第14話 鉱山町
翌朝。
ダミアン、リーシャ、レイ、ディダ、そしてロイドは南へ向かっていた。
秋風が吹く。
白い隼の風見鳥は見えなくなり、周囲には岩山が増えていた。
「もう近いです」
ロイドが言う。
だが、その声は少し硬い。
「緊張してるのか」
ダミアンが尋ねた。
ロイドは少し黙った。
「……はい」
正直だった。
逃げ出した場所へ戻る。
怖くないはずがない。
「そうか」
ダミアンはそれ以上聞かなかった。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
山道を抜けた先でロイドが足を止めた。
「あれです」
谷の向こう。
巨大な鉱山が見えた。
山肌を削る採掘場。
高い柵。
見張り塔。
巨大な工房。
何本もの煙突から黒い煙が上がっている。
「でかいな」
レイが呟く。
ダミアンも頷いた。
「思ったより大きい」
ロイドの表情は暗かった。
「ここで働かされてました」
◇ ◇ ◇
町へ近付く。
荷車を押す人々が見えた。
疲れ切った顔。
泥だらけの服。
監視する私兵たち。
そして列の中には赤い瞳の者も多い。
「呪い子だけじゃないんだな」
ディダが言った。
ロイドが頷く。
「借金を返せなくなった人もいます」
「徴用された人もいます」
老人。
若者。
女性。
子供に近い年齢の者までいる。
皆、同じように疲れていた。
その時だった。
荷車を押していた老人がよろけた。
私兵が怒鳴る。
「止まるな!」
老人が慌てて荷車を押す。
周囲は視線を逸らした。
助ければ自分が殴られる。
そう分かっているからだった。
レイの拳が握られる。
リーシャが静かに言った。
「最低ね」
否定する者はいなかった。
◇ ◇ ◇
少し離れた場所から巨大な工房を見る。
絶えず金槌の音が響いていた。
武器を積んだ荷車が何台も出入りしている。
ロイドが口を開いた。
「ここで武器が作られてます」
「全部あそこか」
「はい」
ロイドは頷く。
そして続けた。
「一番苦しんでいる人も、あの中にいます」
ダミアンは工房を見つめた。
だが、それ以上は聞かなかった。
今はまだ状況を確認する時間だった。
◇ ◇ ◇
同じ頃。
工房二階の事務室。
ラングレー子爵は報告書へ目を通していた。
「今月の生産量は?」
「順調です」
工房長が答える。
「武器の納入も予定通り進んでおります」
子爵は満足そうに頷いた。
「良い」
机には利益の数字が並んでいる。
それだけで十分だった。
「採掘量をもっと増やせ」
「はい」
人の話は一つも出ない。
増えた利益。
減った利益。
子爵にとって重要なのはそれだけだった。
報告が終わる。
執事が次の書類を差し出した。
領地図。
子爵は何気なく目を落とした。
森。
川。
農地。
孤児院周辺の土地。
以前見た資料だった。
「あの土地か」
子爵が呟く。
「まだ残っていたな」
「放置されています」
執事が答える。
子爵は鼻を鳴らした。
「もったいない話だ」
森も。
川も。
農地も。
全て金になる。
「そのうち回収する」
軽く言い捨てる。
今は鉱山の方が重要だった。
子爵は再び報告書へ目を戻した。
◇ ◇ ◇
夕方。
労働者用の食堂。
ロイドは入口の陰から中を見つめていた。
見覚えのある顔が並んでいる。
一緒に働いていた仲間たち。
誰も笑っていない。
ロイドの足が止まる。
会いたかった。
だが怖かった。
自分だけ逃げた。
その事実は消えない。
「行かないのか」
ダミアンが聞く。
ロイドは俯いた。
「怒ってると思います」
「そうか」
短い返事。
そしてダミアンは言った。
「なら聞けばいい」
ロイドは苦笑した。
簡単じゃない。
でも。
ここまで戻ってきたのだ。
逃げたままで終わりたくなかった。
夕日が鉱山町を赤く染める。
ホワイトファルコンはまだ知らない。
この町で苦しむ人々のことも。
工房の中にいる少女のことも。
だが確実に、一歩ずつ真実へ近付いていた。




