第23話 白い隼の村
昼下がり。
秋風が畑を揺らしていた。
一人の男が白い隼の風見鳥の下を歩いていた。
黒い羽織。腰には一本の刀。長い黒髪。
ただ歩いているだけなのに、自然と人々が道を開ける。
誰も声を掛けない。正確には、掛けられない。
男は気にも留めず、畑、診療所、工房、走り回る子供たちを見る。
そして小さく呟いた。
「これが鉱山を落とした連中か」
どう見ても村だった。
戦士の集団には見えない。
◇ ◇ ◇
街道側から怒鳴り声が聞こえた。
「道を開けろ!」
酔った男が三人。街道を通っていた移住者の老人へ絡んでいる。
「聞こえねえのか!」
老人が後ずさる。周囲の子供たちも離れた。
黒髪の男は立ち止まり、黙って見ていた。
そこへダミアンが歩いてくる。
「どうした」
「関係ねえ!」
盗賊崩れの一人が剣を抜く。
次の瞬間、風が吹いた。
剣が手から抜け、空中を舞う。
さらにリーシャの蔓が地面から伸び、三人の足へ絡み付く。
勝負は終わった。
ダミアンは追撃しない。殴りもしない。剣も抜かない。
近くの移住者へ言った。
「誰か衛兵を呼んできてくれ」
「分かった!」
移住者が走る。
「衛兵に引き渡せば終わりだ」
盗賊たちは青い顔になった。
だが、誰も死なない。
黒髪の男は、その様子を見ていた。
殺せた。簡単に。
それなのに、なぜ生かした。
理解できない。
だから興味を持った。
◇ ◇ ◇
夕方。
ダミアンは木材を整理していた。
黒髪の男が近付く。
「用か」
「お前がダミアンか」
「ああ」
少し沈黙。
「一つ聞く。なぜ盗賊たちを殺さなかった」
ダミアンは少し考えた。
「衛兵の仕事だからな」
男は黙る。
「俺は盗賊狩りじゃない。ここを守れればそれでいい」
男には、その答えが分からなかった。
今までの人生なら、脅威は消す。それが正解だった。
その時、横から声が飛ぶ。
「おい」
レイだった。
最初から、この男が気に入らなかった。
「何見てる」
「別に」
「喧嘩売ってるのか」
「売ってない」
「ならなんだ」
男はレイを見た。
「お前が一番強そうだった」
レイの眉が動く。
「やるか?」
即答だった。
ダミアンが額を押さえる。
「レイ」
遅かった。
男は肩をすくめる。
「別に構わん」
刀へ手を置く。
レイは拳を握る。
空気が張り詰める。
男の名は、ゲンジ。
この出会いが、ホワイトファルコンを大きく変えることになる。




