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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のツボミ】/ようかの夜
第2章 求める者と阻む者

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ルルル・ネフリ――知らないはずの少年




 それから、ルピナスたちとの書追求の旅は本格的に始まった。



 ――派閥ルピナス。


 ワタシはその一員として、ルピナスたちと共に動くようになった。


 旅に出ることもあれば、前のように得意な命式術をいじることもあった。

 みんなの役に立つ魔品を作ったり、拠点の防衛式を勝手に作ったりなんかもした。



 ルピナスは自由だった。

 アエリスは真面目だった。

 ぺル爺は優しかった。


 ワタシは命式術をいじり、館の設備を勝手に便利にし、時々やりすぎて怒られたりもした。



 居心地は、悪くなかった。


 いや、かなり良かった。


 自分の居場所を見つけるというのは、こういう感覚なのかもしれない。

 そんなことを、生まれて初めてちゃんと実感した気がする。



 ルピナスたちは、ワタシを便利な道具として扱わなかった。


 もちろん、命式術の腕は買ってくれていた。

 でも、それだけではなかった。


 失敗すれば笑った。

 無茶をすれば怒った。

 成功すれば褒めた。

 くだらない話にも付き合ってくれた。



 イブ請負組での日々が、いつの間にかワタシの中の基準になっていた。


 才能があれば使われる。

 役に立てば褒められる。

 価値がなくなれば捨てられる。

 そういうものだと思っていた。


 でも、ルピナスたちといるうちに、その基準は少しずつ書き換えられていった。


 役に立つからいるのではなく。

 便利だから置かれているのでもなく。



 ただ、そこにいていい。


 そういう関係も、あるらしかった。



 マママの言った通りだ。




「――やっぱり、平和が一番。いろいろあるけど全部含めて平和が一番ダナ」




 まあ、書を追い求める旅路は、平和とは程遠かったけれど。



「そこは目をつぶることにシヨウ! ブァハッ!」



 そうやって過ごすうちに、ワタシの心には少し余裕ができていった。


 だからだろうか。

 ずっと自分の奥に沈めていた感覚が、またふと顔を出すことがあった。



 何かをさがしていた感覚。


 誰かの名前を呼んでいた記憶。


 胸の奥に残り続ける、正体の分からない空洞。



 それが何なのかは、相変わらず分からない――。



 でも、以前ほど怖くはなかった。



 分からないままでも、今はここにいられる。


 そう思えるようになっていたから。




 ✦✧✦




 新しい日常にもすっかり慣れてきた、ある日のことだった。


 我らが派閥ルピナスに、突然新入りが来た。



 屋敷へ運ばれてきた人間がいる。

 ルピナスが拾ってきたらしい。


 そんな話が届いた。



 正直、最初は特に興味がなかった。


 考えてみれば、ルピナスが誰かを連れてくること自体は、別にそこまで驚くようなことでもない。


 ワタシだって、ルピナスに勧誘されてこの派閥に入った。

 アエリスも、似たような経緯だったと聞いている。


 だから今回も、ルピナスがまた新しく見込んだ相手を連れてきたのだろう。

 その程度に思っていた。



 そしてそいつは、ワタシの部屋に入ってきた。



 そのまま、ワタシが作っていた転送式の術印に引っかかって、どこかへ飛ばされた。


 どこかへ、というか……ワタシが術式に組み込んでいた座標――ここからかなり離れた洞窟の中なんだけど。



 あれはさすがに笑った。


 いや、笑い事ではなかったのかもしれないが、今思い出しても少し笑える。



 シラツキ・アイト


 戻ってきたその男の名だった。



 別に、その名前に何かピンときたわけではない。


 けれど、戻ってきたそいつと対面した時。

 胸の奥に、小さな泡が浮いたような感覚があった。


 すぐに弾けて消えるような、頼りない泡。



 ――知らない。



 アイトという名前を、この少年を、ワタシは知らない。


 それでも、胸の中に妙な引っかかりが残った。


 懐かしいとも違う。

 思い出した、でもない。


 ただ、小さな棘のように、どこかに引っかかっている。


 痛くはない。

 でも、少しだけ落ち着かない。


 ワタシはその小さな違和感を、胸の奥に押し込んでおくことにした。



 それから、アイトとはよく話すようになった。


 不思議なくらい、気が合った。



 からかった。

 笑った。

 街へ行った。

 馬鹿なことをした。

 変な奴に絡まれた。

 一緒に飯を食った。



 気が合った。


 本当に、気が合った。



 不思議なくらい、言葉が軽く出た。


 こいつといると、余計な力を入れなくてよかった。


 道化を演じるための言葉ではなく、ただただ心地よく自然にふざけられた。



 ワタシは、何かをずっとさがしていた。



 それを意識せずに生きていた時も、その感覚はずっと自分の片隅にあり続けたのだと思う。


 でも、アイトといる時だけ。

 その感覚が、少しだけ静かになる気がした。


 別に、アイトという少年をさがしていたのだとは思わない。


 少なくとも、その時はそう思わなかった。



 ただ、もうさがさなくてもいい気がした。



 それが何なのか、ワタシにはよく分からなかった。


 だから、またスルーした。

 分からないものは、分からないままでいい。


 そういうことにした。




 ✧✦✧




 ――そして今。



 腹に熱いものが走った。


 何が起きたのか分からなかった。


 痛みは遅れてきた。


 視界が揺れる。

 足に力が入らない。

 膝が落ちる。


 石床が近づいてくる。


 自分の身体から力が抜けていくのが分かった。



 近くで、誰かが叫んでいる。



 必死な声。


 情けないくらい震えた声。



 それを聞いた瞬間、記憶の奥で何かが軋んだ。



 さがしていた。


 ずっと、何かを。



 ……誰かを、さがしていた。



 夜の森。

 湿った土。

 手の中の明かり。

 名前を呼び続けた喉の痛み。



 あの時、ワタシは誰をさがしていた?



 どこだよ、と叫んだ。


 返事しろよ、と叫んだ。



 現実から逃げたいと願って、どこかへ行こうとしていた誰か。


 馬鹿みたいな噂を信じて、心霊スポットなんて場所を巡っていた誰か。



 そんな馬鹿げたことをしていた誰かを、ワタシは連れ戻そうとしていた。



 そうだ。


 名前は……。




 ――の声が、胸の奥の空洞に触れた。




 ずっと空っぽだと思っていた場所。


 何が入っていたのか分からなかった場所。


 そこに、その声が触れた。



 ああ。

 もしかして。

 ワタシは。


 ずっとさがしていた。


 名前も。

 顔も。

 理由も忘れて。


 前の世界で死んで。

 この世界に生まれ直して。

 道化みたいに笑って。

 裏切られて。

 捨てられて。

 また拾われて。


 それでも、何をさがしていたのか分からないまま生きてきた。


 でも、たぶん。




 ――。




 その名前が、胸の奥で響いた。


 今さらみたいに。

 何度も。

 何度も。



 「おせぇヨ」



 ワタシは、自分の中でそう呟いた。


 思い出すのが、いくらなんでも遅すぎる。



 でも、それでも。


 見つけた。


 やっと、見つけた。




「ああ、こいつ……こっちでは……。ァはは。ややこしいことしてくれるヨナ」




 そうだ。




 ワタシが捜(・)し(・)て(・)いたのは――。






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