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第29話 仲間の背中

「来る」


ダミアンが空を見上げる。


「何が」


「でかいのが」


説明になっていない。


だが、全員に嫌な予感が走る。


夕方、山道の木々が揺れ、鳥が一斉に飛び立った。


ドォォォォォン!!


地面が震える。


巨大な影。


黒く変色した皮膚。膨れ上がった身体。結晶化した腕。


ラングレー子爵だったもの。


魔石に飲まれ、人の形を失った怪物。


「避難!」


リーシャが叫ぶ。


ディダが子供たちを診療所へ誘導し、ミアは工房側で住民を守る。


怪物が家一軒分の岩を投げる。


ダミアンの風が軌道を逸らす。


レイが怪力で拳を叩き込むが、怪物は止まらない。


その時、刀が抜かれた。


ゲンジだった。


斬撃が怪物の腕を吹き飛ばす。


「すげぇ……」


ゲンジは答えない。


ダミアン、レイ、ゲンジ。


三人が同時に動く。


風。怪力。剣技。


初めての共闘だった。


だが怪物の傷は何度も再生する。


「魔石だ!」


怪物の胸で黒い光が脈打っている。


「あれを壊せば終わる!」


怪物が工房へ腕を振り上げた。


ダミアンの風が正面から巨体を押し返す。


「レイ、脚だ!」


「分かってる!」


レイの拳が膝へ食い込み、怪物の姿勢が崩れた。


ゲンジが胸へ踏み込み、魔石を覆う結晶を一枚、二枚と断つ。


だが、傷口はすぐに閉じ始める。


「閉じさせるな!」


ダミアンの暴風が裂け目へ吹き込み、再生する結晶を押し開いたままにする。


レイが怪物の脚を両腕で抱え、動きを止める。


「今だ、ゲンジ!」


初めて、ゲンジは二人へ背中を預けた。


キィィン!!


結晶が砕ける。


だが。


ドクン。


魔石が脈打った。


破壊したはずの結晶が再生する。


「何!?」


怪物の拳が振り下ろされる。


ドォォォォォン!!


三人とも吹き飛ばされた。


静寂。


怪物はまだ立っている。


レイが歯を食いしばる。


「ふざけんな……」


ゲンジは刀を握り直した。


「もう一度だ」


ゲンジは刀を握る。


強く。さらに強く。


胸の奥に嫌な熱が走る。


戦場、血、悲鳴、死体。


危険だと知っている。


それでも怪物を倒すため、力を解放する。


刀が消えたように見えた。


次の瞬間、怪物の胸が裂け、魔石が露出する。


ダミアンの風が傷口を開き続ける。


ゲンジが核への道を切り開く。


そしてレイが飛び込み、全力の拳を叩き込んだ。


魔石が砕ける。


ドォォォォォン!!


怪物は崩れ落ちた。


勝った。


そのはずだった。


「終わっ……」


レイの言葉が止まる。


空気が変わった。


重い殺気。


ゲンジが刀を握ったまま立っている。


瞳は赤黒く、呼吸は荒い。


ダミアンが小さく呟く。


「まずい」


怪物は倒した。


だが今度は、ゲンジ自身が何かと戦っている。


刀を握る手が震える。


「……下がれ」


「何だって?」


「下がれ」


その声には恐怖が混じっていた。


黒い力が、ゆっくりと溢れ始める。

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