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単位認定試験「勉強」への道


「肝硬変の原因って、長期間の過度のアルコール、薬物や有害物質の摂取……それと感染。

あと、肝臓がんだっけ」

「え?逆じゃない?肝硬変から肝細胞がんになるんじゃなかった?」


私たちは前期の単位認定試験に向けて、大学の図書館で勉強をしている。

大学受験の時は、ひとりでコツコツ勉強していたけれど、みんなで話しながらだと、新たな気付きがあったりして、面白い。


「そう?そっか……。この感染って、細菌感染?」

「それはウィルスだよ。私たちも打ったじゃん、B型とかC型とか。実習前にさ」

「ああ、すごく痛かったやつ?」

「私は痛くなかったよ」


この大学にはPTAが存在していて、私たちの保護者が払うPTA会費から学生の抗体検査や必要な予防接種のお金を払ってくれているのだ。

ありがたい。私も痛かったけど。


「BとCがあるならA型ウィルスは?肝硬変の原因にならないの?

「A型肝炎ウィルスは、急性肝炎の原因になりますが、慢性化しないので肝硬変の原因になることはないと、先生がおっしゃっていましたよ」

「すごいね、絹恵さん。記憶力が良いんだね」


「もうさ、あの爺ちゃん先生、スライドに書いてないこと話すの、やめて欲しいよね。しかも、モゴモゴ言って、聴き取りにくいし。ホント、この授業つまんなくてマジ最悪!」

「しかも授業数が多いから、試験範囲が広すぎて、ヤマをかけられなーい!」

「ホント、それな!」



「そこの1年生さん達。ディスカッションは、大変良い学びを得られますが、ここは図書館です。

普段なら多少の会話は目を瞑りますが、試験前なので他の方も勉強しています。議論は別の場所で行いましょう」


笑顔なのに、眼が笑っていない司書さんに諭されて、背中に冷たい汗が流れた気分の私たちは、可及的速やかに荷物をまとめて移動した。

そうよね、ほかの人に迷惑だものね。失礼しました。




ヨッシー、舞りん、絹恵さん、愛実ちゃんと私の5人は、もう少し勉強の続きをしようと大学のラウンジに移動してきた。

普段なら真緒ちゃんも一緒に居ることが多いんだけど、今日はヨッシーのお父さんが経営するカフェ○○でバイト中らしい。その分、ヨッシーが大学に残って勉強できると喜んでいた。


「どうやら推しのバンドが久しぶりに活動するらしくてさ。フェスとかライブのチケット買うためにすっげーバイト入ってくれてるんだよね。

ありがたいけど、テスト勉強、大丈夫なのかな」


「推し?」

そっか、愛実ちゃんはベッドメイキングの居残り練習後に繰り広げられた「真緒ちゃんの推し語り」を聴いていなかったものね。


「ホワイト・ストロベリー・バロネスって言うバンドですよ。私もCD借りて、最近、聴いているんです」

「ぐぉっふぉ」

「どした?紀亜。風邪?」

違う。飲もうと思ったほうじ茶オレが変なところに入ってむせただけ。大丈夫。……たぶん。



「すごくね、歌詞が良いんですよ。私にもわかるというか、人の感情の動きが率直に表現されていて。その歌詞が引き立つような音楽もね、耳に心地よいというか」

「耳心地が良いということ?」


「ああ。最近は『耳心地が良い』という表現が多く使われていますが、もともとは『耳障り』という言葉から派生した表現です。

『耳障り』は「聞いていて不快な感じ」を表現する言葉なので、「耳障りが良い」は本来、誤用とされていました。

『耳に心地よい』ことを『耳心地が良い』と表現することは日本語として誤りとは言えなくなっていますが、『耳障り』から派生した表現であることは理解しておくと良いでしょう」


「すごいね、絹恵さん。何でも知って覚えてて。『歩く辞書』って言うよりも『生けるAI』みたいだね」

ヨッシーが『上手いこと言った!』とドヤ顔しているけれど、絹恵さんはちょっとフリーズしている。

どうしたんだろう。


「……」

「絹恵さん?」

「あ、すみません。ご不快な思いをさせてしまったでしょうか。至らなくてすみません」

「そんなことないよ!こちらこそ、ごめん!上手いこと言えたと思ったんだけど、ごめんね」




「そこ!試験勉強と関係のないおしゃべりなら、別の場所に行ってくれない?うるさいんだけどっ!」

おや、星野芽衣さんだ。いつも以上に当たりがキツイなぁ。


「何でそんなにイライラしているのか分からないけど、私たちに八つ当たりしないでくれる?!」

おお、舞りんの当たりも厳しかった。

あれ?ふと見ると、星野さん、涙目だ。


「そんな言い方しなくても、良いじゃない……。

だって、単位、落としたらミコちゃんがまた、お爺ちゃんに怒られるし、ミコちゃんの負担が……」

あら、星野さん、泣き出しちゃった。ストレスかかってるのかな。


「はぁ?!何で、あんたの成績が悪いと美琴さんが怒られないといけないのよ!」

そうだった。舞りん、美琴さんの強火担だから、そりゃ、ヒートアップしますよね。

『強火担』は、推しへの愛の強い人のことを言うんだって。私も最近、ネットスラングとやらを覚えましたよ。


でもね、周囲の視線も冷たいし、星野さんの個人情報が駄々洩れになっちゃうよ。


「このまま話していると、周りにも迷惑だからさ、ウチの店に来る?ついでに、バイト中の真緒ッチもテスト勉強に巻き込めるからさ」

空気を読んだヨッシー、グッジョブ。






私たちは再び移動して、カフェ○○の売り上げに貢献するべく、夕食を摂ることにした。ヨッシーが「まいどありー!」と良い笑顔で言う。

あれ?グッジョブなのはカフェ○○にとってのグッジョブだったのかな。

ともかくそこで、私たちは星野さんから星野家の話を聴くことになった。




星野さん・・・ややこしいので、もう芽衣ちゃんと呼ぶことになった。

芽衣ちゃんのお母さんは美琴さんのお姉さんでーー


お父さんは、なんと!もともとは美琴さんの婚約者だったんだって。


だけど、妹の婚約者に一目ぼれした芽衣ちゃんのお母さんが、芽衣ちゃんを身籠ったことで、その婚約はなかったことになったらしい。


なんだかこの時点で、既に複雑。


「え、ちょっと待って。

妹の婚約者を寝取ったのが実の姉で、芽衣ちゃんのお母さん?


昼ドラ?成人向けのネット小説並みの設定!

しかもドロドロ系!続きを詳しく!」


愛実ちゃんが前のめりになった。さては、恋バナ好きだな。


さらに、芽衣ちゃんが語るには、実家は梅川の向こう側にある星野病院なんだって。

今の病院長である芽衣ちゃんのお爺ちゃんは、芽衣ちゃんがナースになるのに大反対で、そもそも美琴さんがナースになるのも反対していたそうだ。


だから、星野病院の副院長をしている芽衣ちゃんパパは、お爺ちゃんの顔色を見て、芽衣ちゃんの学費は一般大学の学費分しか出してくれないんだって。


そして、その残りの学費は美琴さんが出してくれているそうだ。


だから、単位認定試験に落ちたら、再試験にお金がかかると知ってーー

プレッシャーなんだ、と芽衣ちゃんは涙ぐみながら語った。



黙って話を聴いていた舞りんが、芽衣ちゃんに声をかけた。


「それならしっかり勉強するしかないじゃない!

それか、再試験のお金を自分で出すかだね。そもそも、あんた、バイトは?」


「そんな余裕もないし、どこで探したら良いかも分からないから、してない」

「あんた、ホントに馬鹿だね!そんなに美琴さんにお世話になっているのに、感謝もしないで努力もしないなんて!」

「そんなに怒らないでぇ……」


弱いわあ、芽衣ちゃん。

ツンツンしていたのは、この弱さを隠すためだったのね。



「それにしても美琴さんってば、しごできナースなだけでなく、ドアマットヒロインの環境まで整っていたとは」

「しごでき?ドアマット?」


「『しごでき』は仕事ができる人のことだよ。

ドアマットって、玄関とかに置いてあるから色んな人に踏まれるでしょ。


それを比喩表現として、ものすごく虐げられているけど、いつかは幸せになる物語のヒロイン、てのが『ドアマットヒロイン』ですよ。


私でも、絹恵さんに教えてあげられることがあって、ちょっと嬉しい」

真緒ちゃんはネットスラングに詳しいらしい。



「芽衣ちゃん。学費が足りないなら、やっぱりバイトすればいいんじゃない?

私、推しに関しては、親のお金使いたくないからバイトを始めたんだ。


私、入学してからは勉強は二の次でいいと思っていたけど、やっぱり勉強も推し活も頑張りたい。

何なら推しのライブチケットが当たるためのスピ活もやりたい。

徳を積んどかないと、当たらないんだよ、ライブチケットって。


若いんだしさ、学生時代はずっとは続くわけじゃないから、今できること、みんなやりたい。

芽衣ちゃんもさ、一緒に頑張ろうよ」


「スピ活?」と絹恵さん。そこ、気になったよね。


「『スピリチュアル活動』の略だよ。ライブとかのチケット当選するために、強運のご利益のある神社に参拝して運気をよくする、ってこと。


今度、一緒に行く?

ついでに、私たちの単位認定試験に向けて、学業成就も祈願しちゃおっか」


愛実ちゃんも詳しい。今どきの大学生はみんな知っている単語なのかしら。

まあ、物知りの絹恵さんも知らなかったのだから、私が知らなくても大丈夫。たぶん。


「バイト以外だったら、今年は締め切ったと思うけど、奨学金とか学費免除の特待生とか、出来ることなら、いくらでもあるんじゃない?

仕方ないから、私も応援するわよ」

お、舞りんがデレた。こういうとこ、結局、優しいんだよね。


「そういえば、舞りんと真緒ッチはウチでバイトしているけど、みんなはどこでバイトしているの?」と、ヨッシー。

カフェ○○は今のところ人では足りているんだって。


「愛実ちゃんは、私たちが通っていた予備校でチューターだっけ。彼氏はそこの講師なんだよね」

お、何ですと?!コイバナ、詳しく!


「チューターは尾崎君。私はそこまで頭が良くないから、事務の手伝い。

予備校ってさ、現役生は学校が終わってからくるから、授業終わりが帰りが遅くなるんだけど、

彼が送ってくれるから安心だしね」


 ヒューヒュー!だね。学内実習の日にデートしていた彼は予備校講師なんだぁ。年上だね。コイバナは良いね。ニヨニヨしちゃう。


「そういう紀亜と絹恵さんは?」

お、ちょっと耳が赤くなった愛実ちゃんから逆襲だ。


「私は、祖父の仕事の手伝いを・・・」

「そういう意味では、私は兄の仕事の手伝いだね」


「みんな、ちゃんとしているんだね。

私、ミコちゃんに甘えて、ぼんやり学生生活を送ってた」


「1年前期の今、気づけたんだもん、早い方じゃない?これから、バイトも勉強も頑張ればいいんだよ」

「真緒ッチは、バイトと推し活とスピ活だけじゃなくて、勉強もだね」

「ううっ、耳が痛い……」

真緒ちゃんとヨッシーは、場を明るくするの、上手だなぁ。


「そういえば、パン屋はどう?メイメイのバイト先。

近所のパン屋、販売担当してくれるアルバイトを探してるって言ってたよ。


ウチで出してるサンドイッチは、そこの食パンなんだ。美味しいし、おじさんとおばさん、僕が小さいときから知っているけど優しいよ」


「またヨッシーの名前もじりのあだ名付けが出たね。でも、メイメイ、良いかもね」と舞りんが笑う。

今日、いっぱい話して、舞りんと芽衣ちゃん改めメイメイの距離も近くなったみたいだね。


「やってみたい、パン屋さんでバイト。

パン、好きなんだ。だから、ミコちゃんもパン作ってくれたりして。

ミコちゃんに、美味しいパンを作ってあげたい!」


「いや、募集しているのは製造じゃなくて販売だよ。結構、抜けてるんだねメイメイ」

メイメイの意外な素顔を知って、これまでのちょっとした壁みたいなのが消えて、みんな笑顔になった。


アルバイトとか恋愛事情で盛り上がったけど、単位認定試験の勉強もしなくちゃ。

それと、スピ活で神頼みかなぁ。


初投稿から、1週間が経ちました。

ここまで連日投稿してきましたが、次回から水曜日と日曜日の週2回更新になります。


引き続き、お付き合い頂けたら嬉しいです。

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