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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のツボミ】/ようかの夜
第2章 求める者と阻む者

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ルルル・ネフリ――追放




 事故が起きたのだ。



 ワタシが開発した自走式荷車の一台が、洞窟内の狭い通路で作業員を巻き込んだらしい。


 一応、安全停止式は組み込んでいた。

 人や障害物に反応して止まるように、ちゃんと設計していた。


 なのに、それが作動しなかったらしい。


 巻きこまれた作業員は、命を落とした。



 知らせを聞いた時、血の気が引いた。



 すぐに式の記録を確認した。


 おかしかった。


 ワタシが組み込んだ安全停止式の一部が、省かれていた。


 しかも書類上では、その部分を担当したのはワタシということになっていた。


 つまり、自走式荷車を作ったのは“組織のみんな”。

 けれど、責任が発生する箇所だけは“ルルル”。


 そういう形になっていた。



 ワタシは当然、イブに詰め寄った。




「これ、どういうことダ」


「俺も詳しくは分からないこともあってな。……予定になかったことが起きた」




 最後のほうだけ声を落とし、イブは困ったような顔をした。



「だが落ち着いてくれ。大丈夫だ」

「大丈夫? ワタシが書いた術式がいじられてるし、勝手にワタシの名前が使われてる」

「書類に関してはすまない。

 納期の問題があったんだ。契約先も急いでいた。それで一部、ルルルの名前で通させてもらった。実際に開発を担っていたのは君なんだから、完全に間違いというわけでもないだろう?」

「……それ、本気で言ってるのカ?」

「もちろん、それだけで終わらせるつもりはないから安心してくれ。

 ――策はある」

「策?」

「今回の件について、関係者らへの説明の場が設けられることになった。

 そこで信用を取り戻す。具体的な進め方は俺に任せてほしい。だからルルルには、一つ協力してほしいことがある」



 まただ。


 それらしい言葉。

 正しそうな表情。

 曖昧で、けれど拒みにくい説明。



 馬鹿げた話だということくらい、内心では分かっていた。


 分かっていたはずなのに、それでもワタシは都合のいい解釈を選んでしまった。



 イブ請負組は、ワタシにとって唯一の居場所のようになっていたから。




 事故の噂は、すぐに広がった。


 あの青髪の命式技師が作った式車が暴走した。

 腕がいいとか言われていたけど、結局人を殺した。

 危ない奴だ。

 異端者だ。

 殺人者だ。


 街の視線が変わった。


 道を歩けば、話し声が止まる。

 仕事場へ行けば、依頼人が距離を取る。

 子どもがこちらを見て、親に手を引かれる。


 それでもワタシは、イブの策とやらを信じることにした。



 最後に任された仕事は、転送式のポータルの設計開発だった。


 名目は、危険な妙獣や凶悪犯を隔離するための代物。


 遠く離れた、世界の中心と言われている都市には、重罪者を別区域へ落とす命式術が都市全体に施されているらしい。

 それに倣って、特定対象を隔離区域へ送る成果物を作る。

 転送先の座標は、イブたちのほうで用意したものをワタシが術式に組み込む。


 そういう説明だった。




「人を守るためのものだ」




 イブは真剣な顔で言った。




「お願いね、あなたにしかこれはできないの」




 ミーナも頷いた。




「頼むよ、ルルルちゃん」




 カイナンはいつもの近すぎる距離で、軽くワタシの肩を叩いた。



 ウシアは壁にもたれ、何も言わなかった。

 ただ、こちらを見ていた。


 期待でもない。

 敵意だけでもない。

 もっと別の、よく分からない目だった。



 ワタシは作った。


 心の中で、疑いながら。

 それでも、どこかでまだ信じながら。


 条件式。

 発動対象。

 転送座標。

 誤作動防止。


 自分でもびっくりするほど、よくできた。


 鉱石で作った枠。

 その内側には、最初は何もない。

 けれど命力を注げば、枠の内側に空間の歪みが生まれる。


 そこへ飛び込めば、設定した座標へ転送される。



 ――転送式門。



 それがワタシが作ったものだった。


 これを大衆に発表し、ワタシたちイブ請負組の世間からの評価を取り戻す。

 イブが言っていた策とはそういうものなのだろうと、ワタシは思っていた。




 関係者らへの弁明会の日。



 ワタシは完成した転送式門を、組のみんなの前で説明していた。


 イブがいた。

 ミーナがいた。

 カイナンがいた。

 ウシアがいた。


 全員がいた。



 手順通り、枠へ命力を注ぐ。


 何もなかった空間が揺らぎ、青黒く、深い歪みが口を開いた。




「――で、こんな感じにして、ここに飛び込むと転送されるって感じダナ」


「おー、やっぱすごいな、ルルルは。

 期待していた以上だ」




 イブは笑った。




「ちなみにこれは、ちゃんと逆からは戻ってこられないように作られてるんだよな?」

「ア? ああ、そうだナ。

 でも、もし誤って転送させちゃった時のために、何かしら対処は用意しておいた方がいいかもと思っててサ」




 少しだけ、間があった。




「――いや、その必要はないよ」


「え? それはどうして――」




 次の瞬間。


 背中に衝撃が走った。



 蹴られたと、そう理解した時には、もう遅かった。


 気づけばワタシの身体は、転送式門の中へ放り込まれていた。




「――だって、そんなことしたら、お前が戻ってこられるからな」




 イブの声が降ってきた。



「お別れになっちゃうのは寂しいけど、今までありがとうね。ごめんね~」



 カイナンの声。



「いろいろ貢献してもらって助かったよ。後はわたしたちだけで十分やっていけるから」



 ミーナの声……だろうか。



「……やっと」



 誰の声だったか。

 もう、分からない。



 視界が歪む。


 胃の底を掴まれるような感覚。

 上下も左右も分からなくなる。



 それを最後に、闇が視界を塗り潰した――。






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