↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/50

第21話 増えた家族

秋の風が吹いていた。


白い隼の風見鳥がゆっくり回る。


少し肌寒い。


だが、ホワイトファルコンの朝は相変わらず騒がしかった。


「レイー!」


元気な声に、レイは嫌そうな顔をした。


「なんだ」


「井戸!」


「嫌だ」


「なんで!」


「昨日やった」


少女は胸を張った。


「今日は違う井戸!」


レイは天を仰いだ。


意味が分からない。本当に分からない。


だが、結局行く。それも最近では当たり前になっていた。


「レイ! 今度は薪!」


「お前ら人を何だと思ってる」


少女たちは笑った。


レイはため息を吐く。


その顔を見ていたリーシャが呟く。


「変わったわね」


ディダが首を傾げる。


「そう?」


「昔なら逃げてた」


レイは聞こえないふりをした。


◇ ◇ ◇


工房。


ミアは机を作っていた。


新しい住民が増えた。机も椅子も棚も足りない。


だから作る。


木材へ触れる。淡い光。錬金術。


木が形を変え、やがて立派な机になった。


「できた」


ロイドが目を輝かせる。


「早い……」


ミアは少し笑った。


「普通だよ」


「普通じゃないです」


即答だった。


工房には机、椅子、収納棚、農具が並んでいる。


昔、ミアは武器を作っていた。


今は、人が暮らすための物を作っている。


その違いは大きかった。


◇ ◇ ◇


診療所。


ディダは新しい住民の診察をしていた。


怪我。栄養不足。疲労。


症状は様々だった。


そして、休まない。


「ディダ」


リーシャが呼ぶ。


「何?」


「休憩」


「まだ大丈夫だよ」


リーシャは眉をひそめた。


「それ、前も聞いた」


「でも」


「でもは禁止」


即答だった。


ディダは大人しく椅子へ座る。


しかし視線は患者たちへ向いていた。


リーシャはため息を吐く。


この子も相変わらずだった。


◇ ◇ ◇


夕方。


ダミアンとリーシャは畑を見ていた。


以前の何倍も広い。


畑。工房。診療所。新しい住居。


人も増えた。


リーシャは小さく笑う。


「本当に増えたわね」


ダミアンも見る。


走り回る子供たち。働く移住者。工房で笑うミア。診療所のディダ。井戸へ向かうレイ。


少し考える。


「そうだな」


短い返事だった。


でも、どこか嬉しそうだった。


◇ ◇ ◇


その頃。


領都。ラングレー子爵邸。


「何だとぉぉぉ!!」


怒鳴り声が響いた。


執務室の床には割れたインク瓶。机の前には、顔を真っ赤にしたラングレー子爵。


「工房停止!? 採掘停止!? ほぼ全員逃亡!?」


ドンッ!!


机を叩く。


「いくら損害が出ると思っている!!」


部下たちは顔を青くしていた。


「申し訳ありません」


「謝って済む問題か!! 今季の収支が全部狂ったんだぞ!!」


書類を投げる。


「何なんだ、そのホワイトファルコンという連中は!!」


「現在調査中です」


子爵はさらに机を叩く。


「だったら、さっさと調べんか!! 何をしている!!」


冷静さなど残っていない。


失ったのは人ではない。利益だった。


だから怒っている。それだけだった。


しばらく怒鳴った後、子爵の動きが止まる。


何かを思い出したように。


「そうだ」


部下が顔を上げる。


「閣下?」


子爵は椅子へ座り直し、口元を歪めた。


「そうだ、あいつを使う」


部下の顔色が変わる。


「まさか……」


「こういう時のために雇っているんだ」


子爵は笑った。


「千人斬りの用心棒を」


沈黙。


その名は領都でも有名だった。


「探して来い。今度は奴を使う」


窓の外で夕日が沈み始めていた。


◇ ◇ ◇


その頃、街道沿いの小さな酒場。


一人の男が静かに酒を飲んでいた。


黒髪。鋭い目。腰には一本の刀。


誰も近付かない。誰も話しかけない。


男は気にも留めず、静かに酒を飲む。


その男を、人々はこう呼んだ。


千人斬りの用心棒。


ゲンジ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。