審議-2
「――てめぇがッ! うちの代表を殺そうと企んでるって話だッ!」
「……は?」
時間が止まった気がした。
「『ブラドリーナを消す』『第一座を空ける』。
そうすりゃ、自分たちが世改の書に近づけるって、そう言ってただろうがァ!」
「い、言ってない!」
反射で叫ぶ。
本当に、知らない。
そんな話をした覚えなんてない。
これは本当に冗談じゃ済まない。
ここで押し切られたら、絶対にまずい。
「ふざけんなよ! そんなこと、考えたことすらないって!」
「嘘つくんじゃねェ!」
オルディアンが一気に距離を詰めてくる。
「もういい。一度でも目を離すのは危険だ。この場で――」
怒りのままにオレの胸ぐらへ伸ばされる手。
それを、ここまで黙って見ていたルルルが横から掴んだ。
「そこまでにしとけヨ」
いつもの軽妙さは消した声音だった。
そして同時に、ルピナスもオレの前に立つ。
オレとオルディアンの間に、はっきりと線を引いてくれるように。
「アイトくんがそんなことするわけないと思う」
「同感ダナ」
「チッ……自分じゃ何もできねぇのかよ金魚の糞がッ!」
オルディアンが吐き捨てる。
「どうせてめぇらも、そこの腑抜けと共謀してたんだろ!
なに、自分は無関係ですって面してやがるんだよ! アァ!?」
ルピナスとルルルと相対しても、なおオルディアンの怒号は止まらない。
もう、いつ衝突してもおかしくない。
誰もがそう感じた、その時だった。
「――やめろ」
ブラドリーナの声が差し込まれる。
冷静だが、これまで聞いたどの言葉よりも重い。
それに合わせるように、クリュゼルが静かにオルディアンの肩へ手を置く。
力任せではない。
だが、その手は明確に制止の意味を持っていた。
ブラドリーナはオルディアンに強い視線を送り、それからオレを見た。
「こうなってしまっては致し方ない。
不本意ではあるが……この場を収めるために、私の特者能力を使う」
ざわ、と空気が揺れた。
「……ッ! だ、代表、それはッ……!」
オルディアンの声を、ブラドリーナは片手で制した。
特者能力。
恩寵者だけが持つ異能。それはある意味、その派閥の手札ともなり得るものだ。
普通なら、こんな公の場で明かしたくないもののはずだ。
他の追求者たちの反応も変わる。
ダステンの兵たちが、警戒するように一瞬だけ姿勢を変える。
リッジがわずかに目を細める。
コレットは戸惑い、まだ状況を掴み切れていない様子。
「私の特者能力は――簡単に言えば、相手の記憶に触れることができるというものだ」
ためらいもなさそうに、ブラドリーナは手の内を明かした。
「ただし、使い勝手が少し難しいところもある。
本人にとって強く刻まれた記憶ほど見えやすく、そうでないものほど奥に沈んで探しづらい」
そして、オルディアンを見る。
「我が派閥のオルディアンが、本当に何かを見たのか。
まず、それを確かめたいと思う。
普段の彼を知っているからこそ、どうにも冗談を口にしているとは思えなくてな」
オルディアンは歯を食いしばったまま、黙って頷いた。
「本人がここまで熱くなっているんだ。該当の記憶はすぐに見つけ出せるだろう」
ブラドリーナはオルディアンの傍まで歩き、静かに目を閉じた。
…………。
しばらくの沈黙。
誰も声は発さなかった。
やがて、ブラドリーナの目が開く。
「……確認した」
その表情は、先ほどまでよりも冷たく見えた。
オレは唾を呑み込む。
彼女の次の言葉で、この場の流れが……オレの立場が、大きく左右されてしまうだろう。
吉が出るか。
凶が出るか。
…………。
「……オルディアンは、嘘をついていない」
「は、はぁ!?」




