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第3話 魔石

森から現れたのは、二十匹を超える森狼だった。


狼より一回り大きく、長い牙と赤黒く濁った目を持つ魔獣。通常なら人里へ群れで近づくことはない。


「見たか!」


ギャランの手で魔石が脈打つ。


「これで終わりだ!」


ダミアンは剣を構えた。


「リーシャ」


「分かってる」


森全体が怯えている。魔石は魔獣を呼び寄せただけではない。怒りと興奮を異常なほど増幅していた。


先頭の森狼が跳んだ。


ダミアンの剣が銀の軌跡を描き、魔獣を横へ弾き飛ばす。


続けて二匹、三匹。


「右!」


「見えてる!」


リーシャが地面へ杖を突く。伸び上がった蔓が森狼の脚を絡め取り、動きを止めた。


ダミアンはその間を駆け抜ける。


一匹を剣で倒し、二匹を突風で押し戻す。


残る群れは左右へ広がり、孤児院へ回り込もうとした。


「行かせない!」


リーシャが両手を広げる。


孤児院を囲むように太い蔦が伸び、即席の壁を作った。森狼の爪と牙が食い込むが、植物は何度でも絡み直す。


「無茶するなよ!」


「誰に言ってるの!」


「リーシャ」


「あなたにだけは言われたくない!」


ダミアンは苦笑しながら空へ手を上げた。


雨が強くなる。


ぬかるんだ地面に森狼の脚が取られた。そこへ狙い澄ました突風が走り、群れを一か所へ押し戻す。


リーシャの蔓がまとめて縛り上げる。


「今よ!」


雷光が夜空を裂いた。


落雷は魔獣を焼かず、その目前の地面へ落ちた。轟音と閃光に群れが怯み、ダミアンが一気に間合いへ踏み込む。


剣と風が走る。


最後の一匹が地面へ倒れた。


◇ ◇ ◇


「なんでだ……」


ギャランの顔から余裕が消えていた。


「魔石があれば、誰にも負けないはずだ!」


リーシャは息を整えながら魔石を見る。


「もうやめなさい。それはあなたの言うことなんて聞いてない」


「黙れ!」


ギャランが魔石を両手で握り締めた。


「もっとだ! もっと力を出せ!」


赤黒い光が膨れ上がる。


その光は森へ向かわず、ギャランの腕を這い始めた。


「ぐっ……!」


皮膚の下で黒い筋が脈打つ。腕が不自然に膨らみ、指先が震えた。


リーシャの赤い瞳が見開かれる。


「魔石に飲まれてる!」


ダミアンにも分かった。


魔石は力を与えていない。ギャランの恐怖と執着を吸い上げ、さらに力を求めさせている。


「捨てろ!」


「これは俺の力だ!」


黒い光が肩へ届こうとした。


「リーシャ!」


「任せて!」


地面から伸びた蔓が、ギャランの両腕と胴を縛る。


ダミアンが雨を切り裂いて駆けた。


「離せ!」


ギャランが暴れる。蔓が軋む。


ダミアンは剣を振り抜いた。


狙ったのはギャランではない。


魔石だけだ。


剣の腹が手首を打ち、赤黒い石が宙へ舞った。


「やめろ!」


雷鳴。


青白い光が魔石を貫く。


鋭い破砕音とともに、赤黒い結晶が砕け散った。


光が消える。


ギャランは糸が切れたように崩れ落ちた。


◇ ◇ ◇


「全員、武器を捨てろ!」


森の向こうから町の衛兵たちが駆けつけた。


院長が子供たちを避難させた直後、使いを出していたのだ。


拘束された手下と気絶したギャランは、次々に縄を掛けられた。


意識を取り戻したギャランが、連行される前にダミアンを睨む。


「お前らも知らねえんだな」


「何をだ?」


ギャランは歪んだ笑みを浮かべた。


「あの土地が、どれだけの価値を持ってるかだ」


衛兵に押され、ギャランは森の向こうへ連れていかれた。


リーシャは孤児院の背後に広がる暗い森を見た。


「やっぱり借金だけが目的じゃなかったのね」


「ああ」


ダミアンは剣を収める。


「でも、今は終わった」


◇ ◇ ◇


朝日が孤児院へ差し込んだ。


パンをくれた少女がダミアンの前へ駆けてくる。


「ありがとう!」


「気にするな」


「でも、お兄さんたちが守ってくれた」


少女はそう言って、残していた小さなパンを差し出した。


「半分こ」


ダミアンは受け取り、今度は正確に半分へ割った。


「今日は同じ大きさだ」


少女が笑う。


ダミアンも、少しだけ笑った。


この場所は不思議と居心地がよかった。

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