第22話 千人斬りの用心棒
街道沿いの小さな酒場。
旅人たちが酒を飲んでいた。
しかし、一つだけ誰も近付かない席がある。
窓際。一人の男。
黒髪。鋭い目。腰には一本の刀。
無言で酒だけを飲んでいる。
誰も話しかけない。誰も目を合わせない。
皆、あの男を知っているからだ。
酒場の扉が開く。
子爵家の使者だった。
使者は迷わず窓際へ向かう。
「探しました」
男は顔も上げない。
「そうか」
「ラングレー子爵がお呼びです」
「断る」
即答だった。
使者の顔が青くなる。
「今回は特別です。報酬も出ると」
男の手が、少しだけ止まった。
◇ ◇ ◇
翌日。
領都。ラングレー子爵邸。
執務室には、失われた鉱山と止まった工房の報告書が積まれている。
扉が開く。
「連れて参りました」
ゆっくりと男が入ってくる。
刀。黒髪。無言。
子爵は咳払いした。
「仕事だ」
「報酬は」
やはり、それからだった。
「払う」
男は頷く。
「内容は」
子爵は書類を投げる。
男は受け取らない。書類は床に落ちた。
子爵の額に青筋が浮くが、我慢した。
「ホワイトファルコン」
男が初めて反応する。
「聞かない名前だ」
「最近現れた連中だ。私の鉱山を潰し、呪い子どもを逃がした」
男は黙って聞いている。
「潰せ」
短い命令。
男はしばらく黙り、やがて尋ねた。
「人数は」
「五、六人らしい」
男の眉が僅かに動く。
「少ない」
「だからお前を呼んだ」
男は初めて書類を拾った。
鉱山崩壊。工房停止。呪い子大量逃亡。五人程度の集団。
「本当にやったのか」
「何?」
「五人で」
子爵は眉をひそめる。
「だから調べていると言っている!」
「なるほど」
男は書類を閉じた。
「引き受けるな?」
男は少し考える。
「まだ受けていない」
子爵の眉が動く。
「何?」
「見てから決める」
「命令だ。潰せ」
男は初めて子爵を見た。
「俺は兵士じゃない」
静かな声に、部屋の空気が変わる。
「依頼なら受ける。命令なら帰る」
子爵の顔が歪む。
しかし何も言えない。
目の前の男が、本当に化け物だからだ。
◇ ◇ ◇
男は部屋を出る。
使者が小さく呟いた。
「今回は誰と戦うんです」
「知らん」
男は少しだけ空を見上げる。
「五人で鉱山を落としたなら、面白いかもしれん」
夕日の中、刀を揺らして歩き去る。
千人斬りの用心棒。
ゲンジ。




