↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者のツボミ】/ようかの夜
第2章 求める者と阻む者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/94

主の剣




 その戦いを見ながら、オレたちは少しだけ距離を取っていた。



 ブラドリーナとオルディアン。

 あの二人の連携に、下手に割って入るのはかえって邪魔になる。


 そう判断して、ルピナスもルルルも、まだ動かずに様子を見ていた。



 ただ、警戒はもちろん解いていない。


 ルピナスはいつでも魔法を撃てるように魔杖を構えている。

 ルルルも、いつもの笑みを消し、戦いの動向を一瞬たりとも見逃すまいとしていた。



「ねぇ、他の追求者たちにも加勢してもらった方がいいんじゃない?」



 そう言って、オレは壁際へ視線を向けた。


 そこには、決闘の見届けのために残っていた派閥の面々がいるはずだった。


 派閥ダステン。

 派閥リッジ。

 派閥コレット。



 けれど――。




「……っ、いない!?」


「え?」




 さっきまで彼らがいた場所には、誰もいなかった。


 簡易な腰掛けだけがそこに取り残されている。

 人の気配だけが、綺麗に抜き取られたみたいに消えていた。



「なんで……」



 ルピナスが息を呑む。



「さっきまでいたよね?」

「いた」



 ルルルが短く答える。


 その声が冷静だった。

 けれど、表情は険しい。



「こっちも何かされたんダナ」



 それ以上考えている暇はなかった。



 決闘場の中央で、轟音が上がる。


 ヴァルが、オルディアンの腹に拳を叩き込んでいた。




「がっ……!」




 オルディアンの身体が折れる。

 炎が揺らぎ、膝が床についた。



 ヴァルはその顔を、軽く蹴った。



 オルディアンの身体が横へ倒れる。


 そして、ヴァルはその頭を躊躇なく踏みつけ、悠然と見下ろした。




「おいおい、さっきの勢いはどこ行ったんだよ」




 足元で、オルディアンが震える。


 それでも、起き上がろうとしている。



「いい忠犬じゃねぇか。飼い主のために燃えて、燃え尽きて。

 ケッ。最後は地べたに顔を擦りつけてんだから、泣ける話だぜぇ」


「――その足をどけろ!」



 ブラドリーナの声が差し込まれた。


 光の斬撃が、一気に放たれる。



 横に奔る閃き

 斜めに落ちる光。

 突きの形で伸びる鋭い線。


 幾筋もの光刃が、ヴァルへ殺到した。


 ヴァルは片手を軽く振るう。

 それだけだった。

 なのに光の斬撃は、横から見えない衝撃を叩き込まれたみたいに砕け散った。


 だが、すべてではない。


 一本。


 ヴァルの迎撃をすり抜けた光の刃が、まっすぐ彼へ走る。



 ――それを、彼は直接掴んだ。



 素手で。


 掌から血が滴るのも意に介さず、ヴァルは笑みを浮かべたまま光の刃を掴み止めた。




「返してやるよ」




 そう言って、ヴァルはそれをブラドリーナへ投げ返した。



「……っ!」



 ブラドリーナの目が見開かれる。


 対応しようとした。

 避けようともした。


 けれど、すでに彼女は重傷だ。

 身体が、思うように動いていない。


 投げ返された光刃が、彼女の太腿を貫いた。



「ぐッ……!」



 ブラドリーナの身体がよろける。


 それでも、握った剣は離さない。



 ヴァルの足は、まだオルディアンの頭を踏みつけたままだった。



 それを見て、ブラドリーナは剣を握り直す。

 血が床へ滴る。


 腹部の傷。

 太腿の傷。


 もう立っていられるだけで異常なほどの状態だ。


 それでも彼女は、直剣をまっすぐ真上へ掲げた。




 一拍――。




 空気が変わる。


 光が、彼女の掲げた剣へ集まり始めた。




「光の魔法武技・秘剣――」




 その声に応えるように、剣を中心として、上空に巨大な光が形を取り始める。


 光で作られた、超巨大な剣(つるぎ)。



 ブラドリーナが握る実体の剣が、そのまま巨大な光剣の柄になったように見える。


 刃は天井を貫くほど長く。

 薄暗かった地下空間の石壁が、白く照らされていく。


 神罰。

 断罪。


 そんな言葉が頭をよぎるほど、圧倒的な光だった。




「ケッ。圧巻じゃねぇかぁ」




 ヴァルが口笛を吹く。



「おいおい、でもいいのかよ。

 お仲間も一緒に切り裂いちまうぜぇ?」



 彼の足元には、オルディアンがいる。


 けれど、ブラドリーナの目は揺らがなかった。




「私の秘剣は――私が斬ると決めたものだけを斬る」




 その言葉を受けて、ヴァルの笑みが、少しだけ深くなった。




「へぇ」


「輝きに裁かれ、魂ごと散れ! ――『天光崩斬(てんこうほうざん)』!」




 ブラドリーナが、光の巨剣を振り下ろした。


 実体の剣に合わせ、巨大な光剣も振り抜かれる。

 地下空間そのものを断ち割るような光。



 視界が、一面の白に潰れた――。



 熱ではない。

 ただ、圧倒的な光量に目を開けていられない。


 音が遅れてやってくる。


 石床が震えた。

 空間そのものが軋むような衝撃。


 足元から全身へ、重い振動が突き上げてくる。






 ――――。






 しばらくして、徐々に光が引いていった。


 白く焼けた視界が、ゆっくりと戻っていく。




 そして、目の前に広がっていたのは、巨大な斬撃の痕跡だった。




 石床には、光の剣が叩き込まれた跡が深く刻まれている。


 オルディアンは、そこに倒れ込んだまま。

 斬られてはいない。


 それは、ブラドリーナの言葉通りだった。



 ――しかし。



 そこには、ヴァル・モクスフッドの姿はなかった。




「……やっつけた、のか?」




 誰かが呟いた。


 いや、もしかしたらそれはオレ自身の声だったかもしれない。



 あの一撃なら。

 あれだけの光撃なら。


 いくらあの男でも、消し飛んでいておかしくない。



「……こんなに強かったのか」



 隣から、感嘆の声が漏れる。


 もし、これをルピナスとの一騎打ちの時に使われていたら。

 そう考えると、背筋が冷えた。


 それほどの一撃だった。



 なのに――。






「ケッ。さすがに今のはひやひやしたぜぇ」






 耳障りな声が、ブラドリーナの背後から聞こえてきた。


 ルピナスが目を見開く。




「――ブラドリーナさん!」




 背後の脅威を伝えようとするルピナス。

 でも、もうその時には遅かった。



 ヴァルはブラドリーナの死角に立っている。


 その手には、小さなナイフ。


 魔法でできた刃ではない。

 特殊な光をまとっているわけでもない。


 ただの、普通の刃物。


 ――それを。






 それを――後ろから迷いなく、彼女の首へ突き刺した。




「ッ、ぁ……」




 ヴァルは刃を抜く。


 そして、もう一度。



 今度はそれを後頭部へ突き立てた――。



 音が、遠くなる。


 目の前の光景だけが、異様に鮮明になる。



 ヴァルの薄ら笑い。

 ブラドリーナの身体が跳ねる動き。


 血が飛ぶ、その赤色。




「こんな危ない経験、久しぶりだぜぇ。興奮してくるなぁ」




 ヴァルは当然、彼女の身体を支えることもしない。


 後頭部に刺した刃を力任せに引き抜く。



「やっぱ追求者が溜まってる場に来るのは危険だぜぇ」



 力を失ったブラドリーナの身体が、ヴァルの方へ崩れかける。


 ヴァルはそれを、軽く背中を蹴るように押し出した。



 ブラドリーナは前へ倒れ込む。




「――代表ッ!!!」




 オルディアンが、這うように駆け寄った。


 そして彼はブラドリーナを抱きかかえる。




「代表! おい、死ぬんじゃねぇッ……! 

 ……俺様をッ、置いてかないでくれッ!」




 その声に答えるように、ブラドリーナの瞳がかすかに揺れていた。


 まだ、完全には、消えていない。

 緋色の瞳の奥に、細い光がのこっている。


 彼女は残された力を絞るように、血に濡れた唇を動かした。




「……ヤ、ツに」




 か細い声。


 それでもブラドリーナは、何かを必死に伝えようと、言葉を紡いでいた。




「触れられては……いけ、ない……」




 そこで、言葉は終わった。


 それが、彼女の遺した最後の情報となった。




「は……? どういうことだよッ! おいッ!」




 ブラドリーナの身体から、ふっと力が抜ける。


 瞳から光が消えていく。



 その場の空気が止まった。



 オルディアンも、その場で完全に動けなくなっていた。



「……おい、代表?」



 当然、返事はない。




「代表……! なあ代表ッ!」




 もう一度呼ぶ。


 何度も呼ぶ。



 けど、返事は返ってこなかった。


 もう、オルディアンの声は届かない。




 これ以降、ブラドリーナ・クレアリスは動かなかった。

 もう二度と、その剣が振るわれることはない。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。