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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者の蕾】/ようかの夜
第2章

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試し撃ち






「――オイ、ドン草童子。あれ見ろ」

「どうした?」



 ルルルがオレの頭をポンポン叩いてきた。



 そう言われた方向に視線を向ける。


 少し先、人通りの多い通りから外れた脇道の入口あたりで、柄の悪そうな連中がひとりの若者を囲んでいた。


 若者の方は、やや長身で細い。

 歳はオレとそう変わらないか、少し上くらいに見える。

 整った服は着ているが、いかにも気が強そうな目つきをしていて、体が屈強というわけではないのに、追い詰められてなお負けていないようにも見える。


 対して、囲んでいるのは4人ほどだろうか。

 わざと体格を大きく見せるような上着を羽織っていたり、髪も無造作だったり、立ち方も声の出し方も雑だったり。


 いかにもな街の小悪党、そんな言葉がしっくりくる。


 とはいえ、ここからでは状況の細かいところまでは分からない。



「揉めてるナア」



 こんなに大きな街で、こんなに人もいる。

 あの手の連中がいても仕方がないというか、むしろいない方が不自然とさえ思えるくらいだ。



「まぁああいう輩の1人や2人普通にいるわな……」



 連中はその若者を、半ば囲うように押しやり、人の少ない横道の奥へと連れて行こうとしていた。



「……おい、追いかけるぞ」

「え?」



 ルルルが妙に探偵ごっこじみた雰囲気を漂わせながら、目を細める。


 なんかコイツ、面白半分くらいの遊び感覚で首ツッコもうとしてないか……。

 オレはルルルに「おめぇな……」と胡乱(うろん)げな目を送った。


 だがなんにしろ、たしかに見過ごしていいような場面でもない気もする。



「また面倒ごとになるかもよ?」

「――行く」



 即答だった。


 オレたちは人混みに紛れるようにして、少し離れた位置からその後をつけた。




 ――――。




 雰囲気が変わった。

 脇道の先は、通りから一本入っただけで街の灯りは急に薄れ、嘘みたいに静かだった。



 さっきまで耳を埋めていた都市の喧騒は遠のき、代わりに建物の壁に反響する声だけが妙に大きく聞こえる。


 道を挟んで並ぶのは、マンション的な共同住宅だった。

 上階の方では洗濯物の間を風が抜け、どこかの窓からは香辛料の匂いが漂ってくる。


 通り道というより、建物のあいだにぽっかり残った空間。

 そんな印象のある場所だ。

 そのせいか、生活の気配はあっても、人影は少ない。


 ちょっとした悪事を働くには、都合のいい場所だろう。



 4人の小悪党は、そこで逃げ道を塞ぐように、若者を取り囲んでいた。




「だからよぉ、早く払ってもらわないと困るんだよ」

「払うも何も、アンタらが無理やりっ――!」

「買ったんだから払えって話なんだよ。人として当然のことだろ?」

「結局糞みたいな中身だったから、払いたくねぇって話だ!」




 静かな道なので、話声が割とはっきり聞こえてくる。


 「ああ」とオレは内心思う。

 ざらにある金銭トラブル、といったところだろう。



「金が絡むと、人間ロクでもなくなりやすくなるんダヨナア」



 ルルルも似たような感想を抱いたのか、口元を歪めた。



「やってること騙し取りじゃねーか! 俺は払わねーぞ!」


「あ?」

「対価だけ持ってくなんて、泥棒と変わらねーんだわお兄さんよお。 こっちも商売でやってるんだ、慈善じゃねぇんだよ」

「そっちがごねるならならこっちもてめーに何しても許されるよなあ!?」

「……っ!」



 聞こえてくるやり取りからすると、どうやら若者が、こいつらに何かを半ば強引に買わされたらしい。

 そしてあとで中身を見たら、話が違った。


 そんなところだろう。



 若者は必死に屈しないよう踏ん張ってはいるが、小悪党どもはじわじわ距離を詰め、完全に脅しにかかっていた。



「しょーもねぇナア」

「だね……」



 ルルルのぼやきに、オレも同調。


 そのとき。

 四人のうち、一番背の高い大柄な男が、若者の胸倉を掴もうと手を伸ばした。



「払うか、別の形で誠意見せるか、どっちか選べや」



 言い方が、露骨に一線を越え始める。


 けれど、殴るとか蹴るとか、分かりやすい暴力にはまだ踏み込まない。

 都市の、犯罪防止の命式術があることが分かっているからだろう。


 露骨な重犯罪にはならない範囲で、けれど十分に質が悪い。



「……ああいうの、命式術は拾わないんだね」



 オレが小声で問いかけると、ルルルは鼻を鳴らした。



「重罪だけって言ってたダロ? 裏を返せば、ああいうギリギリを攻めるやつトカ、命式術の穴をつこうとするやつは山ほどいるってワケダ」

「なるほど」



 となれば、そろそろ仲裁にでも入った方がいいのかもしれない。

 命式術の及ぶ範疇外で、彼らが何かよからぬことをする可能性がある。


 そんな懸念をよそに、ルルルは不適にニヤリと笑った。

 また、ろくでもないことを思いついたような表情だ。



「――ちょうどいいし、魔法の練習でもしてみたらドウヨ!」

「へ?」



 ほら、やっぱり突拍子もないことを言い出したぞ。



「ほら、昨日いろいろ教えたダロ? 実践してミルゾ!

 あいつら練習台にちょうどいいカラナ」

「いやいや、そんな軽く言うけど……。

 オレがあの人らめがけて魔法撃ったら、オレ水溝に落とされるんじゃないの」

「大丈夫ダ!」



 ルルルは余裕たっぷりに笑う。



「今のあいつらを見ても分かったダロ? 命式術には穴があるんダヨナ。

 だから“うまいこと”やれば落とされネェ」

「うまいことって…どうやるんだよ」



 適当な戯言(たわごと)に従った結果、いざやってみたら自分だけ落ちました、なんて笑い話にもならないからな。



「要は、命式術に行為が認識されなければいいんダヨ」

「そんな都合のいいことできるのか?」

「まあ見てろヨ、ドン草童子」

「……え、ちょっと待って」



 そう言いながら、ルルルはすでに物陰へしゃがみ込んでいた。

 オレも慌ててそれに倣う。


 ルルルは中腰のまま、少しだけ体を乗り出す。

 狙いを定めるように、四人のうちの一人へ視線を向けた。



「アイツにするか……」



 その手を前に出す。

 人差し指だけを軽く突き出すような動作。でもぴんと伸ばしきらない、少し曲げた指差し方。


 そして、空気が変わる。


 ルルルの指先の先、手の甲の少し斜め上あたりに、透明な白さが集まり始めた。



 ――氷だ。



 それはみるみるうちに形を成し、やがて人の腕ほどの大きさの、やや細身の氷でできた腕が、空中に現れる。

 肘から先だけを切り取ったような形。


 冷気が薄く周囲へ溶けていく。



 ルルルがその指先を、ひょい、と押し流すみたいに前にへ滑らせた。




「ロケットパーンチ!」




 その掛け声と同時に、氷の腕が弾かれるように飛んだ。



「ぶへッ…!?」



 標的にされた男のわき腹に、それは直撃。


 ルルルが威力を調整したのか、見た目の派手さほどの威力はではなかった。

 それでも不意打ちとしては十分で、男は情けない声を上げて横へ吹っ飛んだ。


 壁に肩をぶつけ、ずるっと崩れ落ちる。



「な、なんだ!?」

「誰だ!?」



 連中の仲間が、揃って周囲に視線を走らせる。

 そしてすぐに、囲んでいた若者へと疑いの目を向けた。



「お前がやったのか?」


「はぁ!? んなわけないだろ!」



 状況が一気にぐちゃぐちゃになる。


 オレは思わず吹き出しそうになった。

 隣を見ると、ルルルも口元を押さえながら、肩を揺らしている。



「次オメェ、やってミロ!」

「いや、急に振るなって」

「大丈夫、できるっテ! 今のウチニ!

 早くしないとただじゃ済まなくナルゾ!」



 ほぼ脅しみたいなノリで押されて、オレは渋々頷いた。



「分かった分かったって!」



 四芒星の結晶に触れ、意識を向ける。

 そして、昨日見せてもらった魔法の感覚を思い出す。


 別に彼らにそんな大ダメージを与えたいわけじゃないので、ちょっと軽くイタズラするくらいの魔法でいい。



「……なら、あれにするか」






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