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第26話 力しかない男
レイは井戸の横へ座っていた。
腹も脇腹も痛い。
完敗。その言葉しかない。
「まだ落ち込んでるの?」
ミアだった。
「落ち込んでない」
「そう? じゃあ怒ってるんだね」
レイは答えない。図星だった。
ゲンジは消えなかった。
まだ近くで野営しているらしい。
「気になる?」
「ならない」
「嘘だね」
レイは顔を背けた。
◇ ◇ ◇
翌朝。
ダミアンは薪を割っていた。
その前へゲンジが現れる。
しばらく薪を割る音だけが響く。
やがてゲンジが口を開いた。
「理解できん」
「何がだ」
「お前だ。昨日、なぜあの盗賊を殺さなかった」
「必要なかったからな」
「必要だった。脅威は消す。敵は減らす。その方が安全だ」
戦場では正しい理屈だった。
ダミアンは少し考える。
「そうかもしれない」
「反論しないのか」
「たぶん、お前は正しい。でも違う」
「何がだ」
ダミアンは畑、診療所、工房、子供たちを見る。
「守りたいものがある」
「戦うために生きてるわけじゃない。守るために戦ってる」
「同じだ」
「違う。全然違う」
ゲンジは黙った。
◇ ◇ ◇
その夜。
ゲンジは丘で一人、酒を飲んでいた。
ダミアンの言葉が頭から離れない。
守りたいものがある。
昔、守りたいものがあった。
守れなかった。
強さが足りなかった。
だから誰よりも強くなった。
それなのに、胸の奥が少しだけ痛んだ。




