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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者の蕾】/ようかの夜
第2章

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割り込む声




 不意に、ここまでずっと黙っていた人物の声が割り込んだ。




「凡百の塵芥ばかりで退屈だと思っていたが――」




 その一声だけで、部屋の時間が止まったような気がした。


 発したのは、あの金髪の傲然男――『神話』だった。

 黒い目を閉じていた彼が、ゆっくりとそれを開く。


 意外にもここまで妙に静かにしていたので、誰もが気を抜いていたのだろう。


 『神話』が声を上げた瞬間、空気が再び硬くなった。




「なかなか面白い芸をする者もいたものだ。

 観賞用としては、悪くない」




 何を見て、誰を指しての発言なのかが分からない。


 けれどその意味不明な言葉は、確実に場を刺した。



 目の前にいるルピナスが肩を小さく強張らせる。

 ルルルも眉をひそめている。




「無関係な発言は慎んでもらいたい。――アグレイアス」




 アグレイアス。


 それがこの男の……『神話』と呼ばれる男の名前なのか。




「慎んでいるさ」




 男は口元だけで笑った。

 その笑みもまた、何を考えているのか分からない。



「……まあいい」



 ブラドリーナが静かに場を戻す。



「長い話になったので、一旦休憩に入る。

 休憩後、両派閥の加入の是非を採決する」



 それで、今度こそ会議は一区切りとなった。


 オレはようやく、詰まっていた息を吐いた。



 まだ会議は終わっていない。

 けれどひとまず、最初の山は越えたらしい。


 その実感だけが、じわじわと遅れて胸に落ちてきた。






 **********






 休憩時間に入ると、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。



「……ちょっとトイレ」



 誰にともなくそう言って、オレは一度部屋から離れる。

 会議室を出ても、まだ背中にはあの部屋の視線や声が残っている気さえした。


 人気の少ない廊下まで来て、壁に背を預ける。



 ……本当に、緊張感のある現場だった。



 あの場にいる人のほとんどが、自分よりもいろんな意味で“圧倒的に強い”存在なのだと、直感で分かる。


 何かされたわけではない。

 それでも、あそこにいるだけで圧を感じてしまう。




「……濃いなぁ、ほんと」




 改めて、オレは会議に参加していた派閥の面々の顔を思い浮かべた。



 派閥ブラドリーナ。

 派閥リッジ。

 派閥コレット。


 それから、まだ名前もまともに知らない他の派閥の人間たち。



 これから、ああいう連中の輪の中に入っていくのか。


 そう考えると、さっきまでよりもさらに妙な不安が膨らんでくる。



「とりあえず、まともに話できそうなのは……ブラドリーナさんと、リッジって人の派閥のところっぽいな」



 仲良くなるなら、ここら辺からだろう。

 他はちょっと、まだ腹の中が見えなさすぎる。


 個人的に、コレットちゃんと少し話してみたいなとは思う。

 が、あの背後にいる存在が存在なので、不用意に近づきづら過ぎる。



 そんなことを一人で呟いていると、




「――あ、いたいた」




 そう声がした。


 顔を上げると、ルピナスとルルルがこっちへ歩いてきていた。



「なんだ、追ってきてたのか」

「だいぶ気疲れしてそうな感じだったし」



 ルピナスが「お疲れ」と軽く笑う。

 ルルルは壁に片肩を預け、こちらを見てニヤリとした。



「で、どうだったヨ。初同盟者評議の感想ハヨ」

「なかなか強烈な顔ぶれだったね……。己の個性の薄さに挫折しかけたわ」

「それは心配ないと思うけどナア……」

「え?」



 聞き返そうとしたところで、ルルルがすかさず口を挟んだ。



「クレグレモ、美少女にホイホイついていかないようにシロヨ」

「行かねーよ!」



 まあ、確かに可愛い子や美人さんも何人かいた現場ではあったけども。


 反射でそう返したあと、少しだけ間が空く。



「……てか、ルピーナもこういう場では意外とちゃんとしてるんだね」



 いつもの自由で粗野な雰囲気が、ここにきてからはかなり抑えられている。

 普段が野良猫なら、さっきは妙に行儀よく座っている飼い猫みたいだった。



「え、なにそれ。普段ルピナがちゃんとしてないみたいな言い方やめてよ。

 ちゃんとしてるでしょ? いつも」

「お、おう……でも普段とは別人みたいに大人し――」

「んーー?」

「ご、ごめんって! 冗談冗談」



 不服そうに魔杖をこちらへ向けられたので、慌てて両手を上げる。


 それを見て、冗談っぽくくすりと笑うルピナス。

 けれどすぐに、その表情は少しだけ落ち着いたものへ変わった。



「まあでも、ブラドリーナさんにはちょっと恩も感じてるからね」

「恩?」

「ルピナがこの同盟に入れたのは、ひとえにブラドリーナさんの取り成しがあったからなんよ。

 あの人がいなかったら、多分入ってなかったんじゃないかな」



 なるほど。

 それで、あの場ではいつもより大人しかったのか。


 ただ場を弁えているだけじゃない。

 この評議の仕切り役でもあるブラドリーナさんに迷惑をかけたくない、という気持ちもあったと。


 詳しい経緯までは分からない。

 けれど、ルピナスが彼女を信頼していることだけは伝わってきた。



 と、オレたちがそんな話をしているところへ




「――おやおや、これはルピナス嬢ではありませんか!」




 廊下の向こうから、妙に芝居がかった声が廊下に響いた――。






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