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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者の蕾】/ようかの夜
第2章

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評議の合間のひと息




「――おやおや、これはルピナス嬢ではありませんか!」



 廊下の向こうから、妙に芝居がかった声が廊下に響いた。



 振り向くと、こちらへ歩いてきたのは――同盟者評議の参加者のひとりだった。


 どこか締まりのない体つきの男。

 たしか……会議室ではルピナスの隣の席に座っていた派閥の代表だ。 



 角張ったキノコみたいな髪型。

 きっちり刈り上げられていて、ほんの少し乱れた部分を本人が小さな手鏡と櫛で直している。


 足元近くまで垂れる長いマントも、やたら角張ったデザインだ。

 その衣装には、暗めの色の青・赤・黄。

 三本の色付きのラインがあしらわれていた。



 少し遅れて、彼の背後に三人の重装兵が控えた。


 鎧の基本形は、全員似たような造り。

 濃い鈍色の金属に、肩や胸元へ鋭い角度の装飾が入っている。

 ただし、それぞれに走るラインの色だけが違った。


 痩身のマスク男の鎧には、青い線。

 猛獣のようにぎらついた目をした大柄な男の鎧には、赤い線

 そして、背に大盾を背負った気の強そうな女の鎧には、黄色い線がアクセントとして入っている。




「ルピナス嬢。相変わらず、こういう薄暗い廊下でも映えますなぁ」




 男は髪を直し終わったかと思うと、当然のようにルピナスへ話しかけた。



「あぁ……どうも」



 ルピナスは露骨に顔を逸らしながら、弱く返す。


 これは……どういう関係なんだ。



「おや、つれない。

 だがそのつれなさも、また美点ですな」

「はぁ……用件は?」

「ただの挨拶ですぞ。

 ついでに少し、意見交換でもと思いましてね」



 角張りキノコ男は、オレたちには目もくれず、完全にルピナスとの二人の世界に入っているようだった。


 そんな様子をただ眺めていると、ルルルがオレの横で小声を落とす。



「――席次・『第六座』、ダステン」

「第六座……」

「後ろの三人は兵士たちの界隈じゃ、それなりに名が通ってる実力者らしいゾ」

「そんなすごい人だったんだ」

「左から、青が『虚ろなる死司』ノワーレ。赤が『破壊の闘犬』クラフト、黄が『不侵の護手』メリッサ」

「へぇ……」



 たしかに、背後の兵士三人は重みのある気配を(まと)っている。鎧のせいもあるだろうが、それだけじゃない。

 立っているだけで、ただのそこらの護衛ではないと分かる。


 席次の順番は単純な強さで決まっていない、そう説明されていた。

 『第六座』とはいっても、この派閥は同盟の中でかなり高い戦力を保持している方なのではないだろうか。



「で、本人はあれナ」

「説明が雑だな」

「ダッテ…見れば分かるダロ?」

「……ま、まぁなんとなく察してるけど」



 こちらがそんな話をしている間にも、ダステンはルピナスに向けて大げさに手を広げたり、髪を軽く払ったりしながら話し続けている。



「今回の評議、なかなか物騒だとは思わないですか?

 特に、あの『神話』とやらを抱えた派閥!」

「はは、そうだね……」

「小生は心配しているのですよ。

 この同盟の品位と安全が、今後もきちんと保たれるのかどうかをね」



 言葉だけなら、もっともらしいことを言っている。


 だがルピナスは、一切彼と目を合わせようとはせず、わざとらしく大きなため息をついてみせた。



「そういうのは評議中に言えば?」

「もちろん、そのつもりですぞ」



 ダステンは微笑む。


 ルピナスはずっと、露骨に鬱陶しそうにしているのだが、彼はそれに気づいているのかいないのか、終始楽しそうだった。



 メンタルが強いというか、鈍感というか……。

 ある意味すごい。




「あ、そうです! この前もルピナス嬢にぜひともお渡ししたいも――」




 まだまだダステンが話を続けようとした、そのとき。


 大盾を背負った女の重装兵――メリッサが一歩前に出た。




「――ダステン様。そろそろ休憩時間が終わります」

「おっと、もうそんな時間でしたか。

 ではルピナス嬢、また後ほど。言葉の花を咲かせましょうぞ」

「はいはい」

「あ! もしよろしければ、この評議の後にでも2人きりでディナーなどいかがでしょ――お、おい離しなさいクラフト。

 ルピナス嬢はまだ小生と話したがって……!」




 なおもしつこく話を続けるつもりだったらしいダステンの腕を、今度は猛獣のような大男――クラフトが無言で掴んだ。


 軽く引いただけに見えたが、ダステンの体はあっさり後ろへ持っていかれる。



「わ、分かりました分かりました……!

 髪が乱れますので強く引っ張らないでください!」



 それでも最後に、ダステンはルピナスへ笑みを向ける。




「では、また後ほど――! ルピナス嬢!」


「……」




 ダステンたちが会議室へ戻っていく。


 その最後尾。

 青い線の入った鎧を着た、痩せ身のマスク男――ノワーレだけが、無言のままこちらへ一礼した。



 それから、派閥ダステンの面々は先に部屋へ戻っていった。




「はは。

 仲良さそうで微笑ましいね、ルピーナ」

「てめぇ……ぶっ飛ばすぞ」

「相当気に入られてるみたいじゃん」

「会うたびルピナス先にあんな感じの対応なんダヨナー、あいつ」




 ダステンという男。

 ルピナスに対して好意を抱いているのだろうけど、それを隠そうともしてなかった。


 あの度胸は本当ににすごいと思う。



「なんであんな好かれてんの?」

「知らないよ。会って間もない時からああだったし」

「ルピナス先が可愛いからダロ」

「まぁやっぱりそれか。……いろいろ苦労してるんだね」



 そう言うと、ルピナスは少し照れるように視線を逸らす。


 そして、それを誤魔化すように体を翻した。




「――ほら、ルピナたちももう戻ろ」

「そうダナ」

「あ、てかオレまだお手洗い行ってなかったから、ちょっと行ってから戻るわ」

「分かった。遅れないでね」

「うん」



 ルピナスとルルルが先に会議室の方へ戻っていき、廊下にはオレひとりが残った。



 そのとき――。


 ふと、背中になにか嫌なものが走るような感覚がした。




「――?」




 誰かに見られていたような。

 そんな気配。


 無意識に肩へ力が入った。



 だが、周囲を見回してみても、廊下には誰もいない。




「……気のせい、かな?」




 場所が場所なので、正直ちょっと気味が悪い。


 早いところ、ルピナスたちのもとへ戻ろう。






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