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2人の贖罪-世界+ ~命《いきる》を選んだその先は~  作者: 【表現者の蕾】/ようかの夜
第2章

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踏み込んだ先






「確か角部屋って言ってた……」



 小さく呟きながら、オレは廊下の奥へと歩いていく。


 昼の光が差し込む廊下は明るく、おいしいご飯を食べたオレの気分もすっかり明るくなっていた。

 さっきの嫌な出来事で湿っていた気持ちも、今はもう遠くなっている。



「多分ここか」



 廊下の突き当たり、そこにある扉の前で足を止めた。


 角部屋だからか、扉の両脇の壁にも余裕があり、他の部屋よりも少しだけ広そうな部屋だ。

 特別な一室、みたいな雰囲気はある。


 ルルル。

 どんな人物なのだろう。


 そんな期待と興味を胸に、軽く息を吸い、扉を10回ほどリズミカルに叩いてみる。




 ――反応はない。




 勢いで少しふざけたのがなんとなく気まずくなり、次は2,3回、ちゃんとノックしてみる。


 それでも反応はない。



「……いないのかな」



 部屋の中からは、返事はない。

 少し迷ってから、オレは扉に手をかけた。



「失礼……しまぁす…」



 様子をうかがいながら扉を開けると、中は思っていたよりも広かった。

 少し散らかってはいるが、家具はそれほど多くはない。


 そして、奥の方に人影が見えた。



「あの――」



 声をかけながら、一歩踏み出した時には――もう遅かった。


 足の裏に、言いようのない妙な感覚が走る。

 踏んだはずの床が沈んでいくような、足裏の感覚が不自然に消えるような……そんな感覚だ。


 遅れて、空気が揺れ始め、音も遠くなっていく――。



「――な、に!?」



 視界が歪んでいく。


 部屋そのものが揺れているわけではない。

 まるでオレの周囲だけが、別空間へと締め出されるかのようにぶれていく。


 身体が急に軽く……いや、軽いとも違う。


 足元が軽くなるような、腹の底がふっと浮くような。

 高い場所から落とされる瞬間を引き延ばしたみたいな感覚だ。


 のどの奥がひゅっと縮む。



「はっ――」



 思わず口を開いた時、奥にいた人影がはっきりと動くのが見えた――。



「んー? 誰……って、なんで飛ば…待っ――!」



 男なのか女なのか分からない声。


 その声が最後まで聞こえきる前に、景色は塗り替わる。

 天井と床の区別が消え、光と影が交差する。


 耳鳴りもひどくなり、身体の輪郭がばらけていくような気がした。




 ――そして気づいた時には、オレの身体は硬い地面にどさっと叩きつけられていた。




「……ぁ…?」



 痛みはない。体にも異常はなさそうだ。

 だが、世界が静かすぎる。


 オレはしばらくそのまま動けずにいた。


 頬に触れる地面は少しざらついていて、ひんやりとしている。



「……どこだ、ここ」



 ゆっくり顔を上げると、周囲は昼とは思えないほど異様に暗かった。

 しかし、真っ暗というわけではなく、かすかに光はある。


 さっきまでいたはずの、館の一室とはまるで違う。湿った、重たい薄暗さだった。



「洞窟……?」



 そうとしか思えなかった。


 岩肌がむき出しになった壁。

 足元には砂利と土のようなものが混じり、ところどころ水気を含んでいる。

 天井はそれなりに高く、圧迫感はない。


 人が歩くぶんには、十分な広さのある空間だ。


 だからといって、安心感は欠片もない。


 水滴の音や風の抜ける音くらいしてくれてもよさそうだが、妙にしんとしている。

 自分の呼吸だけが、やけに響く。



「オレ、何を……」



 転送させられる直前のことを思い出す。


 広い部屋に、奥の人影。

 少し進もうとしたときに、あの異変。


 何が起きたのかは分からないが、多分の部屋の中にあった何かに触れてしまって、オレは飛ばされた。


 おそらく魔法によるトラップ的な何かだとは思う。

 そのくらいしか考えられない。



「だとしてもイタズラが過ぎるな……」



 転送前に見た人影に向かって、届かないであろう悪態を吐き捨てておく。


 あれがルルルと呼ばれている人物、と見ていいだろう。


 とにかく立ち止まっていても仕方ない。

 洞窟の道は一方向に伸びているようだったので、ひとまず前に進んでみることにする。


 靴裏が砂利を踏み、じゃり、じゃり、と乾いた音が響く。

 足場がそこまで悪くないのが、せめてもの救いといったところだ。




「……?」




 それから何歩か進んだところで、オレはふと足を止めた。



 音がしたのだ――。



 もちろんオレのものじゃない。

 遠くの方から、何かがこちらに近づいてくる。



 コツ。


 少し間があって、


 コツ……。



 足音に思えたが、それにしては妙に感じた。


 一定のようで、一定じゃないからだ。

 両足で歩くなら生まれるはずの、交互のリズムがない。


 靴音であるが、歩き方が人間じゃない。

 そんな()

 あるいは、異様にゆっくり歩いているだけなのか。



 コツ……コツ……。

 と湿った空気の中で、その音だけが気味悪く反響する。



 喉がひどく乾く。

 気づけば、呼吸を浅くしていた。




「だ、誰かいるー!? ……いるなら返事してー!」




 曲がり角の向こうから、何かが来る。


 身体が硬直する。




 ――そのとき、影はぬっと現れた。




「っ……!」




 息が詰まる。



 それは、生き物と呼んですらいいのか分からない不条理な存在だった。






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