↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/50

第35話 魔石

拠点へ戻ると、セドリックから使者が来ていた。


白竜の調査状況を確認するためだった。


ダミアンは簡単な報告書を渡した。


白竜には子供がいること。


人間を積極的に殺そうとしていないこと。


討伐の判断には、まだ情報が足りないこと。


使者は報告書へ目を通した。


「領主からは、調査中の討伐命令は出さないと預かっています」


「助かる」


「ただし、新たな人的被害が出た場合は知らせてほしいとのことです」


ダミアンは頷いた。


白竜を守るために人間の被害を無視することもできない。


セドリックは、その境界を見誤らないようにしていた。


◇ ◇ ◇


翌日。


ダミアンたちは再び竜の巣を訪れた。


洞窟の前には白竜がいた。


昨日と同じだ。


子竜を守るように座り込み、侵入者を警戒している。


だが攻撃する気配はない。


レイは腕を組んだ。


「やっぱり逃げないな」


白竜は山を離れない。


それはもう間違いなかった。


ダミアンはゆっくりと白竜を観察する。


昨日は戦闘になった。


子竜もいた。


落ち着いて見る余裕はなかった。


だが今日は違う。


白竜もまた、彼らのことを敵として扱うべきか迷っているように見えた。


「傷がある」


ミアが呟いた。


全員の視線が集まる。


白竜の胸元だった。


鱗の一部が不自然に盛り上がっている。


古い傷跡のようにも見える。


だが何かがおかしい。


ミアは目を細めた。


「近くで見たい」


レイが顔をしかめる。


「危なくないか?」


「見間違いならそれでいい」


ミアはそう言った。


◇ ◇ ◇


四人が少しずつ近づく。


白竜は唸った。


子竜を庇うように翼を広げる。


だが襲ってはこない。


ダミアンは風を使いながら距離を詰めた。


その時だった。


強い風が吹く。


白竜の鱗が揺れた。


そして。


胸元の傷が見えた。


ミアの顔色が変わる。


「そんな……」


声が震えていた。


ダミアンが振り返る。


「ミア?」


返事はなかった。


ミアは傷だけを見ている。


まるで何か恐ろしいものを見たように。


「知ってるのか」


ゲンジが尋ねた。


ミアは小さく頷いた。


そして絞り出すように言った。


「これは……固定具の跡」


「固定具?」


レイが眉をひそめる。


ミアは答えず、白竜の胸元を凝視した。


鱗の一部が押し広げられている。


その奥で、黒い結晶が脈打っていた。


「魔石が埋め込まれてる」


ミアの声が震えた。


「それを抜けなくするための装置よ」


「お前が作ったのか?」


ゲンジが尋ねる。


ミアはすぐには答えなかった。


傷口を囲むように残された金属の跡。


鱗の下へ潜り込む固定具。


体内で開き、引き抜こうとすれば肉へ食い込む返し。


見間違えるはずがなかった。


「鉱山で作らされた」


ようやく、それだけを口にした。


「大型の魔物に、魔石を埋め込むための装置だった」


空気が止まった。


◇ ◇ ◇


鉱山の光景が脳裏によみがえる。


暗い地下。


泣き声。


怒鳴り声。


鎖の音。


幼いミアは毎日のように何かを作らされていた。


錬金術の才能があったからだ。


命令されるまま。


意味も知らず。


逆らうこともできず。


ただ作った。


その中には奇妙な依頼もあった。


普通の生物より大きな魔物。


大型生物。


その身体へ魔石を埋め込むための器具。


一度埋めれば外れない。


身体の奥深くで固定される。


そんな装置だった。


「まさか……」


ミアは唇を噛む。


見間違えるはずがない。


自分が設計した構造だった。


◇ ◇ ◇


「何が埋まってるんだ」


レイが聞く。


ミアは答えた。


「魔石」


その言葉に全員が黙る。


魔石。


聞いたことのないものではない。


だが普通ではない。


ミアは続けた。


「魔石そのものは、感情や魔力を蓄える結晶なの」


ミアは白竜の胸元を見つめた。


黒い光が脈打つたび、白竜の爪が地面へ食い込む。


「でも、あれは普通じゃない」


「何が違う?」


ダミアンが尋ねる。


「分からない。でも、魔石が光るたびに白竜が苦しんでる」


白竜の喉から低い声が漏れた。


怒りではない。


悲鳴に近かった。


「あの魔石が、白竜の意思を押さえ込もうとしてる」


ミアは唇を噛んだ。


「それでも白竜は抵抗してるんだ」


白竜は今も苦しそうに呼吸している。


昨日まで見えなかった。


いや。


見えていなかった。


怒っているように見えた。


暴れているように見えた。


だが違う。


「あいつ……苦しんでる」


ミアが言った。


白竜は再び低く唸った。


怒りではない。


悲鳴に近かった。


◇ ◇ ◇


レイが白竜を見る。


「あいつが被害を出してたんだよな」


「そうだ」


ダミアンも否定しない。


事実だ。


牛も失われた。


建物も壊れた。


被害者はいる。


だが。


「それでも人を殺さなかった」


ダミアンが言う。


ミアも頷いた。


「抵抗してるんだと思う」


「抵抗?」


「魔石に」


その言葉で全てが繋がった。


山から離れない理由。


人間を執拗に襲わない理由。


子竜を守ろうとした理由。


理性を失いきっていないからだ。


白竜は今も戦っている。


体内の何かと。


◇ ◇ ◇


子竜が親竜の足元へ寄り添う。


白竜はそっと頭を下げた。


それだけで十分だった。


怪物には見えない。


親だった。


そして被害者だった。


ミアは拳を強く握る。


白竜の胸にある傷を見つめながら。


自分が作ったかもしれない装置。


自分が関わったかもしれない苦しみ。


胸が締め付けられる。


「ごめん……」


誰にも聞こえないほど小さな声だった。


ダミアンは聞かなかったふりをした。


白竜を見上げる。


討伐すべき怪物なのか。


それとも、誰かに利用された被害者なのか。


もう答えは見えていた。


だが被害が出ていることも事実だった。


その二つを、どちらもなかったことにはできない。


「戻ろう」


今度は、何をするべきかを決めなければならなかった。


四人は洞窟を後にした。


その背中を見送る黄金の瞳は、どこか昨日より穏やかに見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。