表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者の蕾】/ようかの夜
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/77

多種多様な人々






「……あれ?」



 さっきまで隣にいたはずの姿が、消えている。

 周囲を見回してみるが、見当たらない。


 人混み、店、雑多な動き。

 見回したところで、探すのが難しい。



「ルルルのやつやっぱり迷子になってじゃん……」



 決して迷子になったのはオレではない。


 オレではないのだ。



「……まったく」



 ほんの数秒前までいたのに。


 呆れながら、仕方なく広場を眺めていると――




「――ココにいたのか、ドン草童子」




 後ろから声がした。


 振り向くと、もちろんその声の主はルルルだ。



「勝手にどこ行って……」



 そう問おうとした。

 が、その片手には、すでに食べかけの何かの肉の串焼きが収まっていた。



「空腹に耐えられなかったから買ってキタワ」

「どっか行くなら声かけろや!」

「ハハッー、オメェがちゃんとついてこないからダロオ? 不満なら手でも繋いどくカア?」

「繋がねーよ! それが不満だわ!」



 そのまま、肉にかぶりつく。


 じゅ、と油が弾けて、香ばしい匂いが漂った。



「そうそう。でさ、あの人は何やってる人なの? 有名人?」



 オレはあの白仮面のピエロのような人を指しながら、そう聞いてみる。



「あれは『笑い屋』って呼ばれてる(たわ)け者ダナ。

 この広場じゃかなり古参ラシイゾ」



 ルルルが串焼きをかじりながら言う。



「ああやって街中で芸して、食い銭稼いでるんジャナイ?

 基本自分では喋らねぇけど、愚痴聞きとかもやってるのをミルナ」

「愚痴?」

「壁打ちみたいなもんダナ。

 喋らねぇから、勝手に吐き出して勝手にスッキリするやつ」



 なんとなく理解できる。


 言葉が返ってこないからこそ、逆に話せることもあるのかもしれない。



 思い返せば、前の世界でも、似たような人はときたま見かけていた記憶はある。

 路上で歌を歌ったり演奏したり、曲芸を披露したり、あるいは銅像になりきったり。


 ああいう人の存在も含め、街の景色の一部として――遠回しに社会の支えになってるのかもしれない。



「悩みってノハ、全部解決しなくテモ、誰かに話すだけで少し楽になることもあるカラナア」

「……なるほどな」



 そんなことを話してる時だった。




「――あなたたち!」




 突然、感情を抑えきれていない声が、オレたちに投げかけられた。



 振り向くと、数人の男女がこちらに近づいてきている。

 どこか熱のこもった目だ。



「それ、妙獣の肉ですよね!?」



 ルルルの手元の串焼きを指差し、無駄に声量のある声で迫ってくる中年の女性。



「食べるつもりなんですか?」

「アア?」



 ルルルが眉をひそめる。


 オレもつられて串焼きの方を見る。



「……え!? そうだったの?」



 妙獣。


 この世界に存在する生き物のひとつ。

 すべてを知っているわけではないが、これまでオレが見たことのある個体は、正直どれも食欲が湧くなんて口が裂けても言えない奇貌ばかりだった。


 

 だからこそ、こうして当たり前のように食用として利用されている事実に、驚きが隠せない。



「そんなドン引いた顔スンナヨ。案外うまいし価格も安いし、結構イイゾ、これ」

「美味しいのかよ……」



 安くて美味いなら特にデメリットはない。


 ないはず……理屈ではそうなんだが、見た目の印象がどうにも拭えない。



「食ってミルカ?」



 「ん、」と軽く言いながら、オレの口元に肉を近づけてくる。



「……ま、また今度でいいわ」



 とりあえず今は、やんわりと拒否させてもらおう。


 とはいえ、よくよく思い返せば、完全に受け入れられない話でもないのかもしれない。


 オレが初めて見た妙獣は、ブタに似た姿をしていた。

 もちろん、あまりにも歪で奇妙な見た目ではあったが、それでも「食えそう」と思えなくもないラインではあった。

 そういう個体なら、食用に回されていても不思議ではないといえばない。



 まあ、それでも積極的に食べたいとは思わないけど……。




「――あの、聞いてますか!」




 オレたちが構わず話していると、強めの声でおばさんがまた割り込んでくる。


 今度は明らかに苛立ちが混じっている。



「妙獣の肉を食すなんて正気じゃありません! 人道に背く行いです!」

「あー、そういう……」



 この人たちの立ち位置が、なんとなく見えてきた。


 世の中には、食べることひとつ取っても、強い信念を持つ人間がいる。

 これもその類なのだろう。



「売られてたから、買って食ってるだけなんデスケド」

「買わなければいいでしょ!」

「なんで他の動物トカはよくて、妙獣はダメなんダヨ。

 どっちも命ダロ?」


「――違う! ただの動物と違って、妙獣は身体的に人間に近い特徴を持つものが多いだろ!?

 そんなものを食すなんて、”倫理的に”問題があるんだと言ってるんだ!」



 横に立ってたおじさんも、加勢するように主張を投げ入れてきた。



「そうよ! だから許されない!」



 オレたちの態度(主にルルルだと思うが)が神経を逆撫でしてしまったのか、完全にヒートアップしてしまったようだ。



 しかし言われてみれば、思い当たる節はあった。


 これまで見てきた妙獣は、どれも、どこか人間に似た気味の悪さを持っていた。

 人の指をそのまま脚にしたような肢で立っていたり、大きな人の顔面が伸びていたり……と、正気とは思えない造形をしていた。

 

 この人たちの主張が正しいかは別にして、あんな奇貌の存在を知れば、いろいろ想像力を働かせてしまうのも無理もない。



 だが、ルルルはそんなお叱りは気にしていない様子で、普通に食い続ける。



「生き物の痛みが分からないのか!」

「私たちは、同じ身体的特徴を持つ者として、その痛みを想像して、思いやった結果としてお願いしているんです!」



 おばさんたちは胸倉を掴む勢いで、さらに距離を詰めてくる。

 このままいけば、そろそろ手を出されてもおかしくない。


 だが。



「――ダッタラ! ワタシは他の動物たちの気持ちが想像デキル!! 

 牛が! 豚が! 鶏が!

 可哀そうだァァァ! 痛いよオオオ! 助けてエエエ!」



 見え見えの泣き真似をするルルル。



「――でも、ウメェから食うケドナァ!」 

「…っ……」



 相手にしているようで、どこか受け流しているルルルの態度に、おばさんたちは黙り込む。



「オメェら、妙獣に襲われたこともないからそんなこと言ってるんダロ?

 一度でも襲われてみろヨ~、そんなこと言えなくナルゾオ」



 飄々(ひょうひょう)とそんな反論を放り込んだルルルだが、ごもっともだと思う。


 生憎と、オレも嬉しくはないが、その“襲われたことのある人間”側だ。

 正直なところ、同情する気にはなれない。



「関係ない! だめと言ったらだめだ!」

「早くそれを置いてください!」



 相手もこちらの言葉に耳を傾ける気はない様子で、ついにルルルの腕を掴み、無理やり食べるのをやめさせようする。


 その強引さに対し、ルルルは一瞬だけ無言になり「ハァ……」と大きくため息をつくと、おばさんの肩をつかんだ。


 そして――




「……んっ…!」




 次の瞬間、持っていた串の肉をつまみ取り、そのままおばさんの口の中に押し込む。


 開きかけていた口に、肉がそのまま綺麗にねじ込まれた。



「――!?」

「ウルセェl いいから食ってみろヨ! ウメェからヨ!」



 一瞬、場の空気が固まる。


 おばさんは目を見開いたまま硬直し、すぐに吐き出そうと顔を歪めた。




「お、おい! 吐け、吐け!」




 隣の男が慌てて声を上げる。


 だが、その動きがぴたりと止まった。




「……」




 戸惑ったような顔で、反射的に噛んでしまっている。




「……」




 微妙な沈黙。




「……あ」




 飲み込んだ。


 隣の男も、完全に混乱している。



「……お、おい!」

「……っ…」



 おばさんは何とも言えない顔で固まったまま、口元に手を当てる。

 怒るでもなく、吐き出すでもなく、ただ困惑している。


 その様子を見て、ルルルは腕を組んだ。



「ウメェダロ?」


「……っ! ……ふ、ふざけないでください!!」



 遅れて我に返り、顔を真っ赤にして怒鳴るおばさん。 


 「オウェッ!」とわざとらしく吐き出そうとする動きを見せた。



「フッ…おめぇ……やりすぎだろ」



 オレは思わず吹き出しそうになりながら呟く。


 別にこの人たちに恨みはないが、内心、どこかスカッとした気持ちになっている自分がいた。



「いいんだよ。あいつらも本当は美味ぇもん食いたいダロウシ」



 ルルルはケロッとした顔で言う。



「方法が雑すぎるだろ」

「ブァッハッハッハ!」



 そんなやり取りを残しながら、オレたちは活動家連中を置いて、その場を離れる。


 さっきまであれこれ大きな声を出していたおばさんは、もう何も言えずにその場にただ立ち尽くす。

 隣の男も、どうフォローすればいいのか分からない様子で固まっていた。




「本当に、いろんな人がいるんだなぁ」




 そんな後味を残す出来事だった――。




 それからしばらく街を歩き回り、これからの生活に必要なものから余計なものまで、一通り買い揃えた。


 旅でも使えそうな小物や、途中で見かけてちょっと食べてみたくなったお菓子。

 用意はあるとは言われたが、一応着替えなど衣類も少し。


 ついでにルルルに半ば強引に勧められて、携帯照明の魔品まで買わされた。

 命力を流し込むと灯る簡易灯火。……多分、懐中電灯のようなものだろう。



 気づけばかなりの時間が経っていて、昼の光も薄れつつあった。



 ちなみに、支払いはルピナスから一時的に渡された金を使った。


 「これから貢献することで返してね!」と軽く言われただけで、特に契約だとか堅苦しい話ではない。

 オレに申し訳なさを感じさせないようにそう言ってくれただけで、つまり普通に遠慮なく受け取っていいのだろう。


 ……まあ世話になりっぱなしというのも落ち着かないし、どちらにしろ、これから力になっていきたいという気持ちは変わらない。



「――おい、ドン草童子、ちょうどいいし飯食ってからカエルゾ」

「さっき肉食べてたよね?」

「あんなのじゃタリナイ! しかもあげちゃったし全然腹膨れてなかったんヨナ」

「……まあいいか オレも小腹空いたし」



 そんなやり取りをしながら、適当に近くの店に入った。



 木の扉を押し開けると、外の喧騒とはまた違った、穏やかな賑わいが空間を満たしていた。

 中はほどよく客が入っていて、酒と肉の匂いが混ざっている。


 案内された席に腰を下ろし、ひとまず目についた飲み物と料理をいくつか注文する。

 しばらくして、それらが運ばれてきた。


 焼けた肉の匂い。

 香辛料の刺激。

 立ちのぼる湯気。


 そして、ルルルは迷いなくお酒まで頼んでいた。



「酒かよ」

「いいダロ別に!」



 そう言って、ぐいっと(あお)る。


 その姿は、妙に絵になっていた。



 しばらくはオレも普通に飯を食う。

 買い物で体力を消耗していたせいか、気づけば黙々と食べ進めていた。


 なんとなく何気ない会話を交えて。

 時折静かな間があって。


 外の騒がしさが、少し遠くに感じられるようになったころ――。




「…オメェさ、聞いていいのか分かんねぇケド……」




 いい感じに酒が入ってきたルルルが、ぽつりと話を振ってきた。


 オレは顔だけを横に向け、「ん?」と続きを促してみる。



 そしてルルルの口から出たのは、オレの予想を大きく裏切る言葉だった。




「……デュムールの近くにある村出身だって話。――あれ、嘘ダロ?」


「……っ、え?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ