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第38話 作る力

拠点へ戻った頃には日が傾き始めていた。


だが誰も休もうとはしなかった。


白竜に残された時間は多くない。


それは全員が分かっていた。


工房へ入ったミアは、机の上へ紙を広げる。


古い記憶を掘り起こしながら線を引く。


歯車。


固定具。


接続金具。


複雑な図面が少しずつ形になっていく。


「それが装置か」


ダミアンが後ろから覗き込んだ。


ミアは頷く。


「正確には埋込装置の内部構造」


そう言って紙の中央を指した。


「魔石はここに固定されてる」


「抜けばいいんじゃないのか」


レイが聞く。


ミアは首を振った。


「駄目」


即答だった。


「この部分が体内で開くようになってるの」


図面へいくつもの線を書き加える。


「固定具?」


「そう」


ミアは頷いた。


「魔石が抜けないようにするための返し」


魚針のようなものだった。


一度刺さると戻せない。


無理に引き抜けば周囲も傷付く。


「だから普通に外そうとすると」


ミアは図面を指差す。


「肉も骨も一緒に裂ける」


レイの顔が引きつった。


「えげつねえな」


「そういう装置だから」


ミアは静かに答えた。


◇ ◇ ◇


工房が静かになる。


ミアは図面を見つめていた。


昔は何も考えなかった。


命令された。


だから作った。


それだけだった。


誰を傷付けるのかも知らなかった。


知ろうともしなかった。


だが今は違う。


机の上には二枚の図面がある。


一枚は昔の装置。


もう一枚は白紙だった。


ミアは白紙へ視線を落とす。


そして新しい線を引いた。


「それなら逆をやればいい」


小さな呟きだった。


ダミアンが聞き返す。


「逆?」


「開いた固定具を閉じる」


再びペンが動き始める。


「固定のために開くなら」


「解除する時は閉じればいい」


線が増える。


歯車が増える。


構造が組み上がっていく。


レイもゲンジも横で黙って見ていた。


ミアの集中を邪魔しないためだ。


◇ ◇ ◇


夜が更けていく。


何度も紙が丸められた。


何度も描き直された。


一度失敗すれば白竜は死ぬ。


妥協は許されない。


「駄目」


ミアは紙を丸めた。


「これじゃ壊れる」


新しい紙を取る。


また描く。


手が止まらない。


工房の灯りだけが夜を照らしていた。


深夜になる頃。


診療所からリーシャが顔を出した。


「まだやってるの?」


「うん」


リーシャは机を見る。


散乱する図面。


工具。


金属片。


そして必死なミアの顔。


リーシャは少しだけ微笑んだ。


「ディダの熱は下がったわ」


「本当?」


「ええ」


ミアは安堵したように息を吐く。


リーシャはその頭を軽く撫でた。


「頑張りなさい」


それだけ言って診療所へ戻っていった。


◇ ◇ ◇


夜明けが近付く頃だった。


ミアの手が止まる。


全員が顔を上げた。


図面が完成していた。


複雑な紋様。


細かな機構。


埋込装置とは全く違う設計。


「できた」


レイが乗り出す。


「これで助けられるのか?」


ミアは図面を見る。


確信なんてない。


それでも答えた。


「助ける」


今度は迷わなかった。


「これは魔石を埋め込むための道具じゃない」


金属の棒を手に取る。


炉へ火を入れる。


赤く染まる鉄を見つめながら言った。


「外すための道具」


ダミアンは頷いた。


レイは拳を握る。


ゲンジは静かに刀へ手を添えた。


白竜を救う準備は整いつつあった。


ミアは炉の火を見つめる。


昔は傷付けるために作った。


命令されるままに。


何も知らずに。


だが今は違う。


初めて自分の意思で作る。


誰かを救うために。


その事実だけで、胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。

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