裁定の行方
「は、はぁ!?」
思わず声が裏返る。
一気に心拍数が上がる。
なにこれ。
待って。
オレがこの場で糾弾される流れなのか……?
「え、待ってよ。そんなわけがないんだけど!」
「ならば私が嘘をついているとでも訴えるか?
私の能力のほどは貴公も知るところだろう?」
ブラドリーナの声は硬い。
「けど……」
「少なくとも、彼は本当に“そう見た”と記憶していた」
「――なら、その話し相手は誰だったんだヨ」
すぐにルルルが口を挟んだ。
「コイツがそんな作戦を話してたナラ、当然相手もいるはずダロ?」
ブラドリーナはわずかに眉を寄せた。
「視えたのは、シラツキ・アイトの姿と声だ。
誰かと話しているようではあった。だが、相手の姿は柱と棚の影に隠れていた」
「……え、なにそれ」
「アイトくんだけが、都合よく見えてたってこと……?」
「話してた相手なんて、どうせてめぇらくらいしかいねェだろ!」
「――ともかくだ」
ブラドリーナが話を戻す。
「オルディアンの記憶には、確かにはっきりと残っていた。
もちろん、それが事実そのものかどうかは、まだ断定することはしない」
そこで一拍置く。
「だがそもそもの私の能力の信憑性については、この場にそれを知る者が数名はいるはずだ。
そこに関して証人には事欠かない」
片目を瞑り、こちらを見据える。
責任ある者の声だった。
完全に感情で動いているわけではない。
それでも、もうこちらを無条件には信じていない。
仲良くなれそうだと思っていただけに、その視線が、痛かった。
「もし納得がいかないのなら、貴公らで今の状況を覆す、無実である証拠を用意してもらわねばならなくなるが」
「それは……」
ブラドリーナの言葉は、さらにオレを追い詰めていく。
でも本当に知らないものは知らない。
暗殺だなんて、そんな馬鹿げた企てをするわけがない。
いくらなんでも脈絡がなさすぎる。
どうすれば。
どうすればどうすれば……。
――あ。
「だったら! ブラドリーナさん、オレの記憶も確認してくれればいいよ!」
オレは必死に考え付いた案を叫んだ。
「そんな話を企てた覚えはない! 話もしてない!
オレの記憶を視てくれればそれが分かるでしょ!?」
ブラドリーナは、すぐには答えなかった。
ほんのわずか、沈黙する。
それから、静かに言った。
「それは難しいな」
「な、なんでだよ!」
「言った通り、私の特者能力は強く刻まれた記憶ほど見えやすい。
オルディアンにとって、私の暗殺を企む会話を見たという記憶は強烈だ。だから表層近くにあった」
ブラドリーナの緋を宿した双眸が、まっすぐオレを捉える。
「だが、貴公にとってその状況は強烈な記憶としては残っていないだろう? 被害者側ではないのだからな。
無数の記憶の中から本人にとって“大した記憶ではない記憶”を探し続けるのは現実的ではない」
「でも――」
「それに、だ」
ブラドリーナの声が、少しだけ低くなる。
それは、わずかに敵意や蔑みを含んだ声音で、これまでには見せてこなかったものだった。
「――私は、貴公の中にあるものを少し知っている。 “視た”からな」
心臓が、嫌な音を立てた。
「この場で全て言ってもいいが、貴公にとってそれは好ましくはないだろう」
「……」
「私は視た。
貴公があの時、状況に到底そぐわない笑みを浮かべていたことを」
喉が詰まる。
周囲には、その意味は分からないはずだ。
けれどオレには分かった。
ミリナ村が滅んだ時のことだ。
彼女は以前会った時に、その記憶も覗いていたのだ。
”視られて”いたのだ。
あの記憶を視ていながら、平然とオレに接していた。
あまり気にしていなかったのか。
それとも、大人として顔に出さなかっただけなのか。
分からない。
だが、その一点を……触れられたくない場所を、正確に突かれた。
「アイトくん……?」
ルピナスがこちらを見る。
でも何も答えられない。
だって、彼女たちに嫌われたくないから。
それだけが、喉を塞いでいた。
「私は貴公を断罪したいわけではない。
だが、貴公を完全に信用できるほど、私はシラツキ・アイトという人物を知らない」
正論だった。
正論すぎるほど、正論だった。
だからこそ、逃げ場がない。
「そして私は、追求者同盟『第一座』に座する者として、我が派閥の代表として――この疑いを放置できない」
その言葉に、誰もすぐには反論できなかった。
「じゃあどうするんダヨ」
ルルルは、わずかに棘のある声で言う。
「ここでコイツやワタシらを悪者扱いしてオワリカ?」
「無論、終わらせるつもりはない」
ブラドリーナは迷いなくそう言った。
「この疑いを、曖昧なままにはできない。
場所を移す。ここで争えば都市の命式術に触れるからな」
暴力行為、水溝への転送。
その可能性が頭をよぎる。
「命式術の対象外となる場で、結論を出そう」
「結論を、出す?」
「――形式としては、決闘に近いものになるだろう」
「え……」
「私に不満があるのならば、背撃などではなく真正面からぶつかってこればいい。
私はそれを受けて立つ。
書を手に入れることに必死になることを、私は責めはしない」
ルピナスが顔を曇らせる。
「こ、こっちは争うつもりなんてないです……ブラドリーナさん」
「ならば、潔白を示してほしい」
ブラドリーナの声は冷静で、無慈悲に聞こえるものだった。
退くつもりがないのだと分かる。
身の潔白。
ここでそれを用意できないことを分かったうえで、ブラドリーナはそれを求めてきている。
オルディアンは拳を握りしめ、今にも飛びかかりそうな目でオレを睨んでいた。
クリュゼルは何も言わず、ただブラドリーナのそばで静かに立っている。
「疑いがある以上、何かしらの形で結論を出す必要はある。
そうでもしなければ彼の興奮も止まないだろうしな」
そう言って、ブラドリーナはオルディアンへと視線を向ける。
「――ハッ!」
そこへ、場違いな笑い声が差し込まれた。
「要は売られた喧嘩ってことダロ?」
「ルルル」
ルピナスが制止するように名を呼ぶ。
だが、ルルルは止まらない。
「いいジャン!
こっちも好き勝手疑われて、黙って帰るほどお行儀よくねぇシナ!」
「――ならば、お互い合意ということでいいな」
「っ……」
場の空気が決定的になっていく。
もう、ただの疑惑では終わらない。
「派閥ルピナス」と「派閥ブラドリーナ」。
その間に、見えない線が引かれたのが分かった。
オレは何も言えなかった。
ただ、自分が本当に何もしていないという事実だけを抱えたまま、周囲の空気が勝手に争いへ向かっていくのを見ているしかできなかった。
そして、同盟者評議は、予定になかった決闘へと流れ込んでいくことになる――。
お読みいただきありがとうございました!!!ᐡ⸝⸝ᴗ ̫ ᴗ⸝⸝ᐡ
あらぬ疑いをかけられたアイト。
状況はどんどん悪い方向へと転がっていき、ついにはブラドリーナたちとの対立へ――。
というところで、第2章前半はこれにて一区切りとなります!
後半では、いよいよ派閥ブラドリーナとの決闘へ。
現在鋭意執筆中ですので、投稿再開まで少々お時間をいただければと思います!
その際は、またお付き合いいただけると嬉しいです。◝(⁰▿⁰) ◜
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それでは、また次回お会いしましょう!♡♡♡




