オマージュ
「ズバリ。――『模倣』ダァ!」
そう、自信満々に言い切った――。
もしそうなら、この世界でも本当に“最強”クラスの力なんじゃないか! と一瞬胸が熱くなる。
けれど同時に、そんな都合のいい話が本当にあるのかという疑念も込み上げていた。
「模倣、ですか」
「まあそうなるよね…」
模倣。
オレはその単語を頭の中で繰り返す。
「自分が見た魔法をそのまま再現する。オオマカに言えばそんな能力ってとこデショウ!
――つまり“真似”ダナ」
「……真似、ね」
オレは改めて、胸元にかかる四芒星を見る。
妙に、皮肉だった。
この世界に来る前の人生――いや、この世界に来てからもそうだったのかもしれない。
オレはずっと、自分の人生を生きているとは言えなかった。
前向きな夢や目標なんて持ってなかった。
あったのはせいぜい、どうやって現実から逃げるか、そんなことばっかり。
周りが進路を決めていくのを見て、オレはそれに倣って、なんとなく選んできただけだ。
高校や部活、大学を決める際だってそうだ。
オレが選んだ理由は、たいてい“それを選ぶ人が多いから”だ。
自分で選んでいるつもりで、ずっと誰かの真似をしていただけ。
そこに自分なんてなかった。
それを、今になって突きつけられているような気がした。
「案外……ぴったりなのかもな」
半分ひとりごとのつもりで、そう呟いた。
「せっかくですし、名前とかつけたらどうでしょうか?」
オレの隣へやってきたアエリスが、後ろで手を組みながらひょこっと顔を覗き込んでくる。
純粋な笑顔のまま、そんな提案をしてきた。
こうして並んでみると、意外と身長差はないらしい。
「いいじゃん!」
「名前か……」
「ルピナがつけてあげようか? 超超カッコいい名前を与えてあげるけど??」
「――お断りします」
「なん、でや!」
危ない危ない。
危うく彼女の杖のような、長ったらしい厨二ネームをつけられてしまうところだった。
「あんな変な名前つけられたくないもん! なんとか……タラタラ、だったっけ…?」
「もしかしてこの魔杖のこと言ってる?
《奈落に沈みし終焉の宝杖 理から逸脱せし闇の媒介者 ダラダラ》な! あと変じゃないだろ! カッコ――んっ! …っ!」
ルピナスの口を手で押さえ、ひとまずうるさい口は黙らせておく。
「どうしようかな……どうせならカッコよくいきたい気はする」
真似、とか模倣とか、二番煎じ感強いネーミングはなんか嫌だしな。
ならば……、
「――『猿真似』ヤナ!」
「聞こえ悪すぎるわ!」
「――ジャア、『紛い物』」
「悪化してる!!」
ルルルが完全にふざけ始める。
「はぁ……ルルルももう一旦黙ってて」
二人の雑音を一旦シャットアウトし、オレは顎に手を当てる。
ひとしきり思案し、決めた名前は――
「よし、決めた!
名付けて――『オマージュ』だぁっ!」
…………
……
「ちょ、ちょっと小っ恥ずかしいからなんかリアクションしてよっ!」
「すごくいいと思いますよ!」
「……ありがとう! アエリスさん」
「呼び捨てで構いませんよ」
邪のないやわらかい笑顔をくれるアエリス。
何だこの子、天使か?
「えへへ…じゃあ、アエリス……」
少しためらいながら、名前を呼んでみる。
自分でもわかるくらい、声はぎこちなかった。
あの一件もあって、彼女とは少し壁を作っていた気がする。
けどこれからは、もっと積極的に仲良くなってみよう…かな。
「なんか語尾に気持ち悪いハート付いてんダヨ!」
「痛っ!」
ルルルに後ろから頭をはたかれた。
「――それにしてもさ、アイトくんの役どころ、なかなか難しいね。
オマージィーン?とかなんとか……すごい見込みはあるんだけどね」
「オマージュねっ!」
「本人の実力が、まだまだ追いついてないカラナ」
「戦闘経験とかもあまりなさそうですからね」
ルピナスは「うーん」と少し悩んだ後、
「……2人さ、当面の間、どっちか付き添ってあげてくれる?」
「こなたは異論ありません!」
「メンドクセェけど、仕方ネェ。
子守してやりマスカア」
そうして、ルピナスの提案に二人とも頷いた。
「ありがと、2人ともお願いね。
じゃあアイトくんも、一旦それでよろってことでいい? ……アイトくん?」
「……あれ、おかしいな」
ルピナスたちがオレの今後について話している間、オレはとある別のことを試していた。
「――どうした?」
「いや、これの力が模倣ってことだったから。あのとき見た魔法……ヴィクトリーノさんが使ってた、あのでっかい爆発の魔法。
あれもできるのかなって思って試してたんだけど、できないっぽいんよね」
村を襲った災厄ごと、あの空気まで焼き払った一撃。
黒い炎が膨れ上がって、爆ぜるように広がった、あの圧倒的な魔法。
オレは少し身構えながら、それを思い浮かべてみる。
だが、やはり何も反応はなかった。
「……うん、無理だ」
「ヴィクトリーノ……あのデンセツの人か…」
「んなもんこんな所で撃とうとすな!」
「多分ですけど……功能にも限度があるのではないですか?」
アエリスの言葉に、ルピナスも頷く
「その首飾りの力にも上限とかはあるはずだよね。
アイトくんが“見た”からといって、全部が全部再現できるとは限らない。
できたらそれこそ伝説級でしょ」
「しかも、あのヴィクトリーノ氏が使ってたものともなれば、なおさら能力の範囲外な可能性は高いダロウシナ」
「いくら模倣がすごい力とはいっても、そんなに都合よく最強ってわけじゃなさそうなのですね……」
ルルルはオレの肩に手を置きながら、畳みかけるように続ける。
「どっちにしろ、コイツの力量的にも扱いきれなソーダヨナ」
「命力の消費量もすごいだろーし。アイトくんのそれじゃ厳しいだろうね。
あの時の魔法とかまさにえぐいでしょーて」
「まじか……」
やっぱり、『オレ最強!』展開は期待しない方がいいらしい。
模倣とは言っても、 “制限付きの模倣”という捉え方が正しいのかもしれないな。
それを念頭に入れて、今後はうまく使っていく必要がありそうだ。
「――それに、これはルピナの予想だけどさ」
少しだけ遠慮するように、ルピナスは続ける。
「強大な魔法だから使えない、ってだけでもない気がする」
「……というと?」
「魔法を創成することそれ以外にも、例えば細かい制御が必要なものだったりとかは、多分使うの厳しいと思う、今のアイトくんには」
「制御……」
「んー。例えばそうだな…」
ルピナスは少し考えてから、ふっと口元をゆるめた。
「空飛んでみて。ルピナが見せるから」
「……へ?」
そう言い放った瞬間、ルピナスの足元の空気がふわりと揺れた。
地面から、わずかに身体が浮く。
そのままずっと高さを上げ――
まるで見えない足場でもあるかのように、音もなく抵抗もなく、軽やかに宙へと滑り出した。
そのままオレの周囲を一周するように、なめらかに飛び回り、やがてまたオレの隣に戻ってきた。
無駄な動きは一切ない。
ただ“浮いている”というより、空間に溶け込んでいるような自然さだった。
「おー!すげぇ」
そう言えば、最初に会った時も上からの登場だったな。
「ルピナの場合は、風の魔法を応用して飛んでるから。
それをオマージュ? ……模倣してみてよ」
「おう」
少し戸惑いながらも、今見たルピナスの動きを思い返す。
浮く感覚、空気を捉える感覚。
それを頭の中でなぞり、再現する。
「うぉっ……!」
ふわりと、自分の身体が浮いた。
「ルピーナルピーナ! できた――よぉぉぉぉ!?!?」
一瞬成功したかと思った。
が、次の瞬間、身体が急に勢いよく横へ流れた。
バランスが取れない。足場がない。
支えるものが、なにもない。
「うわぁ…!? まっ――!」
今度は逆方向へ。
さらに上へ、下へ、斜めへ。
自分の意志とは異なる動きで身体が振り回される。
まるで風に煽られた紙のように、制御が効かない。
「うわあああああやばいいいいいい!」
そのまま地面に叩きつけられる――
……はずだったが、
「――っと」
オレの身体は地面ではなく、アエリスの腕の中で、しっかりと受け止められていた。
そのおかげで衝撃はほとんどない。落下の勢いを綺麗に殺してくれていた。
「お怪我はありませんか?」
きゅん。
「う、うん…ありがとう」
至近距離で、アエリスが覗き込んでくる。
息も乱れておらず、最初から予想してたのではくらいの余裕だ。
「はっ…やっぱりね」
ルピナスが苦笑する。
「――制御が追いついてない」
「メチャクチャ危なかったナ」
二人も、「まあそうなるよな」みたいな顔をしていた。
「さっき言った通り」
また杖を一回転させる。
「魔法発動するだけじゃなくて、そのあと制御が必要な魔法は……アイトくんにはまだ早いわ」
「そうだね……」
「逆に言えば、ただ魔法を真っすぐ撃つだけ、とか雑に振り回しててもものになる魔法とかなら大丈夫だと思う。
細かな制御ありきの魔法は使わないが吉だね」
「分かった」
制御などが不要な物、あるいは不要とまでいかなくても簡単な物。
魔法を使いたい時は、ここらへんを中心に使っていくのがよさそうだ。
「――で、話戻るけど、ひとまずはアイトくんもさっき言った方針でいい?」
「方針って? すまん聞いてなかった」
「旅の間は、基本ルルルかアエリスちゃんに護衛として付いてもらうって感じ。
まだアイトくんはいろいろ素人だしってことで」
「あーうん……それはオレとしてはなんならありがたいけど。その護衛にルピーナはついてくれないの?」
「バカっ、ルピナス先はいざってなった時一人のほうがいいに決まってるデショ」
「そりゃどうして……」
いきなりそんな、誰かを省く的な話題になって、少し戸惑う。
「ルピナス様の隠し手札ですね」
「……そいえば、前もそんなこと言ってたな」
村の襲撃の真っ最中だった。
確かルピナス自身の口から「奥の手を使うとあなたが危険にさらされるよ」的な内容のことを言われた記憶がある。
「恩寵者だけが……特別な者だけが持つ異能――“特者能力”です」




