四芒星の功能-2
オレは少し考える。
規模は小さめで、魔法がある世界ならありそうな魔法。
「――よし」
オレは再度、首飾りの結晶へ意識を向ける。
そして思い描くのは、炎でできた剣。
鋭く短い、まさに今アエリスが握っている剣と、似たような形状のもの。
真っ直ぐ飛び、突き刺さる炎。
そのイメージを、強く固める。
しかし――
…………。
反応はない。
「……あれ?」
もう一度やってみる。
が、それでも何も起きない。
炎のイメージはできているが、さっきのような引き出される感覚がこない。
「出ないね」
それと同時に、体の内からなにかが抜け落ちるような、熱のない何かだけを吸い上げられていくような感覚。
さっき魔法を使った時もあったが、その時よりもわずかに大きい気がする。
「炎で剣の形を象った魔法、みたいなのを想像してみたんだけど……もしかしてこんな魔法存在しなかったのかな?」
「――いや、あるよ。
そんな感じの魔法、ルピナ使えるもん」
あっさりと言い切るルピナス。
「ソレニ…… “そんな魔法が存在しないから使えない”ってのは、理屈としてはあり得ない気がするカラナア」
「それはどういう意味?」
少しだけ面倒くさそうにしながら、ルルルは話し始める。
「魔法に“こんなものは存在しない”なんて枠組みはないッテコト。
想像で創造するものデアル以上、理論上、可能性は人の数ダケアル。
体系化され、一般化された魔法もたしかに多く存在はするケドオ、そんなのは全てジャナイ」
「ほ、ほへぇ……」
「本来、魔法とは各々の発想から思い描き、生み出されるもの。
ダカラ! 『そんな魔法はない』という考え方自体が、そもそも間違っているのダヨ!」
腕を組み、博士ぶった態度でそう説明するルルル。
なんか話が学問的になってきて難しい。
が、要は魔法の才さえあるなら、その人の発想と実力次第で、オリジナルの魔法も生み出していける、といった話だろう。
既存の魔法をマスターして戦うもよし。
自分に合った魔法を新しく創って、それで戦うもよし。
それがこの世界における“魔法”というものの在り方なのだろう。
ともあれ、 “この世に存在しない魔法だから使えなかった“という線は消えた。
とすると、使える魔法と使えない魔法の違い。
それは何なのだろうか。
そのころ、ルピナスも同じように考え込んでおり、こめかみに手を当て小さく唸る。
「――とりあえずさ、炎魔法だから使えるってわけじゃなさそうだよね」
「特定の属性の魔法を使える、って功能ではナイカ……」
しばらくの沈黙の後、「オッケェ」とルピナスは軽く手を叩き、
「次は、水の魔法を適当にやってみて! なんでもいいから」
“なんでもいい”って言われても難しいんだってば!
「例えばどういうのがある? 言ってくれたやつをイメージしてみるよ」
「うーん、そうだね。簡易なものがいいから……。
アクシアオルブっていう水の球をいくつかポンポン生み出して、それで攻撃する魔法があるから、それやってみよ」
「了解」
「あ、詠唱はなしでいいからね」
オレはひとつ頷き、言われた通り水の魔法を思い描く。
自分の周りに浮かぶ、丸い水の塊。
あるいはそれを、いくつか飛ばすようなイメージも。
…………。
だが、これも反応しない。
冷たさも重みも、何もこない。
「ごめん、ダメっぽい」
「ふーん……どうしたもんかなぁ」
「そもそも、水系の魔法はまだリアルでは見たことないから…ちょっと想像しづらいのかも」
「なるほど?」
「じゃあルピナス先、一回お手本見せてあげればいいんジャナイ?」
「――そうだね。
アエリスちゃーん! 一回ルピナが魔法撃つからお願いねー!」
アエリスが遠くから、剣を握ったまま腕をあげて応じる。
ルピナスはその禍々しい愛杖と共に、オレの隣まで歩み寄ってきて「よく見ててね」と一言告げると、
「――水の魔法、アクシアオルブ」
掌を軽く持ち上げ、短く唱える。
その瞬間、ルピナスの周囲の空気にわずかな揺らぎが生まれた。
何もなかったはずの空間に、水が滲むように現れる。
やがてそれは形を成し、人の頭ほどの大きさの水球が――一つ、二つ、三つ、と次々に浮かび上がっていく。
夕暮れの斜めの光を受けて、水球の中には木々の色が歪んで映っていた。
それを見て、「綺麗だな~」なんて思っていた、その直後。
「じゃあ、いくよ!」
その声と同時に、ルピナスの周りに浮かんでいた無数の水球が、一斉に弾けるように動き出す。
瞬く間に、すべてがアエリスへと殺到していた。
それを追うように視線を向けると、アエリスもすでに構えていた――。
さっきオレが放った炎流をしなやかに薙いだ時とは違う。
より低くより強い、地面を掴むような踏み込み。
全身に無駄のない力が行き渡っている。
「……!」
無数の水の球体が、弾丸のように迫る。
合わせてアエリスも動いた。
鋭く走った短剣の軌跡が交差する――。
一つ、二つ、三つ。
連続する斬撃が、飛来する水球を次々と切り裂いていく。
裂かれた水は霧のように弾け、空中で霧散する。
――だけじゃ終わらない。
次の一撃は、迫る水球二つをまとめて薙ぎ払う。
二つの刃が重なり、その名残だけが視界に刻まれる。
そしてすべてを正確に捉え、一切の取りこぼしなく斬り払った。
「す、すげぇ……」
実体験も踏まえての感想ではあるが、アエリス――この子は普段の淑やかな印象に反して、相当強いのかもしれないな。
無論、これは彼女に限った話ではない。
「ルピナスって…炎系統ばっか使ってたイメージだったけど、他の属性?とかもいろいろ使えるんだね」
「そりゃあ当然よ」
自慢げにニヤッとするルピナス。
「まあ得手不得手はあるけど、基本的にいろいろぶっ放せるよ!」
言い方がおっかないな。
「属性ってそんな簡単にまたげるものなんだ。
“炎の使い手は炎一筋だ!” みたいな前知識もってたから、意外っちゃ意外かも……」
「その印象も間違いではないよ。多種多様な魔法が使えるル・ピ・ナ! が、ただすごいだけだからな! っつって。
……でも、そもそも“属性”って分け方自体が曖昧なものだからさ」
「曖昧?」
「例えば、氷系の魔法は水属性の一つなのか? それとも”氷”という属性なのか? とか。
霧系の魔法は水なのか風なのか? とか。人によって主張はさまざまだから」
「あくまで人間が作ったものダカラナ」
ルピナスは杖をペン回しのようにくるっと回転させ、手の中に収める。
「ま、そんなことはどーでもいいのよ。次はアイトくんだよ。
今ルピナが見せたやつ、やってみて!」
「……分かった。
アエリスさーん! オレも水の魔法をやってみまーす!」
離れたところにいるアエリスへ一報を送り、オレは再び構え直す。
ルピナスが浮かべていた無数の水球。
丸い形。
透明な揺れ。
冷たい重さ。
できる限り、見たまんまの景色を思い描く。
――すると、今度はすぐに反応があった。
掌の前の空気が揺らぎ、透明な塊がひとつ浮かぶ。
さらにもうひとつ、もうひとつと、オレの周囲にも水の塊が浮かび始めた。
「っ! できた……!」




