんだのは土地の値段ではなかった。
「この広さなら、帰る場所がない奴も住めるな」
リーシャが隣へ立つ。
「簡単に言うわね」
「無理か?」
「簡単じゃないだけ。畑も建物も人手がいる。食事も仕事も必要よ」
「じゃあ、一つずつやればいい」
リーシャはダミアンを見た。
全財産を迷わず差し出した男だ。本気で言っている。
「本当に計画性がない」
「褒めてるのか?」
「まさか」
それでもリーシャは、荒れた畑へ視線を戻した。
ここなら植物を育てられる。
食事を作れる。
自分にも役割がある。
そんな未来を、少しだけ想像していた。
◇ ◇ ◇
その夜、院長は窓から中庭を見ていた。
子供たちの輪の中で、ダミアンが不器用に遊び相手をしている。
リーシャは壊れた花壇を直し、小さな芽を育てていた。
二人は旅人だ。
明日には去ってもおかしくない。
けれど、この数日で子供たちが見せた笑顔を、院長は久しく見ていなかった。
院長は決意する。
翌朝、二人を食堂へ呼んだ。
「お願いがあります」
ダミアンとリーシャが顔を見合わせる。
院長は深く頭を下げた。
「この孤児院を、継いでいただけませんか」




