第21話 増えた家族
秋の風が吹いていた。
白い隼の風見鳥がゆっくり回る。
少し肌寒い。
だが、ホワイトファルコンの朝は相変わらず騒がしかった。
「レイー!」
元気な声に、レイは嫌そうな顔をした。
「なんだ」
「井戸!」
「嫌だ」
「なんで!」
「昨日やった」
少女は胸を張った。
「今日は違う井戸!」
レイは天を仰いだ。
意味が分からない。本当に分からない。
だが、結局行く。それも最近では当たり前になっていた。
「レイ! 今度は薪!」
「お前ら人を何だと思ってる」
少女たちは笑った。
レイはため息を吐く。
その顔を見ていたリーシャが呟く。
「変わったわね」
ディダが首を傾げる。
「そう?」
「昔なら逃げてた」
レイは聞こえないふりをした。
◇ ◇ ◇
工房。
ミアは机を作っていた。
新しい住民が増えた。机も椅子も棚も足りない。
だから作る。
木材へ触れる。淡い光。錬金術。
木が形を変え、やがて立派な机になった。
「できた」
ロイドが目を輝かせる。
「早い……」
ミアは少し笑った。
「普通だよ」
「普通じゃないです」
即答だった。
工房には机、椅子、収納棚、農具が並んでいる。
昔、ミアは武器を作っていた。
今は、人が暮らすための物を作っている。
その違いは大きかった。
◇ ◇ ◇
診療所。
ディダは新しい住民の診察をしていた。
怪我。栄養不足。疲労。
症状は様々だった。
そして、休まない。
「ディダ」
リーシャが呼ぶ。
「何?」
「休憩」
「まだ大丈夫だよ」
リーシャは眉をひそめた。
「それ、前も聞いた」
「でも」
「でもは禁止」
即答だった。
ディダは大人しく椅子へ座る。
しかし視線は患者たちへ向いていた。
リーシャはため息を吐く。
この子も相変わらずだった。
◇ ◇ ◇
夕方。
ダミアンとリーシャは畑を見ていた。
以前の何倍も広い。
畑。工房。診療所。新しい住居。
人も増えた。
リーシャは小さく笑う。
「本当に増えたわね」
ダミアンも見る。
走り回る子供たち。働く移住者。工房で笑うミア。診療所のディダ。井戸へ向かうレイ。
少し考える。
「そうだな」
短い返事だった。
でも、どこか嬉しそうだった。
◇ ◇ ◇
その頃。
領都。ラングレー子爵邸。
「何だとぉぉぉ!!」
怒鳴り声が響いた。
執務室の床には割れたインク瓶。机の前には、顔を真っ赤にしたラングレー子爵。
「工房停止!? 採掘停止!? ほぼ全員逃亡!?」
ドンッ!!
机を叩く。
「いくら損害が出ると思っている!!」
部下たちは顔を青くしていた。
「申し訳ありません」
「謝って済む問題か!! 今季の収支が全部狂ったんだぞ!!」
書類を投げる。
「何なんだ、そのホワイトファルコンという連中は!!」
「現在調査中です」
子爵はさらに机を叩く。
「だったら、さっさと調べんか!! 何をしている!!」
冷静さなど残っていない。
失ったのは人ではない。利益だった。
だから怒っている。それだけだった。
しばらく怒鳴った後、子爵の動きが止まる。
何かを思い出したように。
「そうだ」
部下が顔を上げる。
「閣下?」
子爵は椅子へ座り直し、口元を歪めた。
「そうだ、あいつを使う」
部下の顔色が変わる。
「まさか……」
「こういう時のために雇っているんだ」
子爵は笑った。
「千人斬りの用心棒を」
沈黙。
その名は領都でも有名だった。
「探して来い。今度は奴を使う」
窓の外で夕日が沈み始めていた。
◇ ◇ ◇
その頃、街道沿いの小さな酒場。
一人の男が静かに酒を飲んでいた。
黒髪。鋭い目。腰には一本の刀。
誰も近付かない。誰も話しかけない。
男は気にも留めず、静かに酒を飲む。
その男を、人々はこう呼んだ。
千人斬りの用心棒。
ゲンジ。




