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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のツボミ】/ようかの夜
第2章 求める者と阻む者

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ルルル・ネフリ――命式術の天稟




 ワタシの命式術の才能は、歳を重ねるごとにはっきりしていった。



 命式術――。


 命力を動力源に、条件と結果をあらかじめ組み込んでおく技術。


 誰かがその場で放つ魔法とは違う。

 命式術は、仕掛けを作る。

 条件を決める。

 条件が満たされた時、何が起きるのかを術式として刻んでおく。



 ワタシには、その技術がとても向いていた。


 魔法にもなかなか才はあった。

 けど好みとしては、命式術の方がずっと好きだった。



 どんな仕掛けにするのかを考える。

 術式を組む。

 試す。

 失敗する。

 原因を探す。

 また直す。


 どういう時に反応するのか。

 何に反応するのか。

 何を実行させるのか。

 どうやって命力を供給するのか。

 失敗した時に、どう止めるのか。



 そういうことを考えている時、時間を忘れた。


 楽しかった。



 ある程度この身体が成長してからは、自分でちょっとした魔品の製作や、修理なども始めた。


 前に見た携帯式の照明具。

 水汲み作業を楽にするための簡易装置。

 倉庫の扉を一定時間で開閉する簡単な術式。

 荷台を決められた道に沿って半自動で動かすための仕掛け。


 最初は、近所の人たちから頼まれる程度だった。


 けれど、それが少しずつ評判になっていった。


 知り合い経由で、港の仕事を取り仕切る人たちから声がかかる。

 洞窟探索や採掘に関わる組合の管理役からも、依頼が来るようになる。



 ワタシの狙い通り、と言うと偉そうかもしれないが、歳を重ねるにつれて、周囲がワタシを見る目は変わっていってくれた。



 子どもなのにできる、ではなく。


 若いのに優秀。


 そう見てくれるようになった。

 それだけで、ずいぶんやりやすくなった。


 もちろん、それでも嫌な声がないわけではない。



「あの子、本当に信用できるのか?」

「あの若さの子に任せるのはさすがに違う、不安だろ」



 そんな声もあったが、ワタシは特に気にならなかった。


 一番身近にいた二人――マママとパパパが、ワタシを否定しなかったからだ。




「きつかったら、いつでも辞めてもいいんだからね」




 依頼が増えて忙しくなっていくワタシに、マママはいつも無理をしないよう言ってくれた。




「すごいぞルルル! お前、本当の本当に天才だな!」




 パパパは逆に、ワタシが能力を発揮するたび、大袈裟なくらい褒めてくれた。


 「優秀過ぎるワタシを、二人は受け入れてくれないんじゃないのか」


 そう勝手に想像していたことが、内心申し訳なくなるくらいだった。



 だから、ワタシは普通に、平穏に、特に不満のない日々を送っていられた。




 ワタシが独り立ちを決めたのは、周囲から見ればかなり早い時期だった。


 まだ年若いと言われる年齢だったと思う。


 けれどワタシの中には、年齢相応という感覚がそもそも薄かった。

 だから、早く外へ出ることにも、そこまで抵抗はなかった。


 むしろ、ずっと同じ場所にいる方が落ち着かなかった。



 その時は意識していなかったけれど、きっと、あの感覚を完全には無視できていなかったのだと思う。



 何かをさがしていた感覚。

 名前を呼んでいた記憶。

 胸の奥に残った空洞。


 それが何なのか分からなくても、どこかへ行けば見つかる。

 そんな、ある種運命に導かれるかのような、曖昧な衝動に背中を押されていたのかもしれない。




 ――出発の日。



 ワタシは家の前で、少し大きめの荷物を背負って立っていた。


 まだ街も完全に目を覚ます前の早朝だった。



 空は少し曇っている。

 港の方からは、朝早くから動き出した荷車が硬い路面を転がる音が聞こえていた。



 目の前では、パパパが泣いてくれていた。


 本人は隠そうとしているつもりっぽかったが、まったく隠せていなかった。




「こんなに立派になって……。でも独り立ち早すぎるよおおお~」




 パパパは大きな手で、ワタシの肩を優しく何度も叩いた。



「心細くなったら、いつでも帰ってこいよ。……いやだめだ! 心細くなくても帰ってこい!

 俺たちはいつでも待ってるからな」

「パパパ、泣きすぎダロ」

「泣いてないよお~」

「ボロ泣きじゃネーカ」

「これは、目に指が入っただけだ」

「どういう状況ダヨ」



 パパパは手で顔を覆いながら、苦しすぎる言い訳をした。


 そんなワタシたちのやり取りを、マママはいつも通り横で小さく笑って見ていた。

 それから、ワタシの服の襟をそっと直してくれる。



「無理して過酷な道を選んだりとか、別にしなくてもいいんだからね」

「ワタシは超強ぇーから心配ナッシングだよマママ! 余裕綽々ヨ!」

「強いとか、そういう話じゃないの」



 マママは穏やかに笑う。



「マママが言いたいのは、無理して戦わなくてもいいってこと。

 平和が一番なんだから。いろいろ全部含めて、結局は平和が一番なの」



 いつものマママらしい言葉だった。



「逃げてもいい。立ち止まってもいい。

 帰ってきてもいいし、帰ってこなくてもいい。

 ルルルが生きていてくれるなら、それでいいの」

「大丈夫だよ。ありがとう、マママ」



 ワタシはそう言って笑った後、マママと抱き合った。

 柔らかくて、温かかった。


 その様子を横で見ていたパパパが、また鼻を啜る。



「たしかに、ルルルはすごく強いからな。

 俺たちが力になってやれることは……悔しいけど、あんまないかもしれない」



 パパパは一度言葉を切る。



「それでも、頼ってくれていいからな!」

「おん! パパパもありがとう」



 そう言って少し笑いながら、胸が痛んだ。


 ここは居場所だった。

 この家は、間違いなくルルル・ネフリとしてのワタシにとって、何にも代えがたい大切な場所だった。


 それでも、ワタシは行くのだと思った。

 迷いはなかった。


 ここではないどこかへ。

 何を追っているのかもわからないまま。


 それでも、行かなければいけない気がしていたのだろう。




「んジャア! 行ってくるヨ!」




 そういってワタシは、扉の向こうへ一歩踏み出した。



 振り返ると、パパパは大きく手を振っていた。

 マママはその横で静かに微笑んで、小さく手を振っていた。


 ワタシも手を振り返す。



 そして、街を出た――。




 ただ、その時のワタシはまだ甘かった。


 外の世界で、どれだけ自分の才能が金になるのか。

 才能を褒める声が、必ずしも自分を大事にしてくれる声ではないこと。

 聞こえのいい言葉が、時に一番きれいな鎖になること。



 そんなことを、まだ何も知らなかった。






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