第27話 強さの代償
薄い霧が畑を覆っていた。
レイは丘を登る。
目的は一つ。ゲンジだった。
丘の上には焚き火、酒瓶、刀。
「来たのか」
「来た」
しばらく風だけが吹く。
レイが先に聞いた。
「なんでそんなに強い」
ゲンジは答えない。
やがて口を開く。
「弱かったからだ」
「どういう意味だ」
「守れなかった」
昔、守りたい人がいた。
仲間がいた。家族もいた。
しかし守れなかった。
自分が弱かったから。
だから誰よりも、何よりも強くなった。
「その結果が今か」
ゲンジは肯定も否定もしない。
沈黙が答えだった。
「強くなれば守れるのか」
「守れる」
迷いはない。
レイは首を傾げた。
「でも、仲間いないだろ」
酒瓶を持つ手が、ほんの少し止まる。
「家族もいない。一人だ。それで守れたのか」
ゲンジは答えない。
答えられない。
やがて言った。
「お前はうるさいな」
「よく言われる」
ゲンジの口元が僅かに動いた。
◇ ◇ ◇
レイが刀を見た。
「その呪い、名前はあるのか」
ゲンジは焚き火を見つめた。
「修羅だ」
風が止まった。
「修羅の呪い。生き残る代わりに、最後は自分まで食い尽くす」
戦えば戦うほど、身体は速くなる。
刀は重くなり、痛みも恐怖も消えていく。
「便利な力だ」
「その代わりは?」
レイの問いに、ゲンジは火を見る。
「止まれなくなる」
敵も味方も分からなくなる。
目の前にあるものを、何もかも壊すまで。
それが、ゲンジが一人でいる理由だった。
「じゃあ、なんで使う」
「守るためだ」
「守れてないじゃないか」
ゲンジの視線がレイへ向く。
「仲間も家族もいない。それで何を守ったんだ」
沈黙。
風が焚き火を揺らす。
「お前は本当にうるさいな」
「それもよく言われる」
◇ ◇ ◇
夜。
ゲンジは丘から、ホワイトファルコンの灯りを見ていた。
だが、長く眺めることはしなかった。
レイの言葉だけが残っている。
それで守れたのか。
どれだけ強くなっても、失ったものは戻らない。
遠くの灯りへ背を向ける。
それでも一歩目は、いつもより遅かった。




