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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のツボミ】/ようかの夜
第2章 求める者と阻む者

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ルルル・ネフリ――本当の仲間




「わっ、こんなとこに人いたんだ!?」



 少女はワタシを見て驚いた。


 それから、にっと笑った。



「大丈夫? 顔色悪くない?」


「……全然ヘイキだよ。 助かったわ、センキュ!」



 そう言って手を差し出そうとしたところで、身体がふらついた。



「あー、やっぱり。あいつの毒にやられてたのか」



 少女はワタシの肩を支え、壁際へ座らせる。



「とりあえず、毒抜くね。幼人蛛の毒くらいなら、すぐ除けるから」

「……」



 少女の命力が、淡く流れ込んでくる。


 身体の中に絡みついていた毒が、少しずつほどけていく感覚があった。


 重かった呼吸が戻る。

 命力の流れが、また少しずつ通り始める。


 ワタシは回復系の魔法は得意ではなかったので、その手際に感心した。




「オー、スゲェ助かった、アリガトウ! ……ええーっと」


「――ルピナス」




 彼女はそう名乗った。



「アリガトウ! ルピナス! ワタシはルルル」

「いやいや、気にしなくてもいいんじゃ!

 あとでとんでもないくらいのお礼を期待しとくから。……なんつってね」



 そう言って、ルピナスは誇らしげに笑った。


 そして今度こそ、互いに固く手を握り合った。



「それにシテモ、本当に身体軽くナッタナ~」。

 ひょっとしてすごい魔法の使い手ダロウ……? ルピナス先生……いや、ルピナス先!」


「あ、バレちゃった??」



 飾らないその笑顔を見て、少しだけ力が抜けた。


 意外に茶目っ気のある人らしい。



 それからワタシたちは、簡単に互いのことを話した。

 彼女がここへ来ている経緯や目的も教えてくれた。


 ときおり他愛もない話も挟みながら、少しずつ互いの状況をすり合わせていく。




「――なるほど。

 で、おそらく外に繋がる道はあっち。でも、そこには幼人蛛の巣主である蛛面鬼が張ってると……」

「そういうことダナ」




 話している最中、ワタシはルピナスの荷物の中から使えそうな素材を貰い、小さな魔品を即興で作っていた。


 設定した座標の方角を示す、簡易的な命式具だ。

 あらかじめ拠点の座標を術式の中に登録しておけば、常にそちらの方角を指し続ける。


 いわば、命式術仕掛けの方位磁石みたいなものだった。


 手のひらの上で、小さな針がゆっくりと揺れる。

 そして、洞窟の奥の一点を指した。



「やっぱり。方向はあっちで間違いなかったナ」

「ほんとだ。ちょうど蛛面鬼がいる方を指してるね。

 じゃあぶつかるのは避けられないかぁ」

「倒すカ?」

「いいや、やめとこう。

 毒持ちだし、あの図体だし、間違いなく強敵。倒せたとしてもこっちもかなり消耗しちゃうでしょ? ここから先、出口までどのくらいあるか分からないしさ」

「なら、ウマイこと陽動して開けさせるカ?」」

「うん、それがいいね」



 こうして、ワタシとルピナスは一緒に木造遺構を抜けることになった。


 ルピナスは戦えた。

 魔法も多彩だった。

 でも、遺構の構造を読むのは得意ではなかった。


 ワタシも戦えた。

 けれど、毒の影響や疲労はまだ残っていて、万全ではない。


 だから、お互いに補い合った。


 ルピナスが妙獣を焼き、吹き飛ばし、足止めする。

 ワタシが命式具で方角を読み、罠めいた床を見抜き、氷で足場を作る。


 手はず通り、蛛面鬼は倒さなかった。


 ルピナスが離れた場所から攻撃し、蛛面鬼の注意を引く。

 そして十分に引きつけたところで、途端に奴の反応が鈍った。――まるで、ルピナスを見失ったかのような挙動。

 ルピナスが何かをしたんだろう。



 そこからは早かった。



 生じた間隙に、ルピナスは風の魔法を巧みに使い、一気にワタシのもとへ戻ってきた。


 念のため、ワタシは背後に巨大な氷を突き立てる。

 追ってくる蛛面鬼を食い止めるための、即席の壁だ。




「行くゾ!」




 そしてワタシたちは、そのまま空いた道を駆け抜けた――。



 背後で木の壁が砕ける音がする。

 人の手が床板を叩く音がする。

 毒の霧が追ってくる。



 それでもワタシたちは、息を切らしながらひたすら進み続けた。



 やがて、前方に光が見えた。


 洞窟の外の光。


 ワタシたちは木造遺構を脱し、無我夢中で走り続けた末、ようやく洞窟の外へ抜け出すことができた。



 外へ出た瞬間、ルピナスはその場に座り込んだ。




「あー、疲れた」

「ダナ」

「でも生きてる! よかったぁ」

「もうこんな経験御免ダワ~」




 しばらく二人で笑った。


 久しぶりに、心から笑った気がした。

 ルピナスは膝を抱えたまま、こちらを見た。




「……ねぇ、ルルル。

 もし、よかったらなんだけどさ――」


「――ノッタ!」

「え?」



 即答だった。

 というか、まだ聞かれてなかったけど。



「さっき話してくれた、その“世改の書”ってやつを探す旅。それに勧誘してくれようとしたんダロ?」

「そ、そうだけど……察しがいいな。

 そんなすぐ決めちゃっていいの? 一緒に暮らしてる人とか、なんか一緒に活動してる仲間とかいない? もしそういう人たちがいるなら、勝手に優秀なルルルさんを引っこ抜くのは、さすがに気が引けるんだけどさ」

「ダイジョーブダイジョーブ!」



 ワタシはあえて、笑みを浮かべて答えた。




「仲間……そんなやつ、ワタシには一人もいねーカラ!」


「……そう」




 ルピナスは一瞬だけ、何か言いたそうな顔をした。

 けどすぐに笑って、手を差し出してくる。



「なら遠慮なく! 改めて、これからよろしくね!」

「オウ!」



 ルピナスの笑顔は、イブの笑顔とは違った。


 相手を測るものではない。

 利用するためのものでもない。


 ただ、嬉しいから笑っている。


 そういう顔だった。






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