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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者の蕾】/ようかの夜
第2章

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視られた





「それで、私は貴公の記憶を覗いた――」



 心臓が、一瞬だけどくりと鳴る。



「本来、無断で踏み込んでいい領域ではない。そこは謝罪する。

 ただ、自衛という観点からも、書を追うという観点からも、初対面の相手の記憶に触れることが、半ば癖になっていてな」



 さらりと恐ろしいことを言う。

 あらゆる角度から、自分の見られたくない部分も見られてしまうではないか。


 けれど、彼女の声音にふざけたところはない。




「――だが、視えた貴公の記憶が、あまりに奇妙だった」




 その目から感じたのは、不穏さではない。

 むしろ真剣で、配慮すら感じる。


 ただ面白がっているのではなく、純粋に確かめたいのだと分かる。



「私には理解できない景色だった。

 この世界のものとは思えない街並み、道具、文化。

 だから、どうしても問うておきたかった。あれは何なのか、あんな街、一体どこにあるのか」



 こことは違う世界の記憶の話。

 ミリナ村の話ではなく、それよりもっと前。

 オレがいた、別の世界の話。


 ブラドリーナは、それを視たと言ったのだ。



 オレは少し黙った。


 さっきルルルにも話したばかりだというのに、こうも続けて自分の秘密を突かれることになるとは思わなんだ。


 ただ、彼女が口から出まかせを言っているとも思えない。

 それに、ここで下手に言い訳をして誤魔化そうとすれば、かえって怪しく映るだろう。


 それでルピナスたちの信用にまで傷をつけるのは嫌だった。

 どうせここで隠したところで、意味はない。



 そう判断して、オレは慎重に口を開いた――。




「……オレも、全部は分かってないです。ただブラドリーナさんが言う通り、ここじゃない、別の世界の記憶です。

 街の形も、人の暮らしも、世界の作りも……こことは全然違う。

 どこにあるのかとか、どう行くのとかは、まったく分からないです」

「別の世界……か。

 自分の能力を疑いたくなるほど、常識外れな話だな」

「はは……」



 ブラドリーナは少しだけ思案してから、気を遣うように問いを重ねた。



「それは、貴公が生まれ育った故郷なのか?」

「はい……そんな感じです」



 短く頷く。


 故郷といえば、故郷なのだろう。

 けれど、そう呼ぶには、オレはあの場所に対して抱くべき感情をあまり持っていなかった。


 だから、少し歯切れの悪い答え方に聞こえたかもしれない。



「戻りたいと思うか?」



 その問いには、少しだけ詰まった。




「……いや。別に戻りたいって気持ちはあまりないです」




 それが、今の正直な答えだった。


 ルピナスたちに出会う前なら、あるいは違ったかもしれない。

 便利さだけで言えば、圧倒的に向こうの方が上だ。


 もしくは、『どっちでもいい』とでも言うような、あらゆるものに無関心な返答をしていたかもしれない。



「そうか……」

「まぁなので、書探しの役には立たないと思います……すいません」



 気まずさを流すように、オレは曖昧な笑みを作った。



「いや、こちらこそ。無粋な質問だった。謝罪する」



 ブラドリーナは、それ以上踏み込んでこなかった。


 勝手に見たことを謝り、気になったから聞いた。

 そのうえで、無理に抉ろうとはしない。


 話している最中も、終始こちらに配慮をしてくれているのを感じた。



 ちゃんとした人だ、と思う。



「あの……どうしてわざわざ特者能力の詳細を教えてくれたんですか?

 それって、相手に手札を見せる行為じゃ……」

「ふっ……。

 あぁすまない、貴公を笑ったわけではないんだ」



 彼女はわずかに目元を和らげた。



「そんな心配をしてくれるとは、存外優しいのだな」

「そう、ですか……?」



 褒められちゃった。



「――簡単な話だ。

 能力とはいえ、そちらの記憶を無断で視てしまった。

 ならば、こちらも相応に情報を開示するのが、筋というものだろう」



 はっきりと言い切った後、ブラドリーナは二人の方へと視線を送る。


 少しして、オルディアンとルルルも戻ってきた。



「では、話は以上だ。

 時間を取らせてしまってすまなかった」



 ブラドリーナが言う。



「イエ~。お気にナサラズ」

「また二週間後。

 評議で会えることを願っている」



 オルディアンは相変わらず眠たそうだったが、去り際にブラドリーナに促されたのか、こちらへ小さく頭を下げていた。


 金髪と炎髪が、夕暮れの人波の向こうへ溶けていく。




 少しの沈黙――。




 オレは、さっきから引っかかっていたことを口にする。



「……ねえ」

「ン?」

「ルルルって、男なの?」

「え、違うケド?」



 ルルルは即答した。



「……」

「……ナンダヨその顔」

「いや、さっきブラドリーナさんがルルルのことを“彼”って言ってたから」

「へえ~」



 ルルルは本当に、なんの疑問もない顔をしている。

 嘘をついている感じでも、はぐらかしている感じでもない。


 だからこそ、答えはますますよく分からなくなる。



「……おめぇ、謎だな」

「ミステリアスな方が、魅力的ダロオ??」

「すーぐ茶化すぅ」



 ルルルが笑う。

 オレも、つられて笑った。



 街の空は、だいぶ濃く赤くなっていた。

 夕方が、夜へと変わり始めている。


 今日一日で、いろんなものを見た。


 街の雑踏も、くだらない騒ぎも、少し危ない場面も。

 そして、新しい名前も。


 そのどれもが、この世界がただ広いだけじゃなく、底知れないことを教えてくれる。



 そしてオレの隣に、ルルルがいる。


 それだけで、不思議とこの街の景色は、少しだけ面白く見えた――。







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