第2話 燃える夜
夜風が孤児院の木々を揺らしていた。
「まだ起きてるのか?」
中庭にいたダミアンが、窓辺のリーシャへ声を掛けた。
「植物たちが落ち着かないの」
庭の草花、柵の蔦、裏手の木々。全てが森から遠ざかろうとするように揺れている。
「嫌な感じか?」
「ものすごく」
その時、草花が一斉に震えた。
リーシャが立ち上がる。
「ダミアン。来る」
◇ ◇ ◇
森の中を、十を超える松明が進んでいた。
先頭を歩くギャランの後ろでは、手下たちが油樽と武器を運んでいる。
「本当にやるんですか?」
「ここで引けるか。あの旅人のせいで全部台無しだ」
ギャランは孤児院の灯りを睨んだ。
「燃やして終わりだ」
◇ ◇ ◇
孤児院では、院長が子供たちを建物の奥へ集めていた。
「昼間の男たちが来るわ。外へ出ないで」
リーシャの言葉に子供たちが身を寄せ合う。
パンをくれた少女が尋ねた。
「お兄さんは?」
「外にいる。でも大丈夫」
リーシャは迷わず答えた。
「ダミアンは約束を破らないから」
◇ ◇ ◇
門の前にはダミアンが一人で立っていた。
暗闇から現れたギャランが松明を掲げる。
「どけ」
「嫌だ」
「邪魔なんだよ」
「そうだろうな」
ギャランの顔が歪んだ。
「やれ!」
手下たちが走り出した。
ぽつり。
一滴の雨が落ちた。
男たちが空を見上げる。星を隠すように黒雲が渦巻き、二滴、三滴と雨が増えていく。
「なんだ……?」
雷鳴が夜を揺らした。
風が吹き、雨脚が一気に強まる。掲げられた松明が、端から音を立てて消えていった。
「火が!」
「消えたぞ!」
ダミアンの長い金髪が風に舞う。
「今日は運が悪かったな」
「てめえがやってるのか!?」
「まあな」
呪い子。しかも天候を操る能力者。
手下たちが怯んだ隙に、地面が大きく蠢いた。
「人の家を燃やそうとするからよ」
リーシャが杖を振る。
無数の蔓が男たちの足へ絡みつき、次々に地面へ転がした。
「二人とも呪い子か!」
「今ごろ気づいたの?」
手下たちは剣を振り回すが、蔓を断ち切れない。抜け出した者も、ダミアンの突風に吹き飛ばされる。
放火は失敗し、手下の全員が地面へ縫い留められた。
残ったのはギャラン一人。
ダミアンが剣を肩に担ぐ。
「終わりか?」
「まだだ!」
ギャランは懐から拳ほどの赤黒い石を取り出した。
石は心臓のように脈打っている。
リーシャの顔色が変わった。
「あれ、危険よ!」
周囲の植物が一斉に身を縮める。
ギャランは魔石を握り締めた。
「こうなったら、こいつを使う!」
赤黒い光が森へ走る。
遠吠えが響いた。
一つではない。森の奥で、無数の目が開いていく。
ギャランが笑う。
「今夜は全員終わりだ!」
木々の間から、狼に似た異形の魔獣が姿を現した。




