第12話 翼の下へ
数日後、丘の向こうに古い孤児院が見えた。
畑、果樹園、屋根の上の白い隼の風見鳥。
「あれか」
「ああ」
レイは拍子抜けした。
「普通だな」
「普通じゃないわ。住人が」
リーシャの答えに、レイは納得した。
◇ ◇ ◇
門が見えると、子供たちが一斉に飛び出してきた。
「おかえりー!」
「ただいま」
ダミアンとリーシャが笑う。
パンをくれた少女がレイとディダを見上げた。
「はじめまして! ようこそホワイトファルコンへ!」
「はじめまして。ありがとう」
ディダは柔らかく笑った。
レイは歓迎されることに慣れておらず、どう返せばいいのか分からなかった。
◇ ◇ ◇
夕方、少女がレイの腕を引いた。
「仕事!」
「は?」
食堂には大きな桶と山積みの皿があった。
「お皿洗い!」
「嫌だ」
「ご飯食べられなくなるよ?」
「なんだそのルール」
「ダミアンが決めた!」
「意味が分からん」
だがリーシャも院長も子供たちも働いている。逃げ場はなかった。
結局、レイは大量の皿を洗った。
◇ ◇ ◇
夕食には巨大な猪の丸焼きが並んだ。
長い食卓を、子供たち、院長、ダミアン、リーシャ、ディダが囲んでいる。
「座って! いっぱい食べていいよ!」
「なんでだ」
「働いたから!」
皿を洗った。それだけだ。
なのに誰も文句を言わない。誰も見下さない。誰も値踏みしない。
ただ、同じ食卓につく。
理解はできない。だが、嫌ではなかった。
◇ ◇ ◇
夜。レイは一人で中庭へ出た。
白い隼の風見鳥がゆっくり回っている。
ダミアンが隣へ座った。
「どうだ」
レイは長く考えた。
「変な場所だ」
ダミアンも少し考える。
「そうだな。俺もそう思う」
「自覚はあるのか」
「ああ。でも嫌いじゃない」
レイは窓から漏れる灯りを見た。
働けば飯が食えるという変なルール。巨大な猪を担いでくる変な団長。
確かに全部変だった。
「でも……悪くない」
それだけだった。ダミアンには十分だった。
◇ ◇ ◇
翌朝、少女が尋ねた。
「レイ! 今日何の仕事するの?」
「……知らない」
「じゃあ畑!」
ディダが手を挙げる。
「私も手伝うよ」
「もう馴染むのか」
「悪くないから」
レイは否定しなかった。
気付けば、この場所での次の予定を考えている。
白い隼の風見鳥が朝日に輝いた。
その日、二人は白い隼の翼の下へ迎えられた。




