特者能力
「恩寵者だけが……特別な者だけが持つ異能――“特者能力”です」
「それがルピーナの隠し手札なの?」
どういうことかよく分からなかったが、その特者能力とやらに、彼女が一人でいる方が望ましい理由があるらしい。
「その特者能力?ってのがルピーナが一人でいた方がいい理由? どういう能力なの?」
「文字通り、隠し札って感じの能力ダナ」
と言われても、正直あまりイメージできない。
「……?」
「あーもうめんどくせぇや! これも見せた方が早いな」
そんな言葉を受け、目を瞬かせた次の瞬間には――ルピナスの姿が消えていた。
「……え? は?」
いや、消えたように見えただけなのか…?
今の今まですぐ目の前に立っていたはずなのに、いつからいなくなったのか分からない。
意識から、いきなりすっと抜け落ちた感覚。
まるで神隠しのような。
いったい何がどうなっているのか。
「どこいっ――」
消えた少女を探そうと、声を張り上げたその時。
コツン、と膝の力が抜けた。
「わっ…!?」
為す術もなく、オレはそのままバランスを崩して倒れ込んでしまう。
“ひざかっくん”されたような感覚だ。
振り返ると、ルピナスが何事もなかったかのように、そこに立っていた。
「……なっ!?」
「これがルピナの特者能力『陰歩き』!」
「説明する時いちいちオレに一イタズラしなくていいから!」
「どう、すごいでしょ?」と軽い調子で手を広げるルピナス。
「対象の認識から外れる能力。なんだけど…今みたいに、わざと相手に存在を認識させてしまうような行動をとると、一旦解除されちゃう」
「あー、それで……ん」
記憶の中の点と点が繋がる。
「――だからか!」
あの時の違和感の正体。
ルピナスが大型妙獣と対峙している最中、なぜか妙獣が目の前に立っているはずの彼女を見失っているような挙動を見せていた。
意味の分からない光景だったが、これがあの不可思議な現象のからくりだったのか。
ルピナスはこの異能を用い、大型妙獣の認識から外れていたのだ。
そして、あの時大型妙獣にはルピナスの姿が見えていなかったのに、オレは普通に彼女を認識できていたこと。
それを踏まえると、おそらく――
「多分だけど、その『陰歩き』。 “誰の認識から外れるか”もある程度調整できるよね?」
「ご明察! 今はアイトくんだけを対象にしてた」
そんな種明かしの話の後、ルピナスは杖の先をオレの方に向けてきた。
「ちなみにさ、この能力も模倣の対象にはならないと思うよ」
「そうなの……?」
オレは例によって試してみたが、彼女の言う通り、これまた反応はなかった。
「本当だ。これも模…オマージュできない」
「でしょ? これは魔法とかじゃないもん」
「特者能力…って言ってたっけ?」
「そう。魔法や武技・身技、とは全く異なる力。
魔法とか武技身技を使う時は命力が力の源になるけど、特者能力を使う時はまた別」
「別の……?」
「――簡単に言うと、2つ目の命核にある力ダナ」
「……はい?」
しばらく沈黙していたルルルが口を開いたかと思えば、またいきなりよく分からないことを言い出した。
「恩寵者の話はさっきちょっとしたでしょ?」
「うん」
たしか、ルピナスたちが追い求めている『世改の書』を手にする資格のある者たち、という話だったはずだ。
「別に、書の資格者のことを指して恩寵者って呼んでるわけじゃなくてね。
ある共通の特徴を持つ、ルピナたち“恩寵者”。その者たちだけが書を扱えるって言われてるだけなんだよね」
「ふーん」
つまり順番が逆ということか。
もともと恩寵者という存在がいて、後から、 “書を所有する資格を持つ者は彼らだけだった”というのが判明した。
という話だ。
「……で、ある特徴って?」
ルピナスは少しだけ考えてから、言葉を加える。
「恩寵者って呼ばれる人たちは、二つの特徴を持ってる。
ひとつは特者能力。さっきみせたよね」
適当に頷きつつ、説明を促す。
「で、もうひとつが、2つ目の命核。
普通の人は、命力を貯め込むための器である“命核”を1つ持ってる。アイトくんにもあるよ」
そう説明しながら、ルピナスは自分の心臓の部分を指差した。
といっても、そこに実態としてある訳では無いのだろう。
いわば心のような、概念的なもの、か。
「オレにも……」
オレもなんとなく心臓あたりに手を当てながら、整理する。
命力を蓄える器。
魔法等の技を使うごとに、そこから命力が減っていく……。
携帯のバッテリーみたいなイメージか? いや、コップの中の水が減っていくイメージのがわかりやすいだろうか?
「……けど、ルピナたち恩寵者にはそれがもう一つある」
「つまり恩寵=特者能力ってことじゃないのね」
「そう。特者能力と2つ目の命核。
これらをまとめて恩寵って呼ぶ感じかな」
そして、その恩寵者だけが、世改の書を手にする権利があると。
だんだんと、ルピナスたちがいる世界の解像度が上がってきた。
「じゃあその2つ目の命核…?に入ってるのが特者能力専用のエネルギー、って理解であってる?」
「うん。寵核、とか第二の命核、みたいに呼ばれることが多いかな。まあ細かいとこはどうでもいいんだけどさ。
そこらへんはアイトくんには関係ないだろうし」
右の耳から左の耳へ流しとけ、みたいなジェスチャーを見せつつ、ルピナスは、ここまでの話を整理するように口を開いた」
「――とにかく、特者能力は恩寵者その人だけの力。完全に固有のものだから他人が再現することはできない」
「その首飾りとかに関係ナクナ」
「うん」
オマージュの力不足という話ではなく、恩寵者個人だけに与えられた特別な力だからこそ、これもまた模倣の力の対象にはなりえないということだ。
学問か才能か、みたいな話なのだろう。
習ったり鍛えたりすれば身につくものと違い、才能は後天的にどうにかできるものじゃない。
この世界で言えば、魔法や武技・身技が前者で、特者能力は後者ってところか。
まあ、前者でももちろん才能の有無はあるのだろうけど。
「正直ちょっと安心したわ……。
特者能力まで模倣の対象になるなら、その首飾り恐ろしいわ! …ってなるとこだった」
「はは」
終始、ルピナスの表情に警戒の色が垣間見えていたのは、そういう理由だったのだろう。
気持ちは理解できなくもない。
年月をかけて磨いてきた技や、自分だけの特別な力が、突然現れた“模倣”なんて能力であっさり使われたら、そりゃあまりいい気分ではないからな。
「ワタシも詳しいわけジャナイケド、恩寵によっては家系で受け継がれることもアルトカナイトカ」
「まじかよ……」
結局は生まれつきの才の問題からは逃げられないのかね。
どの世界でも。
世界に愛されてる人間と愛されてない人間……恵まれてる者とそうでない奴は決まっているのだ。
『恩寵者』
まさに読んで字のごとく、これ以上ないくらいわかりやすい例だなと思った。




