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第33話 白竜

岩山へ入ると、空気が変わった。


木々は生えている。


風も吹いている。


だが静かだった。


あまりにも静かすぎる。


鳥の鳴き声がない。


獣が動く気配もない。


レイが辺りを見回した。


「気味悪いな」


「獣がいない」


ミアも周囲を見る。


山には必ず小動物がいる。


鳥がいる。


虫がいる。


それが自然だ。


だが、この山には何もいなかった。


まるで何かを恐れて逃げ出したように。


四人は慎重に進む。


地面には大きな爪痕が残されていた。


岩を削った跡もある。


目撃情報の中心地は近い。


やがて開けた場所へ出た。


その瞬間だった。


巨大な影が頭上を覆う。


風が唸る。


レイが反射的に飛び退いた。


次の瞬間、巨大な何かが目の前へ降り立つ。


地面が揺れる。


土煙が舞う。


そして姿を現した。


白竜。


銀白の鱗。


巨大な翼。


黄金の瞳。


想像していた以上の巨体だった。


ミアが息を呑む。


「大きい……」


白竜は何も言わない。


ただ侵入者を見つめている。


その視線には明確な警戒があった。


レイが拳を握る。


「やっぱり話し合いとか無理そうだな」


白竜の喉が低く唸る。


次の瞬間。


レイが駆けた。


地面を砕く勢いで距離を詰める。


怪力の呪い。


全力の拳が振り抜かれる。


拳は白竜の前脚へ命中した。


鈍い衝撃音。


だが。


「硬ぇ!」


レイの表情が変わる。


岩を殴ったような感触だった。


白竜はわずかによろめいただけ。


直後、巨大な尾が唸りを上げる。


レイは防御する暇もなかった。


吹き飛ばされる。


岩へ叩き付けられた。


「ぐっ!」


土煙が上がる。


だが白竜は追撃しない。


黄金の瞳は四人全員を警戒していた。


その時。


ゲンジが動いた。


刀が鞘から抜かれる。


一歩。


二歩。


三歩。


次の瞬間には白竜の懐へ潜り込んでいた。


鋭い斬撃。


白い鱗へ火花が散る。


白竜が爪を振るう。


ゲンジは紙一重で避けた。


地面が裂ける。


岩壁が砕ける。


凄まじい力だった。


普通の人間なら一撃で終わる。


だがゲンジも止まらない。


斬る。


避ける。


踏み込む。


白竜もまた応じる。


一人と一頭の攻防が続いた。


しかし。


ゲンジは気付いた。


(妙だな)


爪は鋭い。


力も強い。


だが攻撃が甘い。


仕留める動きがない。


達人だからこそ分かる。


本気で殺すなら違う。


もっと確実に急所を狙う。


もっと逃がさない。


もっと執拗になる。


だが白竜はそうしない。


やがて距離が開いた。


白竜は翼を広げる。


レイが起き上がる。


「逃がすか!」


追おうとする。


だがダミアンが止めた。


「待て」


「なんでだ?」


白竜は飛び立たない。


まだこちらを見ている。


まるで確認しているようだった。


敵が追ってくるかどうかを。


そして。


ゆっくりと後退した。


一歩。


また一歩。


警戒を解かないまま。


やがて翼を大きく広げる。


風が吹き荒れた。


白竜は山の奥へ飛び去っていく。


静寂が戻った。


レイは納得できない顔をしていた。


「なんなんだよあいつ」


ゲンジも刀を納める。


「倒せた場面は何度もあった」


ミアも頷く。


自分たちが優勢だったわけではない。


むしろ白竜の方が強かった。


それでも。


殺そうと思えば殺せた。


そんな場面がいくつもあった。


だが白竜はそうしなかった。


ダミアンは飛び去った方向を見る。


白竜は最初から同じ方向を守るように動いていた。


侵入者を遠ざけることばかり考えていた。


獲物を狩る動きではない。


「何かあるな」


レイが振り返る。


「何が?」


ダミアンは答える。


「奥だ」


山のさらに奥。


白竜が帰っていった場所。


「たぶん、あいつが離れられない理由がある」


風が吹く。


遠くから白竜の鳴き声が聞こえた。


怒りではない。


警告でもない。


どこか不安を含んだ声だった。


ダミアンは山の奥を見つめる。


答えは近い。


そんな気がしていた。

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